見出し画像

2.いい家だよな〜/ロバート・ハリス、家を建てる。

 家を建てるにあたってまずやったことは、家族で「住まい会議」を開き、ぼくと奥さんと娘とで、どんな家に住みたいかを自由に書き上げることだった。予算のこととかはまず横に置いといて、それぞれの理想の家のアイディアをオープンに、思い付いたままに、書き綴って見ることにしたのだ。

二日ぐらいかけて3人が考えた理想の家の条件は次のようなものだった:

*ゆったりしたキッチン・ダイニング・リビング *道路から家の中が見えない *彫りの深い、カッコいい外観 *吹き抜け *高い天井 *屋根付きのガレージ(車2台) *庭に出られる大きなガラス戸 *2階の南側と西側にベランダ(みなとみらいの花火と富士山が見えるように) *奥さんとぼくのそれぞれの書斎 *掃除がしやすい *埃がたまらない *採光がいい *窓が多い *風通しが良い *湿気が少ない *冬に暖かくて、夏に涼しい *収納が多い *光熱費があまりかからない *庭の手入れが楽 *床暖房 *太陽光発電 *シュー・クローゼット *広めの主審室withウォーク・イン・クローゼット *2階にエアと、2、3年後にオーストラリアから住みにやって来る息子シャーの2階の広めのベッドルームと、二人の部屋の間のリビングルーム *最小限の廊下スペース *緑豊かな庭 *ゆったりとした玄関ロビー *フローリング *大きさは最大で50坪ぐらい

ざっと言うとこんな感じである。欲張り過ぎ?確かにそうかもしれないけど、上筆したようにこの時点で大切なのは、予算を度外視して、どんな家に住みたいのか、三人で自由に思いを巡らせることだった。

昔々、父親が小さめの家から今のデカイ家に建て替えた時のことはよく覚えている。家から100mほど坂を下ったところに三叉路があるのだが、会社に向かう父は毎朝そこで立ち止まっては振り返って家を仰ぎ見、満足そうに目を細めていた。ぼくが横にいる時は決まって「いい家だよな、ボビー」と嬉しそうにつぶやいていた。

父親とは最後までそれほど親しくはなれなかったけど、この時の彼の顔は好きだった。そして、ぼくもいつか彼のように自分が建てた家を仰ぎ見て、「いい家だよな〜」とつぶやいてみたいと幼心に思った。そして今、あの時の自分のことを久しぶりに、そう、何十年ぶりかに思い出し、あの時の夢を実現したいなと素直に思った。

一旦家を建て替えようと決めてからはことがどんどんと前へと進んでいった。人間、腹を決めるとびっくりするぐらい行動的になるものだ。

展示場で何気なく入った大手ハウスメーカーのモデルハウスの営業担当から始まり、友達に紹介された建築家やアーキテクトの友人など、家作りのプロたちと積極的に話のやり取りを始め、家の測量や地盤調査なども早い時点で行った。

建築に関する本や雑誌なども何冊か購入しては読み耽った。横浜や東京はもちろん、埼玉や千葉の住宅展示場へも足を運び、様々なモデルハウスを見学した。ハウスメーカーの住宅フェアへ行って耐火や耐震の講義を聞いたり、工場などを見て回ったりもした。

このような活動を半年も続けていくと、建築の諸々に関してそこそこの知識はついていくものだ。

耐火や耐震のことはもとより、耐久、断熱、在来や2×4、2×6といった工法、構造、建材、土台、風の流れ、水回り、換気、機密性、暖房/冷房方法、果てはシロアリ対策など、我々は家作りの様々な側面についての理解を深めていった。

特に父親が一級建築士だった妻は専門用語などをすらすらと使いながら建築家たちとやり取りするようになり、ある日、大手ハウスメーカーの建築家がぼくに、「ハリスさん、奥さんと話していると、なんか、スタッフと打ち合わせをしているような気分になります」と言って笑っていたぐらいである。

因みにその建設関係の方々だが、ぼくたちは大手と中堅ハウスメーカーから個人の建築事務所、そして広範囲で展開しているアーキテクト集団と、合わせて9社の営業担当や建築家たちとやり取りをしてきたが、皆さん、一貫して、感じのいい人たちだった。

もちろん人それぞれで、クールでビジネスライクな人もいたし、話好きで人懐っこい人もいたし、シャイで物腰の柔らかい人もいたが、みな、誠意を持ってぼくたちの夢や希望に耳を傾けてくれた。そして誰といても、根底にはいつも、一緒にゼロから家を建てるんだというワクワク感のようなものが流れていた。職業は人間を作ると言うが、家を作るという仕事は根本的にはハッピーな職業なのだなと改めて実感した。人の夢と希望が詰まった仕事なのだ。

ぼくたちが最初に接した大手ハウスメーカーの新人営業担当の青年などは、最終的には価格的にどうしても折り合いが付かず、彼とはたもとを分かつことになってしまったのだが、そのあとも住宅展示場で会うと笑顔で駆け寄って来て、家作りの進行具合などについて、フレンドリーに話しかけてくれる。

彼らとのトークの中でよく聞かれたことは、ぼくたちにとって、家の中でいちばん重要な場所はどこか、ということだった。娘は2階の自分の部屋、と言ったが、ぼくと妻にとっていちばん大切な場所は、家族全員が集い、憩いの時間を過ごすリビングである。

26年前、ぼくたちが新婚旅行でモロッコへ旅したとき、マラケシュでガイドをやってくれた男の口車に乗って、ベルベル人の編んだ大きな(6畳)カーペットを二枚も(一枚が白、一枚がブルー)買ってしまい、あまりにも大きいので使い辛くてずっとしまっておいたのだが、今度こそぼくたちの理想のリビングにこれを敷こうと思う。その上には家族全員でゴロゴロできる大きなソファを置き、テレビを観たり、映画を観たり、音楽を聞いたりして、憩いのひとときを過ごすのだ。

そしてたまにそのソファに座って辺りを見回し、「いい家だよな〜」と誰にともなくつぶやくのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?