レーザー刻印でオリジナルキーキャップを作る
2023-09-11追記:この記事の例ではXDAプロファイル(すべてのキーの高さが一定)のキーキャップを使用しています。キーによって傾斜や高さが異なるプロファイルのキーキャップを使用した場合、レーザー刻印の出方が安定しなくなる可能性があります。そのようなキーキャップで試す場合は、それぞれの傾斜・高さについてテストすることをお勧めします。
はじめに
皆さんは自作キーボードを使ってますか。僕も今まで幾つかのキーボードを組み立ててきて、それぞれ面白い持ち味があるのですが、事務所用として最近はAJisai74に落ち着いています。
すごくドラスティックな配列というわけではないのですが、Adobe系のソフトでショートカットキーを多用する+ノートPCもそれなりに使うので頻繁にスイッチが発生する、という状況下ではとても気に入っています。
ただ、小さめのキーを多用する配列のため、普通の104キーボード用のキーキャップだとキーが足りません。そのため使えるキーキャップの選択肢が限られ、いまひとつ納得のいくものが見つかっていませんでした。
そこで、ブランクのキーキャップを購入し、自分で刻印してみることにしました。ブランクのままでも使えないことはないのですが、特に映像編集などをしていると片手をタブレットやマウスに置きつつ、ホームポジションから外した状況でショートカットを押すことも多く、やはり印字してあるほうがストレスが少ないのです。
また、個人的に現状のキートップの書体があまり気に入っておらず、自分の好みのデザインを作りたいというモチベーションもありました。
刻印用の治具をつくる
まず、複数キーをまとめて印字するため、キーを保持するための治具を作ります。キーをノギスで測ると縦横幅が実測18.0mm前後。キーをぴったりはめこむためにどの程度大きめにカットすればいいのか不明だったため、17.8mm〜18.4mmまで0.1mm刻みで穴をあけました。18ミリ以下のものも作っているのは、レーザーカッターで部材に穴を空けると“切りしろ”のぶん穴が大きくなるため、小さめの寸法で丁度よくなる可能性もあるかと考えたためです。
検証の結果、実寸プラス0.2mm程度の設定が丁度よさそうです。プラス0.4mmにすればよりスムーズに外せますが、今回は穴にキーをはめこんだまま持ち上げる必要があるため、ある程度ぴったり保持できる小さめの穴にしました。必要数分の穴をMDFに空けて治具にします。
キートップのデザイン
基本的にはシンプルな仕上げを目指しますが、折角なので少しだけ特徴をつけようと思い、「細いイタリック体にする」「メインキーを小文字にする」「一般的なキートップよりも大きめの文字にする」としてみました。キートップが基本大文字なの、画面との対応づけという意味では個人的にずっと疑問だったりします。
メインの書体はGraphikです。HelveticaやUniversよりも若干幾何学的で明るく(文字の囲われた部分=ふところが広く)、Futuraよりはヒューマニスティックでしょうか。クリアな形がとても好きな書体です。メインのキーに比べて、1や2などはサイズを小さくする必要があり、そのぶん微妙に細くなってしまうので、1つ1つパスのオフセットで微調整してなるべくすべてのキートップの文字の太さが揃うようにします(上のキャプチャは太らせる前なので、「1」「!」が「q」よりも細くなっています)。
ニコちゃんマーク的なアイコンは輝度調整キー用です。「秀英角ゴシック」の晴れマークがカワイイのでそのまま使いました。隣のシュンとした顔はそれに合わせた自作なのですが、データのミスで刻印時に目と口がなくなっちゃいました…。MacのCommandマークはシステム付属のヒラギノ系書体に含まれているのでそちらを流用します。矢印系は「たづがね角ゴシック」です。公共サイン的な処理の矢印で、書体に含まれているものとしてはとても好きです。
位置合わせの手順
正確な位置合わせのため、レーザーカッターに治具よりも大きな寸法のMDFをあらかじめ入れておき、治具の外寸と同じ大きさの「破線の長方形」のみ刻印します。
この長方形にぴったりと治具を合わせることによって位置を揃えます。
位置合わせの手順についてはこちらの動画も参考になりました。ありがとうございます。
↗レーザーカッターでキーキャップをJIS刻印する(インケンch)
レーザー出力の検討
キーキャップにどれくらいの出力のレーザーをあてれば刻印できるのかわからないので、いくつかパラメータを変えてテストしてみたところ、今回使用する Etcher Laser Pro に関してだと、このあたりがよさそうです。
ただ、文字の周囲に茶色い汚れが発生してしまいました。
こうした加工汚れを防ぐには表面にマスキングテープを貼ったまま加工すると良いと聞き、試してみたところかなり改善。
文字は真っ黒にはならずダークグレーという印象ですが、むしろ丁度よいコントラストです。細い書体がちゃんと出るか不安だったのですが、エッジはシャープで良い感じです。
本番加工
というわけでいよいよ本番加工です。治具にキーキャップをはめ込んで…
汚れ防止のマスキングテープを貼ります。
やってみると分かったのですが、キーキャップを全てはめ込むと治具全体が若干反り返ってしまいました。穴の寸法が小さすぎるところに無理やりはめ込んだせいかもしれません。治具をもう少し厚い素材にしたほうがよかったかも。
そのあたりの教訓は次回に生かすとして、太めのマスキングテープで位置合わせ用の底材に貼り付けてどうにか平面性を保たせます。
おもむろにスタート。
40分ほどで加工終了。
完成品をチェックすると、全体的に刻印位置が0.5mmほど右にずれてしまいました。ぱっと見はわからないですが作った本人としては気になります…。位置合わせの甘さが原因ですかね。はじっこ1つだけ刻印して微調整するステップを踏んだほうがいいかもしれません。あるいは、そもそも多少ズレても大丈夫なデザインにしたほうがよかったかも。まあこれも次回の教訓にしましょう。
完成
そんなわけで入れ替えてみました。
微妙なずれとか、迂闊なことにバックスラッシュキーの出力忘れとかいろいろありますが(こんど出し直そう)、見た目のすっきりさはとても気に入りました! ここまで細くてシャープな書体はあまり見ないので新鮮です。
まとめ
自作キーボードは余計なキーを大量に使うため、穴埋めのために実際の機能と異なるキーを入れることがよくあります。キートップの文字を自分で刻印すれば、好みの書体にできることもありますが、自分が設定した特殊なキーも一環したデザインで作れるのが魅力です。
キートップに印字するにはほかにもUVプリントやアイロン転写など幾つかの方法がありますが、レーザー刻印は原理上薄くならないこととまとめて刻印できるのが魅力でしょうか。また気分が変わったら作ってみようかと思います。
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