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【現状維持バイアス対策】ガソリンスタンド店長の人事異動による効果を最大化させる方策とは

1.人事異動で問題となる現状維持バイアスとは?


 複数のガソリンスタンドを運営する企業において、店長の人事異動は店舗活性化の重要な戦略です。しかし、新たな店長が赴任しても、もともとその店舗で働く従業員が持つ「現状維持バイアス」によって、なかなか思い通りの結果が出ないことがあります。

 現状維持バイアスとは、変化を好まず、現状を維持しようと考える傾向による誤った意思決定を指します。これは、安定を維持することでリスクを回避しようとする本能的な心理と言えます。例えば以下が挙げられます。

  • 転職する勇気が出ない:新しい環境への不安や、現状の安定を維持したいという気持ちが、転職への一歩を踏み出せない原因となります。

  • 三日坊主で終わる:新しいことを始めると、脳に負荷がかかります。そのため、現状維持バイアスが働き、三日坊主で終わってしまうことが多くなります。

  • 引っ越しに踏みきれない:引っ越しは、住環境を変えるだけでなく、人間関係や生活習慣も変えることになります。そのため、現状維持バイアスが働き、引っ越しを躊躇させてしまうことがあります。

  • 同じ店に通う:知らないお店に入店するには、情報収集や試行錯誤が伴います。現状維持バイアスが働くと、面倒くささを理由に、いつもと同じ店ばかり選んでしまうことがあります。

  • サブスクを解約できない:すでに利用していないサブスクサービスでも、解約手続きの手間や、これまで払った料金を無駄にしたくないという気持ちから、解約を先延ばしにしていることがあります。

 では、ガソリンスタンドで店長の人事異動があった場合、現状維持バイアスがどのような影響をもたらすのでしょうか。

  • 新しいアイデアへの抵抗:新任店長が持ち込んだ斬新なアイデアに対して、従業員が過去の経験に固執し、受け入れを拒否してしまうことが考えられます。

  • 改善活動への消極的な参加:変化を好まない従業員は、改善活動への参加意欲が低いため、活性化に向けた取り組みが停滞してしまうことが考えられます。

 では、このようなリスクはどのようにして最小化するべきなのでしょうか。

「わかっちゃいるけど現状を維持しようとするんやで」

2.まずは店長の心構えから

 現状維持バイアスの影響を最小化するためには、まず、不用意に現状維持バイアスを高めないことを意識しましょう。

 それまでの店長の色を消して、早く自分の色に染めようという意識が強過ぎる新任店長は、それまでのやり方を否定しがちになります。ですが、そのような姿勢は、それまでのやり方に馴染んできた従業員の否定にも繋がりかねません。

「店長として、部下の否定は否定されるべきなんやで」

 それまでのやり方もきちんと認めた上で、自分の色を出すようにしましょう。その上で、以下に示す、コミュニケーションの円滑化と適切なリーダーシップの発揮を意識しましょう。

3.コミュニケーションの円滑化

 コミュニケーションの円滑化を図る方策として、本稿では「ジョハリの窓」を取り上げます。これは、アメリカの心理学者ジョセフ・ルフト氏とハリ・インガム氏が提唱した、自己理解とコミュニケーションに関する理論です。

 人は自分自身について、「自分が分かっている自分」と「自分が分かっていない自分」、「他人が分かっている自分」と「他人が分かっていない自分」という側面を持っており、これらを組み合わせると下図のように4つの「窓」と呼ばれる領域が出来上がります。

 それぞれの窓は以下の意味を持ちます。

  • 開放の窓:自分も他人も分かっている自分のこと。例えば、他者へオープンにしている性格や趣味など。

  • 盲点の窓:自分は分からないが、他人は分かっている自分のこと。例えば、癖や姿勢、表情など。

  • 秘密の窓:自分は分かっているが、他人は分からない自分のこと。例えば、他人には知らせていない過去の経験や個人的な趣味など。

  • 未知の窓:自分も他人も分からない自分のこと。例えば、潜在的な能力や可能性など。

 ジョハリの窓では、開放の窓を広げることで、コミュニケーション力が高まるとしています。よって、新任の店長は自己開示をして、開放の窓を下へ広げ、秘密の窓を狭めます。その上で、部下からフィードバックを傾聴して開放の窓をさらに横にも広げ、盲点の窓を狭めていきます

 これによって、赴任先の従業員は、新任店長の人となりが理解しやすくなり、コミュニケーションの円滑化を通じて、店長の新たな方策を受け入れることが期待できます。

「部下のリスペクトに基づく自己開示と、部下からのフィードバックの傾聴が重要なんやで」

4.適切なリーダーシップ

 適切なリーダーシップについて、本稿ではSL(Situational Leadership)理論を取り上げます。これは、アメリカの経営学者ポール・ハーシーとケネス・ブランチャードによって提唱されたリーダーシップ理論です。この理論は、リーダーが部下の成長段階に合わせて、適切なリーダーシップスタイルを使い分けるべきであると主張しています。

 SL理論は、リーダーが明確な指示を与え、部下の行動をコントロールする行動である「指示的行動」と、リーダーが部下に仕事を任せ、その仕事のプロセスを支援し、関係を築く行動である「支援的行動」を軸に取ります。

 そして、これらの軸に基づいて、リーダーシップスタイルを以下の4つに分類しています。

  • 指示型リーダーシップ:指示的行動を多く、支援的行動を少なくして、教育に注力するリーダーシップ。新入社員や、指示を必要とする部下に対して有効。

  • 説得型リーダーシップ:指示的行動を多くするとともに、簡単な仕事を任せ、そのプロセスを支援する行動が多いリーダーシップ。ある程度経験を積んだ部下に対して有効。

  • 参加型リーダーシップ:指示的行動は少なくし、管理や人材育成など、より難易度の高い仕事を任せ、そのプロセスを支援する行動が多いリーダーシップ。経験豊富な部下に対して有効。

  • 委任型リーダーシップ:指示的行動も支援的行動も少なくして、本人の自主性を重視していくリーダーシップ。高い自律性を持つ部下に対して有効。

 このように、部下に応じたリーダーシップスタイルをとることによって、新任店長の信頼度を高め、現状維持バイアスを最小化するようにしましょう。

「部下に応じて指示と支援の量を変えるんやで」

5.まとめ

 ガソリンスタンドの活性化において、店長の人事異動は重要な戦略ですが、現状維持バイアスの影響によって、効果が阻害されることがあります。新任店長は、コミュニケーションの円滑化と適切なリーダーシップをとることで、現状維持バイアスの影響を最小化し、店舗を活性化するようにしましょう。

 また、人事異動を発令した経営陣は、そのような店長の取組みをフォロー、サポートしていく必要があります。

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