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矜持を感じ入る~アーティゾン美術館「STEPS AHEAD」

最近は美術館も予定通りに開いてなかったりするので、愛好家からすれば開いているだけでもありがたい限りであろう。
今回は緊急事態宣言下でわずかに開館していた美術館のひとつ、アーティゾン美術館へ。

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アーティゾン美術館は昨年のリニューアルオープンまで休館していた間にもコツコツと収蔵品を増やしていた。

石橋財団の近年の収集は、印象派や日本近代洋画など従来の中心となるコレクションを充実させる一方で、抽象表現を中心とする20世紀初頭から現代までの美術、日本の近世美術など、コレクションの幅を広げています。

抽象絵画はまだまだ自分にはわからないことも多いのだが、新たな発見を得た作品もあり、そういう意味でやはり良質な展示をしてくれている展覧会であった。

藤島武二「東洋振り」

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美しい女性の横顔。額から鼻筋、顎を通って首にいたるまでの曲線が、なんとも美しさを演出している。このポートレイトスタイルは、イタリアルネッサンスの絵画を髣髴とさせる。事実藤島もこう述べている。

イタリアの文芸復興時代には女の横顔の描写が多かった。ピエロ・デルラ・フランチエスカ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの絵を見た感じが、如何にも閑寂な東洋的精神に交通してゐるので、ミラノの美術館の壁面に見飽かぬ凝視を続けてゐたものであつた。(中略)日本の女を使つて東洋的な典型美をつくつてみたかつたのである。文芸復興期のそれらの東洋風な横顔が私をそこへ運んでくれたといへば、画因の説明は足りてゐる。

藤島と言えば、私のお気に入りの「黒扇」も同じフロアに掲げられていた。

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こちらは1908年頃、滞欧中に制作された作品。印象派の影響が強く感じられる作品ではなかろうか。先の「東洋振り」は1924年の制作なので、その後の画業の変遷が伺える作品とも言えよう。

ジャン・メッツァンジェ「円卓の上の静物」

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この作家、今までどこかの美術館でお目にかかったことのあったかもしれないが、意識して作品を鑑賞したのは初めてである。
キュビスムの手法をとりながら、決して個々の静物の造形だけに捉われることなく、全体の均整が保たれており観る者に安心感を与えてくれる。
それはメッツァンジェ自身の意図したことであったようで、キュビスムの先駆者たるブラックからは距離を置き始めたころの作品だという。
そのブラックの作品がこちら。「円卓」という作品。

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彼の作品も決して、無秩序に堕しているわけではない。より物質性を追求し、その手触りさえも視覚から訴えようとしている。ブラックもとても好きな作家である。

ヴァシリー・カンディンスキー「3本の菩提樹」

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1908年、まだ抽象絵画の前の作品である。あえて言えばフォーヴィスムのような筆致である。後年の彼の作品を知る人からすれば、カンディンスキーの作品とはわからないだろう。

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こちらは1924年の作品「自らが輝く」。前の作品と違って抽象画ではあるが、キャンバスから音楽が聞こえてくるようではないか。彼の作品はよく音楽と関連して語られることが多いが、全体を覆う淡いピンクのトーンも相まって、多幸感あふれる作品である。観ているだけで楽しい気分になる。

アンリ・マティス「自画像」

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会場最後を飾っていたのはこのシンプルさ極まった作品!ペンの運びにはまったく迷いがない。
こんな絵をさらさらっと描ければどんなにいいだろう。

やっぱり期待を裏切らないアーティゾン美術館。
美術は不要不急ではないことをこれ以上ないほどの多弁さをもって、言い表している、そんな矜持を感じさせる展覧会であった。

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