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リール・アラウンド・ザ・ファウンテン/ザ・スミス Reel Around The Fountain The Smiths

「これって日本で言うとザ・鈴木さんてことだよね」とU村さん。

俺はそんなこと思いもしなかったけど、確かにそういうことだよな。
変なバンド名。
実際後にザ・ムーンライダーズの鈴木慶一さんと弟の鈴木博文さんの二人で、「THE SUZUKI」というユニットを組んでCDを出したりしている。
まあそういうことなんだろう。

当時ラフ・トレードというレコードレーベルはキャバレー・ボルテールやポップ・グループ、ザ・レインコーツなどのアバンギャルドで過激な思想の音楽からヤング・マーブル・ジャイアンツやアズテック・カメラのようなネオ・アコースティック系の音楽へとシフトしているタイミングという印象があった。
そこにきて超大型新人と契約を交わしたというニュースが流れてきて、これは聴いてみないといかんと思ったのだった。
英国盤から少し遅れる形で国内盤の「ザ・スミス」が発売になった。
インタビューの赤いソノシートが同封されていた。
聴いたところで意味が分からないので、一度聴いたきりになったが。

少し憂鬱げな青年の上半身が茶とブルーの2色で印刷され、「むむむ、カッコいいではないか」と思わずにはいられないジャケットで一発で気に入った。
良くは分からないけど英国、マンチェスター特有のダウナーな感じというか曇天模様というか行き場のない怒りや悩みがジャケットに表れている気がした。
まさにこのジャケットしかありえないのだろうな。

1曲目に針を落とした。

「ドッタドドッタドドッタタスタタン」少しリバーブのかかったシンプルなドラムの音が静かに響き渡った。

えええええええええええ?

こんなに音数が少なくて大丈夫なの?
と聴いているこちらが心配になるほどのシンプルさだった。
そのくせ今から何か分からないけど新しいことが始まりそうな、予感めいたものを感じさせてくれた。
体がビリビリとしびれていくのが分かった。
続いて少しアンニュイな気だるさとジャケットの男と思しき貧弱そうな、しかし英国に恨みでもあるかのような、ねっとりと絡みつくような声のボーカルが始まる。(実際にはジャケットの男ではなかった)
少し遅れてクリアーなトーンで澄んだギターのアルペジオがこれまた特に何の衒いもなく、ごくごく当たり前のように音数少なく絡んでいく。
最初の30秒ぐらいでもう独特な宇宙ができあがっていて、そこから逃れることができなくなっていた。
このザ・スミスの呪縛はその後20年ぐらいの間、そう、結構な大人になってもまだ熱病のように続いた。
すかさずディス・チャーミングマン、ホワット・ディファレンス・ダズ・イット・メイク、ヘヴン・ノウズ・アイム・ミゼラブル・ナウの12インチシングルも買った。
そして繰り返し聴いた。
本当に熱病にかかったようだった。



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