見出し画像

創業1期目から黒字のスタートアップがカミナシとのM&Aを選択した理由

StatHackは現場DXプラットフォーム『カミナシ』を提供するカミナシに100%の株式を譲渡し、グループジョインすることを発表しました。


創業からちょうど2年、一つの区切りをつけ更なる挑戦に向け走り出すことになります。
これまでStatHackとして広く対外的な発信することは少なく、noteを書くのはこれが初めてとなるので、我々StatHackの成り立ちも含めて、このM&Aの経緯と、これからやっていくことを整理してお伝えしようと思います。

(このM&Aにあたって、カミナシサイドでこれまで一緒に進めてくださった河内さんのnoteも合わせてご覧ください。)



自己紹介:松葉亮人と申します

自己紹介が遅れましたが、株式会社StatHack 代表の松葉と申します。
StatHackは、私が早稲田学部4年の時に創業した会社で、製造業 x AIの領域で現場を変えるソフトウェアを提供しています。


創業のきっかけ

私のキャリアの始まりは、製造業AIスタートアップでのエンジニアインターンです。創業初期のカオスの中、AIの可能性、ソフトウェア開発の面白さ、泥臭い営業の美しさなど今の創業につながる要素の多くを当時の社長の背中を見て学びました。
一方で営業と開発の対立など、事業運営の難しさも多く知りました。開発は顧客が見えにくい、営業は開発の過程が見えにくいという、情報の不透明性の中で、開発メンバーが、営業や経営陣と理解し合えず疲弊して会社を離れていってしまうという苦い経験もありました。

そこで感じたのは、自分が誰のためにものを作っていて、誰がどう喜んでいるのかという鮮明な感覚が持てないと、モチベーションを保って仕事をするのは難しいということでした。生産物への帰属意識が薄れ、自らの生産活動が、創作から単なる作業になってしまい虚しくなるからです。
私も1年間働いた後に辞めてしまったのですが、辞めていったエンジニア一人一人を思い浮かべながら、「自らの作り出すものに帰属意識を持って、幸せに価値提供できるような会社を作って、少なくとも自分の周りは皆幸せに働けるようにしたい」と思ったものでした。
(そして現在、メンバーから「これまでStatHackで働いてきてずっと楽しかった」という声を聞けるまでになり、この頃の思いは小さいながらも達成できているなと、報われる思いです。)

この1社目の製造業AIスタートアップを辞めた後、AIと起業の知見をさらに深めたいと思い、松尾研究所でインターンとして建築図面の画像認識を行う共同研究プロジェクトに携わります。

松尾研では、先輩が上場していたり、同じ共同研究プロジェクトのメンバーが創業して組織を急成長させてたりと起業が当たり前な世界でした。そんな環境の中、自分も今やらない理由はないと創業を決意し、今に至ります。(松尾研にはインキュベーションチームというスタートアップを支援する専属のチームがあるのですが、登記手続き、契約の巻き方など現在に至るまで様々な支援をいただき大変お世話になりました。)

StatHackの創業メンバー。左から村田(松尾研プロジェクトのPM)、渡邉(製造業AIスタートアップの時のメンバー)、松葉、井上(研究室の同期)

ミッション:楽しい労働体験が当たり前になる世界を作りたいと思った

StatHackは「労働を変える」ことを目指し、「業界最高のUXでソフトウェアを提供し、働く人の幸せを達成する」をミッションに掲げています。私が労働を変えたいと漠然と思うようになったきっかけは、労働に幸福を見出せずに疲弊している社会の雰囲気を感じて、そんな世界を変えたいなと思ったことでした。
学部の頃から私は、エンジニアとしてVSCodeなど最高のUXで、オーナーシップを持ってプロダクト開発をしていて、仕事は楽しくて仕方ないものでした。そして周りのエンジニアも同様に楽しんで仕事をしていました。
エンジニアの楽しさは、開発環境の体験の美しさからくる部分があることを体感していたので、他の業界でも同じように仕事が効率的に楽しくできるソフトウェアを開発し提供すれば、労働が楽しくなるなと考えたのです。

どう森みたいな楽しい労働体験が当たり前な世界

私が小学生の頃好きだった「あつまれどうぶつの森」というゲームでは、ベル(お金)を稼ぐ時、果物を採取したり、魚を釣ったりする必要がありました。ゲームの世界ではそれが労働にあたるのですが、労働それ自体に楽しさがあります。楽しむために作られたゲームの中だから当たり前なのかもしれませんが、私にとっては現実世界も楽しむためのもの、幸せになるためのものなので、楽しい労働体験が当たり前な世界でないと、生きる意味がないと思ったのです。

事業紹介:製造業 x AIの領域で現場を変えるソフトウェアを提供してきた

StatHackはこれまで製造業のお客さんと共に、金属パイプの傷検査、金属足場のネジ個数検査、パイプ出荷前員数検査など、画像AIを用いた現場の業務効率化に取り組んできました。
(私がなぜ製造業という領域を選んだかについては省略します。また別のnoteで詳しく書くかもです。)
製造業にAIを入れるということは、”AI”のもつ手軽でスマートなイメージとは全く逆の、現場にどっぷり浸かった泥臭い作業です。まず現場で意味のあるデータを収集するところから始めなければいけません。そして、精度100%は不可能なAIと、万が一のミスや事故も許されない製造業の品質基準の板挟みの中で、ソフトウェアやワークフローを工夫してビジネスインパクトを出さなければいけません。
製造業と一口に言っても食品、自動車、金属、樹脂など業界は多岐に渡ります。そしてその中の例えば金属製造に絞ったとしても、製品の形状、大きさ、製造工程は各社各様に異なります。
我々は、顧客企業ごとの製品や出荷の事情に合わせてソフトウェアを提供する受託開発という形をとることで、深く業務に入り込んで価値を提供してきました。

金属足場製造のタカミヤ様とのスパイダーパネルAI外観検査の例


M&Aのきっかけ:Startup Aquariumで出会い、意気投合

M&Aのきっかけは、カミナシのCOO河内さんとの出会いでした。
河内さんとは、Coral Capital主催のイベントで2023年の2月にお会いしました。そして初めてオフィスに招待いただいた時に「よりお互いの目指す方向に近づくために業務提携や資本提携などを検討できないか」という旨のお話をいただきました。技術を評価いただいたのと、両社の事業及びミッションの親和性を感じていただいてのことでした。当初はM&Aなど全く考えておらず、突然の提案にとても驚いたことを覚えています。そこからまず私が、そしてStatHackの一人一人が順に納得する形でこのM&Aが実現することになりました。

葛藤の末の決断

そもそも、我々起業家は、世界に大きな価値を提供する会社を作り、その会社の株を保有することで大きな価値の一部をキャピタルゲインとして享受することを一つの目標としています。自社の株を100%譲渡しM&Aするということは、一旦その時点で利益を完全に確定し、今後の自社の成長の果実を株主としては受け取れなくなるということを意味します。
創業1期目で黒字を達成し、2期目で5倍以上の売上成長をしていたStatHackは、「単独でまだ成長できる」という思いもありました。しかし最終的に、我々の人生全体での社会への提供価値を考えたとき、直近で自らが受け取る利益よりも、大きな機会で挑戦し成長することで社会により大きなものを提供できるようになることの方が重要だと考え、M&Aの決断に至りました。カミナシと一緒なら単独では挑めない大きな機会に挑戦できる。十分懸けるに値するチャンスだと判断したのです。
また、StatHackに関わってくれるメンバーやお客様のことを考えた時にも、カミナシと一緒になった方がより大きな価値を与えられ、全員にとって良いと感じました

上野不忍池周辺の写真。オフィスのある本郷周辺を散歩しながら共同創業者と議論し、「一旦カミナシで強くなって、またもっと大きな価値を残せる会社を作ろう」と決めました。

M&Aの決め手:より大きな機会に挑戦したいと思った

大きな機会とは具体的には、多くのお客様に使ってもらえる現場向けのAI SaaSを作っていくという提案でした。
これまで我々は顧客ごとに最適なソフトウェアを提供する受託開発という形で事業を進めていました。しかし事業構造上、100社、1000社、1万社と顧客を増やしていくのは難しく、より早く多くの企業に価値を届け、より多くの現場で労働を変えられないことをもどかしく思っていました。そのような思いから、カミナシと出会うちょうど2ヶ月前から、自身がSaaS事業にフルコミットし新たなプロダクトの検証を始めていました。しかし、スポットでの課題を深く理解し、技術で解決する受託事業に対し、市場を見極めて汎用的な課題を解いていく必要のあるSaaS事業は、必要とするスキルやリソースが全く異なり、自社でやり切る難しさを痛感していました。
カミナシから、M&Aの提案を受けたのはちょうどこのSaaSの難しさに直面している最中でした。

カミナシの河内さんと話を重ねた結果、カミナシの製造業領域での顧客基盤、現場SaaSの知見、bizサイドの人材を活用しながらSaaSを作っていくことで、我々のビジョンもより早く実現できると考えるようになりました。
また、最も重要だったのは、CEOの諸岡さん・COOの河内さん・CTOのトリさんと話す中で、向いている方向が全く同じだと感じたことでした。勝手ながら諸岡さんは私と性格がかなり似ているとな感じていて、諸岡さんのもとに集まったメンバーなら、絶対自分やStatHackのメンバーとも気が合うと確信していました。(そしてこの感覚は驚くほど的中していました。だから今こうして興奮気味にnoteを書いています。)

これから我々がAIで労働をどのように変えたいのか

これからカミナシと一緒にやっていくのは「人間の目での判断を必要とする作業」を全て置き換え、効率化・標準化していくことです。

これまでStatHackがやってきた外観検査の他にも、現場では製品の品質を担保するために、様々な場面で人による目視チェックを行っています。これらの作業のミスはクレームに直結する問題なので、作業員の方は過大な責任を背負いながらこれらの業務をこなしています。999個は正常なものが流れてくる中、1個の微細な不良を見逃さないために常に気を張っていなくてはならないような、本当に大変な作業です。このような作業をAIで置き換えることで現場の負担を減らし、製造の品質をデータで担保していきます。

先日リリースしたCountAIというサービスもその一つです。出荷作業における目視での個数確認業務を、AIで高速化しエビデンスに残すことで、一束2分程度かかる確認作業が数秒で済み、2重検査もなくすことができています

より先の未来としては、現場にある全ての非構造化データをAIで構造化することで、ノンデスクワーカーもデスクワーカーと同じレベルでITの恩恵を受けられるようにすることを目指しています。
現場の全てのデータが蓄積し、AIによって学習することで、現場の全てを理解し判断や作業のサポートを行う、ドラえもんのような汎用AIを提供できる日もそう遠くないかもしれません。

おわりに:カミナシの皆さんと実際にあって

M&Aの契約もほぼ完了した2023年9月序盤、半年に一回のカミナシメンバーがオフラインで集まる会で、初めて多くのカミナシメンバーと深く話し込みました。

誰もが顧客に価値を届けることを第一の信条におき、そこに最大限の情熱を注いでいるということがよくわかりました。飲み会なのにも関わらず、途中から私がPCを開いてプロダクトや技術の説明をする流れになり、周りにいた全員が「これならあのお客さんが喜ぶ」「もっと大きな価値を届けられる」と熱狂的に喜んでくれました。


偶然この飲み会の次の日が高円寺阿波踊り大会だったのですが、真剣に踊る踊り子と祭り独自の熱狂的な雰囲気と昨日のカミナシのカルチャーが重なり、感情が溢れ出して涙が出ました。その時、全てが納得できた気がしました。一人で踊っているだけだと祭りは生まれない、カミナシの皆さんは僕と一緒に本気で踊ってくれるし、僕自身もカミナシの皆さんと一緒なら今よりもっと踊り狂える。今までできなかったことも、カミナシと一緒なら達成できると感じました。人生一度なので踊り狂わねばと。

興味を持ってくれた方は、ぜひTwitterFacebookからメッセージください!お話ししましょう




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?