見出し画像

いちごを食べられてキレる男を全否定する女

想像してみてほしい。待ちに待ったチョコレートパフェが運ばれてきた瞬間、そのてっぺんにある一粒のいちごを隣に座っている人が勝手に食べたときのことを。

ブチギレ案件である。


その人が憧れの相手でも、百年の恋も冷めるほどの禁忌であることは明白だろう。いちご泥棒とはつまり、狂気の沙汰、悪魔の所業、21世紀最大の極悪犯罪である。

しかしまぁ、僕も大人になった。このエピソードを笑い話にして、飲み会の席を盛り上げるための肴としたことがある。
20代半ば、友人らと合コン(的ななにか)に参加したときも、いちご泥棒の話をした。僕の熱い語り口に、その場にいた全員が笑いに包まれた。

ただ一人を除いては。

僕の鉄板エピソードに茶々を入れる者がいた。

「それくらいのことで怒る?」

タマミ(仮名)だ。僕を「器の小さい男」だと言わんばかりに、タマミが話の腰を折ってきた。
おうおう、ねーちゃんや。初対面でその態度はいかがなものかと思わねーかい? お? お?
とガンを飛ばしてやろうかと思ったが、僕は紳士だし、それをしてしまっては相手と同じ格になってしまうし、なにより小心者なので、我慢した。

しかし、タマミは攻撃の手を緩めない。

「しかも相手は好きな人だったんでしょ? 好きな人にいちご食べられたくらいで怒るとか意味わかんない」



プッチーーーン。



僕の頭のなにかが切れた。もうプッチンプリンさながらにプッチンした。その場でスキャットマン・ジョンを歌って踊りでもすれば、その場は穏便に済ませることができたのかもしれない。しかし、僕は我慢の限界だった。プリプリだ。プッチンパポペだ。

これは少々手荒になるが、彼女をわからせなければ。紳士的に。あくまでも紳士的に。

「あのね。びっくりドンキーの『いちごのきらきらティアラ』みたいにいちごがたっぷり入ってるとかならまだ許せるし、食べて良いかどうか先に聞いてくれたなら良かった。勝手に食べたことが許せないんだよ」

「いや、それでもいちごくらいで怒りすぎ」



フーーーン!!!



なんなんだこいつは。チョコレートパフェの頂点に君臨するオンリーワンいちごをなんだと思っているんだ。燦燦と輝く紅き宝石は、かの有名な怪盗キッドさえ盗めないとされているとかいないとかなのに。いとも簡単に盗んでいく極悪非道の行為を是とするどころか、被害者である僕を非難するとはこれ如何に。手洗ったあとお前のシャツで拭くぞ。

その後も、アルロンVSタマミの戦いは売り言葉に買い言葉の応酬となり、ほかの参加者にはもはやそれが酒の肴になっていた。デッドヒートを迎えた戦いに、僕の声量もぐんぐん大きくなる。最終的には、コントが佳境のときの小峠くらい声を張り上げていた。

この日の会合がどのような終末を迎えたのかは覚えていないが、とにかくあのタマミってヤローは気に食わなかった。



後日、一緒に参加した友人たちがつぶやいた一言に、僕は衝撃を受けた。


「タマミちゃん、アルロンにめっちゃアタックしてたよね」



は?



「え、気づかなかったの? アルロンにめっちゃキラキラビーム出してたよw」



は?(5秒ぶり2回目)



第三者の意見なので真相は不明だが、彼女は僕に少なからず好意があったらしい。当時は公務員だったので、ステータス的には好印象だったのだろうか。

しかし、それにしたってアピールがヘタクソすぎでは? ツンデレが流行りの当時でも、あそこまでけちょんけちょんにされたら、誰だって不愉快だろうがよ。
あとキラキラビームってなんだ。僕の体は百式のように耐ビームコーティング加工されてはいないはずだが、気づかぬうちにビームを弾き返していたらしい。
「女心がわからない」と言われたらそれまでなのだが、彼女のアプローチは完全に間違っていたと断言できる。

あの戦い以降、好きなタイプを聞かれたら「素直な人」と答えるようになったのは気のせいだろうか。




【関連記事】


#創作大賞2024
#エッセイ部門


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?