消し忘れ、ダメ、ぜったい。
外出するときは、戸締りと火の元を確認しなければならない。
そんなの誰だって知っているし実行しているだろうが、それでも起こるときは起こる。それが災害というものである。
もう10年ほど前になるだろうか。GWかなにかで実家に帰省した僕は、3日ほど経ってから自宅アパートに戻ってきた。当時住んでいたアパートには、同じ役場で働く先輩が3人住んでいて、(僕を含め)全員もれなく独身男性だった。とある上司が我々を「モテないズ」と呼んでいたことには憤りを隠しきれないが、この10年間で誰一人として結婚していないので、ぐうの音も出ない。
話を戻そう。
時刻は午後8時を過ぎており、辺りは真っ暗だった。3日ぶりの自宅。しかし、なにやら様子がおかしい。
カーテンを閉めていなかったとはいえ、外の暗闇のせいで部屋の中などまったく見えない。はずだった。
僕は見てしまった。部屋の中に赤い光をうっすらと。
「やばい! 火事だ!」
夜の帳が降りた田舎町の静寂と裏腹に、20代独身男性が一人あたふたしながらてんやわんやの大パニックしている。
アパートの入口に向かいながら、僕の脳内は忙しかった。ガスコンロは消えていたはずなのに。いや、地震かなにかでストーブが倒れて引火したのかもしれない。貴重品は持ち歩いていたとはいえ、部屋にはまだKinKi KidsのCDコレクションや大島優子グッズやパソコンやニンテンドー3DSやゲームキューブやゲームボーイアドバンスや、その他諸々の大切なものたちがいっぱいあるのに。飛影の炎殺黒龍波にやられた是流のように、すべて真っ黒な消し炭になってしまったに違いない。僕の部屋は、北海道での邪王炎殺拳の犠牲者第一号となったのか。邪眼の力をなめていた。
そんなことを考えたり考えなかったりしながら、急いでドアの鍵を開け、魔界の炎に焼かれたかもしれない我が家へ入った。
真っ暗な部屋の真ん中でぽつんと、天井の豆電球が灯っていた。
「お前かーい!」
SNSとかで「イントロではギター持ってる奴にスポットライトが当たってるのに、歌い出したのはドラムの奴」みたいな動画がたまに流れてくるじゃん。それ観て「いや、お前が歌うんかーい!」ってツッコみたくなると思うんだけれど、本当にそんな感じでツッコんでしまった。良かったんだけれど。火事じゃなくて良かったんだけれども。
外出するときは、戸締りと火の元を確認しなければならない。あと、日中の明るい時間帯に出かける場合は、豆電球を消灯しているかどうかを必ず確認しなければならない。
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