古代ギリシャ恋愛小説『ダフニスとクロエー』。最近聴いてる音楽

古代ギリシャの恋愛小説で、軽く読める好きなものがある

突然だが、『ダフニスとクロエー』という古代ギリシャの恋愛小説をご存知だろうか?私はこの小説が好きなので、ちょっと紹介したい。最近読んだわけでは無いが、思い出したので。

2~3世紀頃に、ギリシャのロンゴスという人が書いた恋愛小説。ダフニスくんが山羊飼いの少年。クロエーちゃんが羊飼いの少女。エーゲ海のレスボス島という、のどかな島でのお話。この頃の小説として珍しくほぼ完全な形で残っており、世界的にも有名だ。ちなみに日本では、三島由紀夫の『潮騒』がこの小説を基にして書かれていることでも有名。

この頃のギリシャでは恋愛小説が流行っていたらしく、様々な小説が出版されていたようだ。『ダフニスとクロエー』以外のこの時期の有名な恋愛小説は、主人公の男女が、様々な困難や旅をしたり、敵、他の人との誘惑、家柄の違いなどの人間/血縁関係、あるいは戦争や大事件、人の死などが絡み合うようなドラマチックな中で関係性を深めていく。物によっては二人が結ばれず、悲劇的な最後になることもあるようだ。(読んでないので知らないけど)

しかしこの『ダフニスとクロエー』はそんな重くない。確かにちょっと命の危険とか拐われるみたいなのもあるけど、神様に祈ったら助けてくれて一晩で何とかなったりする。旅もせず島でずっと過ごしてるし、恋敵も勝負で勝ったらすぐ諦めてくれる。二人の恋を邪魔する問題はあっさりと解決していき、最終的にハッピーエンド。

あと少年・少女なのでお互いが好きになるのが結構早い。速攻で恋に落ちる。その恋に落ちた感じとか、あぁ、結局、昔でも、どの国でも、恋の感情というのは同じなんだなぁと思ってしまう。

以下が、クロエーがダフニスに恋したときの描写。

食事もろくろくとらぬし夜は眠らず、家畜の世話もなおざりにするようになった。笑っていたと思うと泣きだす。眠ったかと思うと不意にとび起きる。蒼ざめていた顔の色が、急にまたまっ赤に燃え上がる。

『ダフニスとクロエー』p.23

以下は、ダフニスがクロエーに恋したときの描写。

食事も味を見るほどしかとろうとはせず、飲み物も強いられればやむなくやって唇をぬらすほど飲むだけで、以前はこおろぎよりもよくしゃべっていたのが急に無口になり、山羊よりも活発に動きまわっていたのがすっかり不精になってしまった。山羊の面倒も見ず、葦笛も捨ててしまい、顔色は夏草よりも蒼ざめてきた。クロエーとだけはよくしゃべっていたが、クロエーと離れて独りでいる時には、こんな独り言をいっていた。

同書p.28

なんともストレート!!この素朴さ、素直さがわかりやすくて好きだ。恋心に限らず、人の心の動きというは、時代も場所も、身分も違っていたとしても、やっぱり同じなんだというのを実感する。(ちょっと脱線するが、なので私は、古代や中世の詩や小説を読むのが好きなのだ。)

で、おそらくこの小説を読んだ人なら最も印象に残るであろう人物との出来事がある。それがキレイな若い人妻・リュカイニオンだ。コレが笑えるのでこのパートを紹介しよう。

欲求不満の人妻リュカイニオンは森でダフニスを見つけて「おっ、カワイイ男の子だわ~」と狙っちゃう。しかしダフニスとクロエーが恋人同士なのは知っていた。そこでリュカイニオンは、ダフニスがクロエーとキス以上のことが出来なくて泣いていたのを見つけ、愛の手ほどきをしてダフニスとクロエーを救ってあげるという名目で、自分の欲求も満たす一石二鳥を思いついたのだった。

リュカイニオンはダフニスを森に誘って、「どうすればいいか私が教えてあげるから、任せなさい♡」みたいな感じで、そのままヤッちゃう。童貞・ダフニスくんはラッキーだった。急にお姉さんが童貞卒業させてくれた!メッチャ気持ち良いし!みたいな感じでテンション上がりまくり。ダフニスは早速教わったことをクロエーにしよう!と思ったが、リュカイニオンに「初めての子は痛がるから気をつけてね」と諭され、怖くなってテンション下がる。マジでバカな童貞すぎて笑える。このあたりのエロバカさ加減とかも今の高校生とも似たりよったりで面白い。
そして、ここでリュカイニオンの名言。

でも、クロエーより先にあんたを男にしてあげたのは、このわたしだったってことは忘れないでおくれよ

同書p.103

童貞食い女!昔からこういうお姉さんいたらいいな!みたいなやつ!
普通、ストーリーの中ではリュカイニオンみたいな存在は、クロエーにとって恋敵とか悪女の役割なのだろうが、この小説の中ではリュカイニオンはダフニスにエッチなことを教えてくれるお姉さんくらいの軽い存在でしか無い。このシーン以降は全く登場しないし、むしろダフニスにキスの次に何をするか教えてくれ、ダフニスとクロエーの関係を進めてくれるみたいな役割だ。コレなんてエロ漫画?

で、この小説は結構直接的なエロ表現もちょくちょくある。これは批判の対象になっていたらしいが、訳者解説を読んでその通りだなと思ったのが、主人公たちの性の目覚めの年齢を考えればこのような表現になるのだろうといいうこと。まぁ、それでも読者の期待に応えてる感はあるかも。

エロを目的に読むのは見当違い甚だしいのでこのあたりにするが、全体のストーリーもサクサク進んで面白いのは間違いない。難しい表現も無いし、登場人物も少なく短くて読みやすい。私は仕事終わりに軽く読んで、2~3日で読み終わった。

前々から気づいている人もいるかもしれないし、以前に配信でも発言したが、私は結構、漫画やアニメでも恋愛要素が好きだったりする。古代ギリシャの小説でも全く同じ表現があるのが面白いし、繰り返しになるが、人間模様ってずっと変わらないんだなという実感。

ちなみに雑学。古代ギリシャの神々は現在の英語の語源になっていることが多いのは有名。『ダフニスとクロエー』では、海賊たちに襲われるシーンで"牧神"パーンという神様が助けてくれる。パーンは海賊たちに強烈な光を浴びせて恐怖と混乱を与え、ダフニスとクロエーを助けてくれる。パーン Panはこうやって混乱を与えるから、パニック Panicの語源ですね。

最近聴いてる音楽

ラヴェル《ダフニスとクロエー》(1911-1913)

これは上記で紹介した『ダフニスとクロエー』をもとに制作されたバレエ音楽として、フランスの作曲家であるラヴェルが作曲した曲。バレエ曲全曲を演奏すると1時間くらいある。

ここから部分的に切り取って組曲にしたものがあり、その第2組曲が特に有名で演奏機会が多い。ちょっと昔のオタクであれば、この曲が『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメで使われていることを知っているかもしれない。(第27話「射手座の日」の冒頭部分)

フルートやピッコロがソロで奏でる主題が印象的。これは夜明けの鳥の鳴き声を直接的に表現しているのもあるし、あるいは、羊飼いの笛の音を表現している部分もある。私はこういう標題的な音の使い方は好きな方ではないけれども、聴いていて明らかに夜明けの表現なんだろうなと思わせてくれるのはラヴェルならでは。

この曲を聴いていて、上記の文章を書こうと思ったわけ。元々この曲を最初に聴いたのは多分高校生の時。その頃は異様にラヴェルにハマりだして貪るように聴いていた。で、『ダフニスとクロエー』は、大人になってから元ネタってどんなの?と思って小説を読んで、「へ~こんな面白い話だったんだ~」となったという経緯。

(おわり)


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