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はじめてのルームメイト卒業式

4ヵ月間同じ部屋で過ごした、僕のはじめてのルームメイト2人が部屋を出た。春学期の期末試験が終わり、彼らはこれから夏休み。僕は夏にも授業があるので、ニューヨークに残る。

僕ら男子3人の関係は、結局最後までよくわからなかった。オーストリア出身、ビジネスを勉強し将来は金融マンを夢見るガタイの良いTくん。アメリカ・ペンシルバニア州からきた、芸術学部で映像制作を学ぶ、髪の毛くるくるのMくん。彼ら2人は、2021年9月の秋学期に入学し、先に2人で部屋に住んでいた。そこに2022年1月の春学期から、僕が住むようになった。彼ら2人と違って英語もうまく話せないし、彼女もいないし、不器用でドジ連発する僕。結局最後まで、3人は「それなりに」仲が良いという結果で、共同生活が終了した。

仲が悪かったわけではないし、喧嘩したことも一度もない。部屋で顔を合わせれば挨拶ぐらいはするし、たまに他愛のない話もする。しかし、そもそも3人とも違うSchool(学部群)なので、授業の取り方や生活リズムも違うし、部屋で顔もほとんど合わせない。さらに驚くことに、僕はTくんとMくんの連絡先を、結局今になっても知らない。インスタも、電話番号も。

Mくんの通う芸術学部の授業は、午後や夕方の授業が多い。いっぽう、Tくんや僕は朝や午前にも授業がある。さらに、僕が授業がある日はTくんは授業がなく、Tくんが授業がある日は僕は授業がないので、部屋に一緒に居合わせるということがかなり少ない。

平日授業がある日は、僕は朝起きてシャワーを浴びてから部屋を出る。このときTくんもMくんもまだ寝ている。授業がひととおり終わると、大学のカフェか図書館でだらだらしたり、課題をやったりする。大学のレストランで夕食を食べて(たまにテイクアウトして部屋でも食べるが)、午後7時前後に部屋に戻ってきても誰もいない。しばらくすると、Tくんが彼女か友達と電話をしながら部屋に戻ってくる。AirPodsをずっと着けているので、「おかえりー」と声をかけてもどうせ聞こえないので声をかけない。

Tくんは電飾が好きで、部屋の天井に7色に色が変わる、クリスマスの飾りのライトのひもみたいなやつがかけられている(僕がこの部屋に合流したときにはすでに電飾が設置されていた)。Tくんは自分が部屋に戻ってくると、部屋の電気を消し、電飾を青色につける。そうすると部屋のなかは、クラブとか飛行機の機内みたいに、青色になる。そうなってくると僕は作業もできないのでベッドに入る。Tくんは、クラブみたいに青色になった空間で、パソコン作業をするのが快適と感じるらしいが僕には無理である。ちなみに、僕よりもTくんが先に部屋に戻ったときは、僕が部屋に戻るとすでに部屋はクラブみたいになっている。このとき、僕が部屋で食べようとテイクアウトした夕食を持っていた場合は、青い光のなかで食べてもご飯がまずく見えるので、階段にご飯を持ってって食べる。

Tくんと僕は「それなりに」仲が良いし、Tくんは優しいので、例えば部屋の光を白にしたいとか、電飾を消して電気をつけたいとお願いするといつでもOKしてくれる。ただ、Tくんにとって電飾をつけて部屋をクラブみたいにするのはルーティンであり、僕は後から部屋に入ってきたので、とてもとても言いづらいのである。

僕が先に寝て、しばらくするとTくんも電飾を消して寝る。このとき、Mくんはまだ部屋にいない。僕とTくんが眠りについたあと、Mくんが帰ってくる。こうして一日が終わる。ちなみに、朝起きてもMくんが部屋にいないときがたまにある。彼はいったいどこで寝ているのか僕はわからない。

授業のない平日も土日も、だいたいは同じ感じである。ただ、Mくんはよく友達や彼女と、夕食やパーティーへ出かける。こういうときは、部屋の入り口付近にある鏡でMくんが、服を5着ぐらい合わせてどの服を着るか悩みだす。その間は、鏡の近くにあるお手洗いにも入りにくいが、Mくんはそれに気づかない。Mくんはファッションが大好きなので、洋服をとてもたくさん持っている。ただでさえ狭い部屋に洋服が山積みになっているし、共用のクローゼットは90%がMくんの服なので、僕は自分の洋服をハンガーにかけてクローゼットにしまえたことは一度もない。Mくんが持っている服はどれも同じような服にしか見えないし、おしゃれだなと思ったことは一度もない。パーティーに出かける前に、Mくんの女友達が叫びながら部屋に入ってくることがある。こうなったら厄介極まりない。僕がいつも部屋を出るときはMくんは寝ているのに、Mくんが女友達と楽しそうにパーティーに出かけるときは、"See you later"と声をかけないとなんか性格の悪いやつに思われるのは不公平である。

それでもMくんと僕は「それなりに」仲が良いし、Mくんは優しい。我々の部屋はオートロックなのだが、僕は一度、部屋の鍵を部屋のなかに置きっぱなしにしたまま出てしまい、部屋を締め出されてしまったことがある。このときTくんはなんかよくわかんない用事で寮の近くにいなかったが、Mくんはそのとき、ペンシルバニアから家族がニューヨークに遊びにきていて、家族と一緒に出かけていた。夜も遅く、寮に大学のスタッフがいないので困った僕は、大学のメールアドレスでMくんに状況を報告して、Mくんが部屋に戻ってきたら僕にメールで教えてほしいとお願いした(僕はMくんの連絡先を知らない)。そしたら、Mくんが寮に駆けつけてきてくれて、部屋を開けて僕の鍵をぱっと見つけ、それを僕に手渡してくれたのだ。

こんな感じで、僕は結局最後まで、Tくん・Mくんと「それなりに」仲良しという結果で、彼らとお別れすることになった。夏はTくんはオーストリアに戻ってスタートアップでインターン、僕はニューヨークに残って、彼らが秋学期に取った授業の分を取る。Mくんの夏の計画を僕は知らない。

3人ともあまりにもバックグラウンドや状況が違いすぎたので、一緒に暮らしてて面白い気づきもたくさんあった。Tくんは叔父がアメリカ国籍の関係で、Tくんもグリーンカード(アメリカ国籍)を持っており、僕よりも圧倒的にアメリカで生活がしやすい。アメリカからオーストリアは比較的近いので、彼は春学期の間にあった春休みでオーストリアに戻って彼女と一緒に時間を過ごしたらしい。ちなみに彼はオーストリアに戻るまえに、彼女がニューヨークに遊びに来るらしく、ふたりでニューヨークを旅行してから一緒にオーストリアに戻るらしい。なんとうらやましい、なんと幸せな人生だろうか。ちなみに僕は、Tくんの彼女がTくんのことを想って、オーストリアからTくんに送った電気ケトルを、Tくんが全然いらないから貸してあげると言ってくれて、ずっと使っていた。おかげで、僕の家族が送ってくれたフリーズドライの味噌汁を、Tくんの彼女の電気ケトルを使ってお湯を沸かして食べれたので感謝している。

僕の大学は、「期末試験が終わってから24時間以内に退寮」というルールになっている。3人とも最後の試験が終わるのは5月13日。僕が午後4時ごろに社会学の試験を終え、最後に声をかけてからお別れしたいと思って大急ぎで部屋に戻ったら、もうすでに部屋は空っぽだった。

部屋を開けるといつも山積みになっていたMくんの洋服はもうない。七色に光る電飾も外れている。Tくんの彼女の電気ケトルもない。心なしかなんかちょっとさみしい。声をかけることはできなかったけれど、「それなりに」仲良しだった僕たちにとっては、一番良いお別れの仕方だったのかもしれない。

あと1週間すれば、新しいルームメイトと、新しい寮で夏学期の生活がはじまる。今度はどんな不思議な体験ができるか、少し楽しみでもある。

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