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太陽はひとりに一個ずつ

太陽の光が窓の外から差し込んで、二段ベッドのうえの僕の身体に触れるのを感じながら目を覚ます。シャワーを浴び、すっかり長くなった前髪を鏡越しに見て、つぎはいつ髪を切りに行こうか考えながらドレッサーへ向かう。春が待ち遠しくて、きっと外は暖かいだろうと期待しながら薄手の長袖に深緑のコートを羽織り、コーヒーを買いに行く。やっぱりこれでは寒かったとコーヒー片手に駆け足で部屋に戻り、ブランケットに身体を包みながら椅子に腰掛ける。大学の授業の文献とか趣味で買った本とかそういうのをぱらぱら読んで、世界に希望を感じたり絶望したりを程よく繰り返しながら、A4サイズのノートにシャープペンシルかフリクションのボールペンでつらつらと文章を綴る。そしてときどき手を止めて、今日はなにをお昼に作ろうか考える。

それがニューヨーク留学生活2年目の日常と知ったら、むかしの僕はどう思うのだろう。そういう余計な妄想をしながら、最近あまり見ないようにしているインスタグラムを開くと、僕のようにアメリカに留学している日本人の女の子の友達が、アメリカ人のガタイのいい彼氏に肩に手を回されながら、目の10倍ぐらいの大きさがある真っ黒なサングラスをかけて、太陽に背中を力強く照らされながら白い歯を見せて笑っている写真が流れてきた。太陽は宇宙にひとつだと思っていたけれど、ベッドのうえにひとり眠る僕に朝を告げる太陽と、波打ち際にふたり肩を寄せ合って笑い合う友達に愛をうつしだす太陽は、どう考えても同じには思えないのは僕だけだろうか。

太陽みたいな人が好きだと、僕は日本語で訊かれたらだいたい答えるのだけど、英語の場合直訳しても伝わらないのが難しい。英語で「あなたが好きです」は「ユー・アー・マイ・サンシャイン」だから、好きな人のことは太陽じゃなくて太陽の光で表現するのか。きっと僕の友達もアメリカ人の彼氏にそう言われてるんだろうな。彼氏にとって僕の友達がサンシャインなら、サングラスをするべきなのは友達じゃなくて彼氏のほうだろうと屁理屈が浮かんでしまったものだから、「いいね」を押さずにそのままスマホを閉じて机の引き出しに閉まった。

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