ウィズコロナのためのデザイン:マスクのデザイン

「マスクのデザイン」とお題目を掲げたときにどう反応するかで、デザインについてどう認識しているか、という理解というかスタンスみたいなものがある程度見えてくるのではないかと思います。

マスクの外観(見た目)についての「デザイン」
まず、ほとんどの人が「デザイン」と聞くと見た目の話だと認識すると思います。外観に着目してデザインする、視覚的な効果、表層的な観点、ファッションとしての側面に着目する。これはとてもわかりやすいので、今後いろんな会話や議論があるのではないかと思います。
アベノマスク(ガーゼマスク)は昔風で小さくてダサいからヤダとか、ヨージヤマモトのデザインしたマスクはかっこいいけど革製で長時間はツライとか、ファッションアイテムとしてマスクを捉えてみることはこの範疇です。カワイイ柄とか、メッセージ性のある柄とか、お洒落な肌触りや着けごごちとかも追及されるでしょう。

マスクの機能面についての「デザイン」
機能面に着目して「デザイン」することもわかりやすいでしょう。メーカーが商品開発をする際によく採用される手法です。
・快適さに着目し、息苦しさを感じさせない、より長時間使い続けられるようなデザインを追求する。
・1回の使い捨てではなく、繰り返し使えて費用対効果の高いデザインにする。
・機能性を向上させることで価値を高めるようなデザイン。
・N95マスクの課題である息苦しさが改善されて長時間着用が可能になったり、誰でも簡単に着用できるような仕組みを組み込む。
などなど。

N95マスクをつけると大体カッパのような見た目になれます。あ、それはどうでもいいことですね。。。
見た目や機能について改善していくこと自体はとても大切なデザイン行為です。でも「デザイン」はそれだけではありません。

COVID-19対策として、世界中でマスクの着用が定着しつつあります。議論がマスク着用の効果が対策として有効だと認識されるようになりました。国によってはマスク着用を強制する決定をしています。多くの地域でこれまでとルールが変わったのです。

まず、COVID-19対策の中でのマスクの役割についておさらいです。
マスクの着用は、COVID-19対策3原則のひとつです。「手洗い」「社会的距離」そして「マスク」ですね。個人が対策できる非常に重要な項目のひとつになります。
一方で、マスク対策が不要な場面があります。マスクができない場面もあります。家庭内では基本的にマスクはつけなくていいはずです。うちに帰ったらはずす人が大半だと思います。また、食事中は当たり前ですがマスクはつけられません。

COVID-19対策におけるマスクのもっとも重要な役割は、飛沫感染防止です。飛沫感染による感染の危険が非常に高いことから、マスクによってそれを防止することが期待されていますし、世界中の研究によって防止効果が確認されています。周りの人のため、集団のため、社会のためですね。
せきエチケットとしての効果も同じです。マスク着用がせきエチケットになるわけです。これはマスクを周囲からはっきり視認できることが一番大きく、飛沫感染防止対策を行っていると周囲を安心させる効果が出ます。
飛沫感染防止の手段としてのマスクは、一般的にもっとも認知されている不織布のものでなくてもいいわけです。要は記号として機能すればいいだけなので、布マスクでいいでしょうし、自作してもいいでしょうし、バンダナみたいなものをアレンジしてもいいですし、なんならアベノマスクでもいいのです。

逆に、マスクのウイルス防止効果について、一般的なマスクではあまり期待できないことになります。ウイルス防御装置として適切なマスクはN95マスクですが、これは特殊なマスクです。これまでの一般的な感染症対策として、自分がウイルスに感染しないことを目的としてマスクをするという行為はあまり意味のないものとみなされてきました。欧米でCOVID-19の感染爆発が起こる前、マスク着用習慣のない欧米では、この言説が繰り返されていたことは記憶に新しいことです。実際に、感染症の専門家ではない一般人でマスクを(サージカルマスクやN95マスクについても)正しく取り扱える人はほんの一握りしかいないのではないかと思います。日本では主に花粉症対策と風邪予防を宣伝してマスクを売ってきたという宣伝文句に影響されて、いまだにマスクは感染を防止するというメッセージを自己防衛のためと認識する人がいます。マスク需要が旺盛なこともあって、やっぱり防護(フィルター)機能を売りにして宣伝することが繰り返されています。機能を押し出して売る側は擦り込む気が満々ですね。ウイルスの抑制機能を売りにするってことは、マスクの外側がウイルスに汚染される可能性が高くなるわけで、感染防止のためには取り扱いに細心の注意が必要になるということを同時には言わないわけです。少なくともCOVID-19対策において、自分を守るためのものではないと理解することが必要ですし、誤解する人がなかなかいなくならないことに配慮して丁寧にメッセージを発信する必要があるのです。

COVID-19対策にマスク着用が有効と認知された今、自分のためでなく社会のためにマスク着用するものと位置付けられたことは、マスクが社会的な記号としての意味合いを帯びたことを示します。マスクを着用している人は、COVID-19対策をしている人と認識されます。逆に、マスクを着用していないと周囲からCOVID-19対策をしていない人と認識される可能性が出てきました。社会的認知の変化です。普段からマスク着用が日常化しているアジア各国では、マスクに対する違和感や受け取り方はそれほど変化しているわけでもないですが、欧米のマスクに対する認識はガラリと変化したようですので、もしかしたらこれから認識の仕方も極端になるかもしれません。これまで欧米ではマスク着用者を、病気感染者かあるいは不審者のように特別視して認識する傾向がありました。マスクをしないことが当たり前でマスク着用者を見かける割合が非常に少なかったからです。今は社会的な緊張を受けてほぼみんなマスク着用という情景が世界中に拡がりました。ちなみにスペイン風邪の流行時には欧米でもマスク着用が当たり前のようになったそうです。いつからそのマスク着用の習慣がなくなっていったのか、気になります。

日本では、マスク着用者を特別視するということはありませんが、感染拡大に伴ってマスク着用者の割合がどんどん大きくなっていき、非常事態宣言によってほぼすべての人が常時マスク着用するような光景に変化しました。記者会見がマスク着用のまま行われる画面が日常的になっています。

でもマスクについての社会的な合意は現在揺れ動いているように感じます。

個人的には、マスクをつけるのはキライです。息苦しくなるし、こんどうはメガネをかけているので、メガネがよく曇ってしまい周りが見えづらくなるのがいやです。正直な話、できるだけしたくないと思っています。これから気温が上昇していくと、蒸れて不快感が増します。人によってはマスクが擦れて皮膚病にかかってしまうケースもあると聞きます。入手にもコストがかかります。マスクをつける習慣がなかったので、めんどくさいという気持ちもあります。
その個人的な見解と社会的な要請があることとの間に折り合いをつけていかなくてはいけなくなってしまいました。

マスク着用は感染拡大防止が目的です。自分が感染しているかもしれないということを想定した行動なのです。ウイルスを排出する可能性がない=感染していないことがわかっていれば、そもそもマスクをする意味はほとんどありません。COVID-19以前の欧米でのマスク着用に対する社会的な受け取り方ですね。残念ながらCOVID-19には自分が感染していないことを証明する方法が今のところありません。証明できるとしたらPCR検査で陽性反応が出てしばらく経っているか、抗体検査をするなどして、すでに感染済みであることを示すことでしょう。最近の研究で、感染後12日くらいで感染力がほぼなくなるということがわかってきたようです。でも再感染をしないという根拠はまだ今のところは示されていませんし、抗体がいったんできたからずっと安全ということも証明されていません。ウイルスをまき散らさないことがはっきりと言えないわけですから、周囲が安全を判断する基準としてマスク着用を目安にするわけです。

要は、マスクの社会的な意味をどうコントロールしていくかを考えないといけないのです。
人によって受け取り方が異なってしまうと、そこでコンフリクトが生じます。トラブルのタネになります。感染爆発期は特に警戒が必要なので合意ができていたとしても、出口戦略の時期、ダンスの時期には意味合いが揺れ動くことによって、実際にケンカや事件などに発展したりするかもしれません。

ウィズコロナのためのマスクのデザインとは、何のためのマスク着用か、というマスクの社会的役割と限界に着目し、マスクとどう付き合っていくかを考え、提案し、実行することを目指すデザインです。

マスクに関しては、メッセージが揺れ動く=ノイズがのるし、バイアスがかかる可能性のあるメッセージとして丁寧に扱う必要があります。とりわけ、出口戦略において重要な要素になります。ずっとマスクはしてください、は簡単に発信できるメッセージになりますが、それはストレスにもつながります。いつならマスクを着用しなくていいのか、どこならマスクを着用しないことが許容されるのか、このいつどこでについての社会的な合意形成をする作業が必要です。感染症対策の根幹でもあるので、専門家会議のガイドラインに沿う必要があるでしょう。専門家会議で「マスクのデザイン」の検討がされ、オープンにマスクのデザインについて議論できて、合意形成するプロセスが見えれば、うまくいくのではないかと考えます。

これは指標になりそうなものがあって、記者会見の時に首相や専門家会議メンバーなどが発言する際に、いつまでマスクを着用して記者会見するかにみんな注目します。何も説明せずにあるとき突然着用しなくなったりすると、それはいいマスクのデザインにはなりません。表づらは着用しておきながら裏に回るとはずしてしまうというデザインをしてしまうと、ノイズが大きくなってしまいます。出口戦略では、ある程度の振れ幅を許容しながらソフトに着地させるパイロットの技量が試されるのだと思います。

マスクについての議論は、もうすでに現在進行形でホットになりつつありますね。

こんどう個人的には、高山義浩氏の見解を参考にしています。

高山義浩氏のFacebook:2020年5月24日の投稿
https://www.facebook.com/profile.php?id=100001305489071

マスク着用に対する過剰反応への懸念を、専門家の見解からわかりやすく説明されています。今その地域でその集団でどれくらいのリスクがあるかを検討した(要は状況に応じた)上で判断するべきものという、普通に真っ当な意見とこんどうは受け取りました。マスク着用のリスク、デメリットについても言及されていて、特にこれから夏にかけて熱中症の原因になりうる点が指摘されています。出された言葉をそのまま飲み込むのではなく、基本的な考え方、原理原則に沿って判断することの必要性を高山氏の発信からも感じ取ることができます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?