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星語掌編集《ホシガタショウヘンシュウ》

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地球町《あおやねちょう》の道端で拾った、ちょっと不思議な掌篇を収録。短編や読み切りばかり載ります。
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掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

掌編「エルゴォの不思議なマッチ。」

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星語《ホシガタ》掌編集*15葉目

(4500字/読み切り)

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「マッチだよ。マッチはいかが?」

月夜にシャンシャンと結晶降り積む、白く染まった”銀の町”。慌ただしい年末、今日はクリスマス。どこか遠く、コーディのブンチャカ言う音色に合わせ、不器用な縦笛の夜想曲が響く、がたがたの煉瓦道。

シルクハットの隅の埃を払い、袖も裾も引きずるほど長い煤けた外套には、た

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掌編「慧ちゃんがいなくったって」

掌編「慧ちゃんがいなくったって」

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星語《ホシガタ》掌編集*14葉目

(731字/読み切り)

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「ドーナツとか、食べてないよ?」
電話口で、口をもごもごやりながら。

「今日は空がピーコックグリーンだったよ!」
曇り空の下、遠くの町から変顔の自撮りが送られてくる。

俺の彼女はすぐにバレる嘘をつく。バレる。というより、隠す気がないのだ。

そして彼女に視える今日の空はたしかにピーコックグリーンなんだろう。

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掌編「何かがはじまるのは分かる」

掌編「何かがはじまるのは分かる」

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星語《ホシガタ》掌編集*2葉目

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「へーくしょん!」

ここは地球町《あおやねちょう》。木枯らしが吹き始める頃。

——俺は会社帰りぽつり一人。路地裏の屋根どもの隙間からチラとのぞく紅藤の雲、コートに肩すくめ目だけ遠い空を仰いでいた。暮れなずむ帰路。

「家、喰うもんあったかなぁ…」へーくしょん!

室外機から、寒々しく吐きだされる風に左右同時にぶおりと煽られ、先が濡れた

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