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裏切りの流星

 憂いに火をつけた。炎は、憂いと希望の光のどちらも飲み込んで広がった。炎だけが、唯一の救いのようにも見えると、僕は微笑んだ。

「昨日の火事、ようやく鎮火したようよ」

 母の言葉に答えもせず、僕は何食わぬ顔で朝食を頬張った。きっとこんな僕を、君は許さないだろう。君を壊すのなんて簡単だ。人なんて脆くて軽いものなのだから。

「帰りにちょっと見に行くか?」

 父親の不謹慎な声が聞こえた。

「ちょっとやめなさいよ。そんなこと」

 嫌な顔をする母親の口元は、どこか緩んで見えた。頭の中の脳をカチ割ってみても、きっとこういう人種は、スカスカな思考しかない。

 僕には、君しかいなかった。裏切ったのは君の方だ。君にも僕しかいないとそう思っていたのに、君は、いとも簡単に僕を捨てた。

「気持ち悪い」

 彼女の最後の言葉。僕に向けられたその言葉に、多分、嘘はない。僕は、君のいう通り、気持ち悪い生き物なのだろう。それは君も同じで、同じだと思っていた君に裏切られた僕は、何だか最後のネジが吹き飛んでしまった。日常に溶け込むための歯車は、カタカタと音を立てて不器用に回っている。

「優馬も行くか?」

 結局父は、火事の現場を見に行くことにしたらしい。

「そうするよ」

 僕はすぐに返事をした。君と見るはずだった夜空を見に行こう。きっととても綺麗だ。流れ星なんかが見えて、僕が微笑むと、君もつられて笑っただろう。

 焦げ臭い匂いは、僕の脳裏のバクを修復するには、もの足りない。ずかずかと火事の現場に入る父と母は、誰よりも観光気分で、愚かな生き物に見えた。

「やめろよ」

 二人の後ろ姿をスマホにおさめようとして、父はようやく正気に戻ったのか、すごい剣幕で睨みつけた。

「冗談だよ」

「もう、行きましょう」

 母は、父の腕を引いた。

 あの日、君には見えたのだろうか。この世から消え去る瞬間に、僕は君に彩りを捧げたかった。僕には、見えた。君の瞳越しに、流星が微かに映っていた。

 僕は、君と同じでありたかった。ただ、それだけなのに、君は僕との決別を選んだ。君の家族も、僕の家族も消え去れば、きっと二人は幸せを手に入れられたはずだ。でも、君は僕ではなく、家族を選んだ。裏切り者には制裁がつきものだ。きっと君が僕なら、僕と同じことをしただろう。僕には分かる。だって僕と君は、同じなのだから。


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