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#2 『丸山珈琲』創業者にみるコーヒー豆の仕入れ値の付け方

コーヒーに眠気覚まし以上の意味を置く人々にとって、『丸山』という名前には特別な響きがある。

丸山珈琲が誕生する1991年以前にも、コーヒーが気軽に飲めて軽食をとることのできるコーヒーショップ・喫茶店という事業形態は長く存在していた。
しかしその頃の経済の急速な低迷とともに、「コーヒー」・「喫茶店でくつろぐ時間」という嗜好品は人々の生活からカット対象となり、同時に大手外資系コーヒーチェーンの国内進出で、喫茶店は下降一途を辿っていた。

その流れに逆行する形で誕生したのが「丸山珈琲」である。
丸山珈琲は、当時今ほど普及していなかった「スペシャリティコーヒー」というコーヒーの楽しみ方を国内マーケットに導入させた名店だ。
スペシャリティコーヒーとは「産地、生産者、生産のプロセスに非常にこだわったコーヒー」のことである。渋みや酸味という味の違いだけでなく、生産者のストーリーやこだわりを消費者に可視化させて売る。個々のコーヒーの細やかな差別化、違いを楽しむ新しい消費の仕方を国内市場に貫通させたのが丸山珈琲の創業者、丸山健太郎氏だ。
丸山氏のコーヒーへの情熱・こだわりに惚れ込んで、決して安くはないコーヒーを「是非飲んでみたい」と、遠くから足を運ぶ客も多い。

ただコーヒーにこだわる店というならどこにでもあるような話だが、丸山氏は「生産者から破格の買値で仕入れる」ことで有名である。
2002年のカップオブエクセレンス(以下COE)という世界最大規模のコーヒー品評会で、1位を獲得したブラジルのアグア・リンパ農園の豆に至上最高値をつけて落札したところからストーリーは始まる。
当時の豆の相場や、実際当時いくらで落札したのかはCEO公式サイトにも情報がないのだが、2018年のコスタリカCOEでは、丸山珈琲は品評会1位のドン・カイート農園のコーヒー豆に1kg当たり78,000円の値を付け、総額1,750万円相当を他2社と共同落札したことが参考になるだろう。この値は2018年以前のCOE最高落札価格の2倍以上だそうだ。

丸山氏は言う。
「高品質の豆に正当な対価を払うと、彼らの生活はみるみる良くなります。それは最高の喜びです。」

この破格の仕入れ価格を反映し、丸山珈琲の豆は決して安くはない。
丸山珈琲の人気商品『ブレンド・クラシック』は100gの豆に900円という値段がつけてある。100gの豆に3000円以上の値段が付くものもある。安いブランドの豆ならば、同じ価格で5倍以上の量が買えるだろう。
にも関わらず、丸山珈琲は今や長野・神奈川・東京に11店舗を構える人気店なのだ。

「良いものに高値をつけて売れ」というのはよく言われることだが、普通は「良いものを安く仕入れたい」というのが商売人の本音ではないだろうか。
丸山氏の行動には商業的打算以上の生産者への思いが伺える。前代未聞の仕入れ値をつける決断のきっかけは、生産者を訪れた体験だと丸山氏は言う。

「中米のホンジュラスの品評会でトップ10に入る生産者の家に行きましたが、かろうじて床はあるけれど、トイレもない。国の主要産品のトップレベルの生産者がこういう生活をしているのは、あまりにもフェアじゃない。別の生産者は18歳で初めて靴を買ったという。これが僕の原点ですね。」
(週刊エコノミスト インタビュー記事より抜粋)

それまで現地の生産者達はコーヒー豆を農協に売るしか手立てがなく、価格もフィックスで、良いものを作っても自分達にメリットが還元されない状態だった。
そこに丸山氏が、これまでの落札値を大きく上回る買値を生産者に提示した。
「あのバイヤーは、良い値段で豆を買ってくれる」という評判がついて回り、丸山珈琲に良質の豆が集まるという。
当初は見向きもされなかった無名のバイヤーだが、今では丸山珈琲に買って欲しいと、生産者はこぞって良い豆を作る。

このポジティブな循環を、当時資金力も決して大きくない小さな珈琲屋が生み出したことは特筆に値する。

良いものを搾取することなく、適正な値で買い取り、生産者と信頼関係を作る。そして良いものを適正価格で売る。
こういった価格の整合性をとることは、簡単なようで行うことは難しいだろう。コーヒーは値段もピンキリで、安く買いたいという消費者の力が常に価格を下降に引っ張るからだ。
そういう業界の中で、年月が過ぎても一貫して生産者に適正価格を支払い、誠実に向き合おうとする姿勢にこそ、人々は惚れ込み、丸山珈琲に足を運ぶのかもしれない。

参考文献・引用元

丸山珈琲公式サイト
http://www.maruyamacoffee.com/

週刊エコノミスト記事
https://www.google.com/amp/s/news.goo.ne.jp/amp/article/economist/business/economist-20181012135311458.html

Alliance For Coffee Excellence 公式サイト
(カップオブエクセレンス主催団体)
https://allianceforcoffeeexcellence.org/