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四神京詞華集~shishinkyo・anthologie~

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2023年12月の記事一覧

四神京詞華集外伝/栗栖摩利支乃法師の選択(後編)

四神京詞華集外伝/栗栖摩利支乃法師の選択(後編)

【おはなし、その3】
白虎堀河河川敷。
昨年軽いトラウマを植え付けられかかった童たちだったが、よほど唐菓子が甘かったのか凝りもせず今年もわらわらと集まっている。
やがて十字の杖を手に妖怪、もとい栗栖摩法師が現れる。
「ああめんつけめんぼくいけめん。はい!」
「ああめんつけめんぼくいけめん」
さすがに学習したのだろう、決して自発的でも楽しそうでもないが、童達は寒空の下洟をすすりながら法師に倣って呪文

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四神京詞華集外伝/栗栖摩利支乃法師の選択(前編)

四神京詞華集外伝/栗栖摩利支乃法師の選択(前編)

栗栖摩利支乃法師の話をしよう。

【おはなし、その1】
栗栖摩利支乃法師、略して栗栖摩法師は耶蘇教の導師らしい。
耶蘇教とは大唐帝国から絹の道を通って更に西、かの天竺國よりもまだまだ向こうにあるこの世の果ての蛮族が信奉する邪宗門らしい。
その、らしいらしいに包まれた得体の知れない輩が何故四神京に登場するかと言えばこの都がわりと国際都市だからである。
後々現れるかどうかは分からないが唐モロコシの人は

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四神京詞華集/NAMIDA(終)

四神京詞華集/NAMIDA(終)

【ナミダ】

○同・山頂(夕)
そこは少しも絶景ではなかった。
生い茂る木々に遮られ、四神京も朱雀平野もまるで見えない。
寺というよりは祠がひとつ、ぽつんと立っている。
開け放たれた祠の中には、地蔵ではなく如来が座している。
見えもしない都に向かって祈り続けるその木仏の名を思い出すのに、慧子は少しの時を要した。

慧子「あみだ様」

○菅原石嗣の館・書斎(10年前)
鼻息を荒くして、卑奴呼は慧子に

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四神京詞華集/NAMIDA(26)

四神京詞華集/NAMIDA(26)

【昼過ぎからは………】

○蝮山・中腹(夕)
振り返る穢麻呂。
眼下に慧子の姿はない。
穢麻呂、フンと小さくため息をつく。

○(回想)尊星宮・拝殿
差し出された汁は手つかずのまま、蠅が一匹集っている。
床に頬をつけて転がっている慧子。
眼差しは虚空をゆらいでいる。
蠅はやがてその瞼に止まって顔じゅうを這う。
動かない慧子に飽きたように、蠅は飛び去った。
穢麻呂は軒に腰を下ろして本を読んでいる。

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四神京詞華集/NAMIDA(25)

四神京詞華集/NAMIDA(25)

【いつか大事を成す者ども】

○内裏・朝集堂院(夕)
険しい顔で腕を組んだまま朱柱に身を預け四神の翼と語らうは、かの内裏の麒麟児、橘不比等。

不比等「蝦夷穢麻呂だと?」

珍しく動揺を見せる不比等を見て、二翼こと平外道がさも面白げに言った。

外道「だから俺はとっととあいつを討ち果たして石嗣先生の姫を保護しようつったんですよ。それをこいつが」

三翼こと藤原亜毒が言を遮る。

亜毒「否。職務遂行

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