或る夜のひと時
クシャクシャのシーツ。
ベッドから零れ落ちた枕。
床に捨てられたシャツに
乱雑に散らかった下着。
横で眠る彼と、それを見る私。
幸せと不幸の有象無象を、
薄明るく、白い月が照らしている。
幸せそうに寝ている彼の頭をそっと撫でて、
私は頬に優しくキスをした。
朝になったら戻ってしまう。
朝へと近づいていく。刻一刻と。
泣いて縋っても、決して戻ってはこない。
川の流れを、1人で止めようとしているみたいだ。
今死んでもいいから、この時間を永遠にしてください。
そんな願いも、ここではただひたすらに虚しく。
彼は、また遠くに行ってしまう。
どんなに引き留めても、彼には帰る場所がある。
どれだけ無理をしても、
逃れたいと思っても
下水道を行く雨水のように
全てはあるべき場所に帰着するのだ。
彼の帰る場所がここでないのなら
私のいる場所は、一体なんだろうね。
私は彼のものになれないし、
彼は、私を愛してくれないけれど
だからせめて私だけは
私の味方でいようと、そうありたいと思っている。
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