自然と人工の共存

散歩をしていると、電信柱の電線に鳥が3羽、間隔に並んでいるのが見えた。

何だか可愛く思え、しばらく眺めていたのだが、あまりにも動かないので少し心配になってきた。

私はスマホを取り出し、写真を撮ってからその鳥を拡大して観察してみた。

…普通の鳥だが、どうも生き物の感じがしない。

自分の気のせいかもしれないし、どこにそう感じるのかと言われれば困ってしまうのだが…。

スマホから顔を上げ、鳥の方をまた見ると3羽のうち1羽がこちらを見つめていてギョッとした。

やるなら来い。

そんな気持ちで私はファイティングポーズを取った。

その瞬間、図っていたかのように3羽とも飛び立ち、そのまま飛び去っていってしまった。

何だか拍子抜けしてしまった私はまた散歩をしようと思って歩き出したのだが、頭に何か当たった。

上を向くと、それは確かにさっきまで電線に止まっていた鳥だった。飛び去って行ったように見えたが、もう一度戻ってきたのだろうか。

頭に落ちてきたものを探して足元を見ると、神社のおみくじくらいの大きさの紙が巻物のように丸められて道路に落ちていた。

丁寧に貼り付けられた紙のテープを剥がすと、中には「ウカガイタイコトガアリマス。ショウショウオマチクダサイ。アヤシイモノデハアリマセン」と書かれている。その書き振りは尋常でないほど怪しく、少しばかり怖さもあったのだが、興味の方が勝ってしまい、そのまま待つことにした。

5分くらい経った頃、道の向こうから白髪の、しかしそこまで年齢を感じさせない男性が自転車を漕いでやってきた。くたびれたカッターシャツに白衣、Gパンというラフな格好である。

「いやはや、すいませんお待たせして」

とその男性は私の目の前に自転車を停めて言った。

「突然のことで驚いたでしょう。でも、私も驚いたのでおあいこです」

突然何を言い出すのだろう、と私はポカンとして見ていたため、彼は口走りすぎたと思ったのか、はっと口を手で覆った。

「すいません、何も事情を申しておりませんで。私、とある研究所の職員なのですが」

「研究所?」

「そうなんです。研究所でいろいろな研究をしているんです。あの鳥も、実は研究の一環で」

「あれはなんですか?」

「あれは、ドローンです」

「ドローン?ドローンというと、プロペラがあって、もっと機械的というか…」

「今は、そうですね。ですが、これから先はまた変わっていきますよ。例えば魚なんて無人潜水艦なんてものがありますし」

「それで、教えてほしいのですが、どこに違和感を持ちましたか?」

「違和感?」

「あれ、気づいていなかったのですか?じっとこちらを見つめていたような気がしたので、てっきり気づかれたのかと」

「あぁ…。まぁ、気づいたといえばそう…?」

彼は私の発言に目を輝かせた。

「そうでしょう。やはり。どこですか?僕、今回のは完璧だと思ったんです。しっかり鳥の呼吸だったり仕草も意識して作ったと思うんです」

「目線、ですかね。じっと見つめていませんでした?3羽揃って」

彼はきょとんとした顔になり、

「3羽?僕が作ったのは、1羽だけですよ」

と言ってから、

「あぁ、そういうこともあるんですねぇ。まさか本物の鳥によって見破られるとは」

と腑に落ちたように笑った。

「いやはや、自然とは面白いものです」

「あの、研究所っていうのはどこに?」

「すいません、それをいうことはできなくて。こういった研究なので、ごくごく限られた人しか知らないのです」

「この近くにはあるってことですか?」

私がそう言うと、彼はニヤリとした。

「それはどうでしょうか。私の研究に付き合っていただいたお礼として少しお答えしますが、この近くには研究所の入り口があるだけです」

「じゃあ、近くにあるってことじゃないですか?」

「入り口があるだけで、そこからはまた別の移動手段があるってことですよ。ですから、研究所自体が近いわけでは決してないのです」

「他にはどんな研究を…」

しているのですか、と言いかけたところで、彼がそれを制するように言った。

「それ以上は言えません。色々な業者から依頼されていますから、プライバシーの観点からもそうですし、様々な部署があるので自分も全てを把握しきれていないというのもあります」

「ただ、一つ言えるのは全てこの国のためになることですから、それは安心していただけたらと思います」

「それでは、この辺で。あまり長話をしすぎてもあれなので。会えてよかったです」

彼はそう言って、また颯爽と自転車に乗って帰っていった。彼の行った先が気になった私は、彼が角を曲がってから追いかけて行ったが彼の姿はもうなく、周囲を探しても民家ばかりで、「入り口」になっていそうな場所は見当たらなかった。



こうして私の「不思議」な散歩は終わったのだが、その日以降、鳥を見るとどうしても意識して見つめてしまうようになった。無論、あのようなことはないし、ないものだろうと思っているが、どこか期待している自分もいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?