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「純粋」な宇宙人を人類が導く

今や、宇宙旅行が当たり前となった時代。
人々は地球の外に可能性を感じるようになっていた。人々は、宇宙をいかに早く移動できるかの開発に力を入れ、その甲斐もあり何光年も離れた場所であろうとわずか数年で行くことができる宇宙船を作り上げることができた。
人類の叡智が詰まったその宇宙船に、選りすぐりの優秀な船員を乗せ、地球から旅立った。それは何か宇宙からの新しい発見、もしくは「宇宙人」の探索を目的としたものであり、彼らは期待を持って送り出された。
その宇宙船が地球を飛び立って5年が経過した頃、人々はあるニュースに釘付けになった。遂に人間に似た知性を持つ生物を発見したというのだ。更に彼らの興味を惹いたのは、その宇宙人がとても純粋な生物らしいということだった。まだ宇宙船から観察するに留まっていたため、彼らの正確な生態はまだ分からなかったが、彼らの外見や生活は観察できた。顔以外にも毛が生えていることと、何も着ていないことを除けば、姿形はほぼ人間と同じのようだった。顔はほぼ現代人に近いものの、それ以外の体は猿人といえば分かりやすいだろうか。
どうやら彼らは互いに意思疎通はできるものの、地球で用いられている言語ほど複雑な事を話せるわけではなく、大した道具も使わないため生活水準も地球と比べればかなり低い。
果物や木の実を採取し、必要な分だけ食べるという生活で、地球にいる人々からすれば「可哀想」だとの声も散見された。自分たち人間が、より良い生活への発展へ導かねばならない。世論は、この意見が最も大きなものとなった。
「人類がその宇宙人を正しい方向へ導く」との方向性のもと、急遽、世界から集められた各国の代表者らが召集され、議論を重ねることとなった。
最も重視されたのは技術の伝達だった。ものを与えるだけでは本当に豊かになるとは限らない。技術の教えることも発展の大事な礎となる。方針が固まったところで、地球の幹部らは船員らに決定事項を伝え、その宇宙人たちに接触するよう伝えたのだった。


ここは、宇宙船の船内。地球からの連絡を受け、宇宙船をその星に着陸させ、彼らとの接触を図ることにした。
宇宙船をその星に着陸させて彼らに近づき、挨拶から始めた。彼らは最初こそ怯えていたものの、代表団たちの表情とジェスチャーで自分達に敵意がないことをアピールすると理解を示し、友好的な態度でその宇宙人の家に案内された。
案内された先には家が数件、まばらに建っていた。家の中は、外から見たままと言おうか、内装も本当に石器時代のような、やっと木や枝で家を建てることのできた初期段階というような状態だった。恐らく火の使い方も知らないのだろう、振る舞ってくれた食べ物は、ほとんど手の加えられていない木の実や果物のみだった。代表団はそれを少しもらい、美味しい、とジェスチャーと笑顔で伝えた。地球で加工された食べ物の方がよほど美味しい、との本音は口が裂けても言えなかったが。
ひと段落し、代表者たちは、彼らにメッセージを伝えた。
我々は地球という星からやってきた者であること。あなた方よりも良い生活をし、高度の技術をもっているため、それを教えにきたこと。これから友好関係を築いていきたいということ。
意思疎通には時間がかかったが、代表者らの意味を理解すると、彼らはいたく感動したようで、感謝の言葉を述べているようだった。
代表団たちの意思を理解してもらった上で、まずは言葉を覚えることから始まった。技術等を正確に教えるには、言語の習得は必須だ。しかしこの星の者は決して知能レベルが低いわけではなく、むしろ地球人よりも高いかもしれないと感じられるほどだった。言語を覚えるのに大した時間はかからず、大した期間もないうちに、普通に会話ができるようになった。彼らの順調な滑り出しに期待を抱きつつ、そのまま本題の技術習得に移ったが、彼らはそこまで興味を示さないようだった。今ある生活で満足しているため、これ以上のことは望んでいないらしい。彼らが教えた言語で話をすること自体は楽しんでいるようだったが、それ以外は特に何もなかった。
代表団らは、それでも粘り強く技術の進歩によって色々なことができるようになる、などと説得を試みたが、全くもって暖簾に腕押しだった。彼らは宇宙人たちに教えるのを一旦諦め、先ずは彼らの話を聞き、彼らが今どのような状況なのかを把握することにした。そこに何か、次のステップへと繋がるヒントがあるかもしれないと考えたからだ。現状をまとめると、このような状況だった。

・この星には、いくつかの国が存在するものの、境界線は曖昧であり地球の国境のような概念は存在しない。
・互いの国へ行き来は自由で、どこに住んでも良い。
・リーダーのようなものはほとんど存在しないに等しい。その国を統治するリーダーはいるが、ほとんど仕切るようなことはせず、何か大きな危機が起こった時に、話をまとめる役のようなものだけである(しかも危機と呼べるようなものは全くと言っていいほどない)。
・今のこの生活環境に満足しており、この生活を変える必要はないと思っている。

どれだけ説得しようと、今の生活に慣れてしまって満足しているのだから、の一点張りだった。それでも別の星の人と話すのはやはり楽しいようで、彼らは代表団らと嬉しそうに会話をしていた。なんとかその会話を楽しむ流れの上で、どうにか技術を教えようと努力はしてみたが、それも全くの無駄に終わった。
それから1ヶ月ほど経ち、代表団へ地球への帰還命令が出たことで、彼らは地球へ戻ることになった。
「ありがとう、また来てください」
と、彼らは心から名残惜しそうに最後まで手を振って送り出してくれた。
「良い人たちなんだけどな」
彼らを見ながら、代表団の一人がそう呟いた。
地球へ戻り、代表団はその星での状況を報告した。全世界でそのニュースが流れると、人々は口々に「怠惰な星の者だ」と言い捨てた。我々人類が教えてやっているのに、その態度はないだろう、と。その意見の中には、もう我々ができることはしたのだからそこからは向こうの勝手だ、もう教えなくていい、と言うものもいれば、力づくでも教えるべきだ、恨まれるかもしれないが、時が来れば感謝するだろうと言う者もいた。彼らをどうしていくかの会議は何度も開かれたが、それも難航を極めた。
「我々の計画は完璧だったはずだ」
その何度目かの会議で、全員頭を抱えていた。
「えぇ、確かに、間違いはないはずでした。しかし、彼らの考え方が我々の想定と違っていたことが問題なのです。彼らは今のままで満足してしまっていることが一番の問題。彼らに向上心が見られないのも、そのせいなのではないかと思っております」
「どうしようもないのか。しかし、これで断念するわけにはいかない。成長を遂げた我々には、彼らを発展させ豊かにするという責務がある」
「何か策を考えなければ」
彼らは頭を悩ませ続け、喧喧諤々の議論を交わしたが、結局これと言った案は出ないまま、虚しく時間だけが流れていった。
「もう一度彼らに、その星へ行ってもらい、彼らの思想信条、思考、特徴など、何の取り止めのないことでもか抜け漏れなく記録させ、そこからまた考えよう。もし可能であれば、彼らに何か有効的な策を考えてもらうのもいい」
ひとまず出た結論はこれに落ち着き、代表団にそれが伝えられた。難しいことを言う、と彼らは頭を悩ませた。

また代表団がその星に再び降り立つと、彼らは丁重に出迎えてくれた。自分たちが地球に帰った後、自ら勉強していてはくれないだろうかと淡い期待を持っていたが、この前に来たときとほとんど状況は変わっておらず、彼らはため息をついた。
迎えに来られた時に、一人の宇宙人が尋ねた。
「私たちには疑問があるのです。あなた方人間たちは、どのように技術進歩していかれたのですか?人間としておおよそ2000年でここまでの技術を身につけたとおっしゃられています。更にいえば、200年程度で大きな技術の飛躍を遂げたと聞いています。しかし私たちは1万年も前から同じような生活をしているのです。あなた方と何が違うか、非常に興味があります。どうやら、私たちとあなたたちでは何かの根本的な考え方が違うようだ。私たちはその違いを知りたい。つまり私たちはあなた方の歴史を勉強したいです。あなたたちと同じような道を辿れば、あなた方のような素晴らしい知性と技術が身につくわけでしょう」
代表団は顔を見合わせた。これは、良い傾向かもしれない。
「分かりました。では、上と掛け合って、人類の歴史を学べる資料などをもってくることにしましょう」
代表団は、これを幹部に相談し、地球の歴史の資料や教材を取り寄せてもらえないか伝えた。
「これは素晴らしい進歩ではないか。今までは技術のことに関心を示していなかったのに、これは良い傾向だ。では、取り急ぎ送ることにしよう」
「これから、地球から人類の歴史の資料を送ってくださるそうです」
代表団はそう宇宙人らに報告すると、彼らは喜んでいた。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
彼らはそこでまた1ヶ月間滞在し、結果を地球へ報告をするためまた地球へ戻ることになった。彼らは全員が例外なく親切で優しく、明るい。これに人間の技術が加わったならば、もしかすると地球以上に素晴らしい星へと進化するのではないか。お互いに成長できたならば、地球としても我々が想像している以上のものが生み出されるのではないか。そんな期待さえも抱かせた。
「我々はこれから帰還しますが、別の宇宙船で荷物が届くはずです」
「色々とありがとうございました」
宇宙人は深々とお辞儀をした。
「地球での報告が終われば、またこちらに戻ってきます。お元気で」
地球へ帰る道中、代表団全員が言い知れぬ胸の高鳴りが止まなかった。彼ら宇宙人は少なからず、地球に興味を持ち、地球のことをもっと知りたいと言う。未来は明るいのではないか。
地球に戻った代表団は、その幹部たちに会い、結果を報告をした。
「それは素晴らしい。このまま様子を見よう。もう既に地球と、人類の歴史はその星に送っておいた。きっともう荷物は届いているだろう」


その数年後、代表団はまた集まり、様子を見ることになった。
「楽しみだな。彼ら、どうなっているだろう」
口々にそう言い合っているうちに目的地の星に辿り着いた。
あれ、と窓の外を眺めていた船員が声をあげた。
「前に宇宙船を止めた場所が無くなっている」
急いで船員たちが窓から覗くと、その星の様子は明らかにおかしかった。というのは、前にきた時は自然が豊かで家もまばらで長閑な雰囲気だったのが、今はそんなものは見る影もなく、居住区は整理されており、周りには柵すらしてあった。無機質なビルが建てられ、道路は自然にできたものではなく、見るからに人工的に作られたものだった。
前回とは全く違った景色に、彼らは驚きを隠せなかった。事態を飲み込めないまま、以前に着陸したであろう場所に宇宙船を着陸させると、警備隊のような者たちが3人近寄ってきた。彼らはカーキ色の作業着のような服を着ており、彼らの見た目は地球人と言われても分からないほどになっていた。そして、彼らは銃らしきものを手に持っていた。
「すいません、どちら様でしょうか」
警備隊らしいその宇宙人が口を開いた。
「あの、我々は地球からやってきたものなのですが…」
戸惑いながら代表団の1人が答えると、
「そうでしたか。少々お待ちください」
と言い、トランシーバーのようなものを取り出し、誰かに連絡しているようだった。
「お待たせしました。こちらへお越しください」
彼ら代表団はその星の「車」に乗せられ、大きな道をしばらく走った。
中でも一際大きな建物の前に着くと「車」から降りるように言われ、中に入るよう指示された。言われるがまま中に入ると、そこは教会のような、荘厳な雰囲気すら漂う大きな部屋だった。側面にある窓には大きなステンドグラスがあった。その建物は天井も高く、高い建築技術が必要になるだろうというのはどこから見ても明らかだった。この前に来た時には想像もつかないような建物だと言わざるを得ない。
その入り口から赤い絨毯が敷かれており、その先には前回に代表団たちに人類の歴史が知りたいと話した宇宙人がいた。大きな椅子に座っており、以前と服装や住んでいる環境かなり変わっているようだが、前回に来た時と同じく笑顔で彼らを迎え入れてくれた。
「この度は人間の歴史についての資料を送っていただきありがとうございました。非常に参考になりました。おかげでここまで進歩することができました」
彼は深く礼をした。代表団の1人が、
「それは良かったのですが…。前にここを離れたときとは全く環境が変わっているような気がするのですが…。何が変化したのでしょう?」
と恐る恐る尋ねると、彼は、まるで彼らが冗談を言っているかのようにその質問を笑い飛ばした。
「何をおっしゃいますか。あなた方は、私たちがここまで発展することを望んでおられたのでしょう?何も疑問に思うことはないじゃあありませんか」
彼らは何も言えなかった。
「言わずもがな、あなた方がどういった意識でもってここまで発展を遂げたかを調べただけです。何も変わったことはしていませんよ」
「それは何を…学んだんですか?」
「あなた方は戦争をし、人と物を奪い、それの産物として何かを生み出されていたということです。そして倫理よりも、生み出せるものは生み出せ、副作用があってもそれはまた後で考えておけばいい、と、そう言った発想からだったのですね」
団員の1人が慌てて
「いえ、我々もそれから学んで、それでは駄目だと軌道修正はしているのですよ」
と言った。彼は首を傾げ、
「そうですか?あなた方からいただいた資料からは、そうは読み取れませんでしたよ。どうやら人間は本音と建前の使い分けが上手いようだ」
と言って優しく微笑んだ。
「ほら、今だって、強大な経済力を武器に、別の国を脅かしたり、それがない国は武器を作って威嚇したりしているのでしょう。このいただいた本の中にも書いてありましたよ。今も小さな紛争は少なからず起きていますし、大きな戦争だって、いつ起こってもおかしくないじゃないですか。実はあなた方、戦争がしたいんでしょう、きっとそうなんでしょう。戦争をすると、また別の新しい技術が得られるから、経済がうまく回るから、みんな戦争は嫌だと言ってるが、本当はそう思っていないんじゃないですか」
「そんなことはないです。決して。私たちは過去から過ちを学んでいるのですよ」
団員たちはまた慌てて否定したが、彼にその言葉は届いていないようだった。
「我々の星も、ここ何年かで争いが耐えなくなりました。いかに自分たちの国の人員を減らさず相手の領土を勝ち取るか必死なのです。これこそが、あなた方の望んでいた素晴らしい社会なのでしょう」
彼らは、それに声を掛ける言葉が思い浮かばず、俯いていた。
「どうしたのですか、どうか顔を上げてください。胸を張ってくださいよ。我々はあなた方に感謝しているのですから。私たちは、あなた方の考え方を完全に理解したので、生活水準はどんどん上がっています。もう、あの時のような生活は戻れません。あなた方の仰られていた『住みよい暮らし』を知りましたから」
彼は、誇らしげな表情だった。
「人間は、我々よりも優れた種族なのでしょう?だからこうして我々に教えてくださったのでしょう?今度は、強力な兵器などの作り方を教えていただきたい。なるべく広範囲にわたって攻撃できる兵器が有難いですね。今どの国も、次にどこが新しい兵器を生み出すかに必死なのです。人類はそうやって切磋琢磨しながら技術を高めてきたのでしょうから、またお力添えを願いたい」
どこからか、「ビーッ」とブザー音が流れた。
「あぁ、隣国がまた攻めて来るようです。少々こちらでお待ちください。これから私が指示を出してきますから。また私が帰ってきましたら、これからどうしたら良いか、どうかご指南ください」
彼は、「純粋な」笑顔でそう言い、困惑した表情を浮かべている代表団を部屋に残して出て行ってしまった。

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