「女記者が見た、タイ夜の街」第７回：韓国がタイ人を入国拒否する理由

■出身地も入国拒否の理由に？

#แบนเที่ยวเกาหลี (韓国旅行禁止)
#ตมเกาหลี (韓国入国管理局)

2023年10月、韓国に渡航したタイ人が入国拒否される事例が相次いで発生し、こうしたハッシュタグがタイのX（旧ツイッター）でトレンド入りする事態となった。

タイの英字紙ネーションによると、入国に必要な書類を全て揃えていたにも関わらず、持ち込む金額が多いという理由で入国拒否された事例や、これまでの韓国への渡航頻度が多すぎるとして、入国を断られた例などがあるという。

渡航前から、門前払いを食らうタイ人もいる。筆者が話を聞いたタイ人女性の知人男性は、韓国渡航に必要な電子渡航認証システム「K-ETA」に３回申請したにも関わらず、入国許可が下りなかった。

タイ人女性は、「その男性は北部出身で、審査にも多くの時間がかかっていたようだ。もしかしたら出身地も、原因の一つなのかもしれない」と話す。

タイでは北部・東北部の所得が相対的に低く、こうしたエリアから海外に出稼ぎに行く人も多い。この男性に入国許可が下りなかった原因は不明だが、タイ人の間ではこのように、出身地さえも入国拒否の理由になり得るとの懸念が広がっている。

■不法滞在者は８年で３倍に

こうした事態の背景には、韓国でタイ人の不法滞在者が増加していることがある。

韓国の公営放送ＫＢＳ（韓国放送公社）の報道によると、タイ人の不法滞在者は2015年の5万2,000人から2023年9月時点で15万7,000人と、8年間で3倍に増えている。この数は、中国人の不法滞在者（約6万4,000人）の2倍以上だという。

こうした不法滞在者たちは、タイ語で「ピーノイ（小さな幽霊）」と呼ばれる。公式な就労者としてはカウントされないが、彼らは確かに韓国経済を支える存在だ。

韓国も日本と同様、少子高齢化によって農業や畜産業、サービス業などで労働不足に直面しており、安い賃金でなんの保証もいらない「使い捨て」できる外国人を雇えることは、事業主にとって都合がよいという現実がある。

話しを聞いた韓国の大手新聞社の記者は、「不法滞在のタイ人を雇用しているのは、韓国人事業主たちだ。タイ人の不法就労者が増えるのは、外国人を安く雇用しようとする、韓国人事業主の過ちからくるものだ」と憤る。

■リスク冒しても渡韓したい理由

こうした韓国でのタイ人の不法滞在問題は、コロナ禍が明けた頃から特に問題視されてきた。タイの公共放送タイPBSは2022年８月、韓国の済州国際空港で３日には115人が、７日には106人が入国拒否され、強制送還されたと報じている。

不法滞在者の多くは、最初は団体ツアーの一員として入国するが、ツアーの途中で行方をくらますという。動画投稿アプリ「TikTok」では、「韓国でどのように仕事を探すか」「どうしたら強制送還されないか」といったノウハウを紹介する動画が、タイ人により相次いで投稿されている。

TikTokでは韓国での不法就労に関する情報があふれている
（タイPBS World）

こうした不法滞在者の多くは、タイでの１カ月の賃金が約１万バーツ（約４万円）程度の、低所得者層だといわれている。

タイPBSは、「タイの最低賃金は１日330バーツである一方で、韓国なら同2,054バーツが稼げる（22年8月時点）」と６倍の差があると指摘。不法就労を試みようとしたタイ人の話として、「毎月１万バーツの給料では、生活がとても苦しい。稼ぎを得たくて、リスクを冒しても韓国で仕事を探したい」とのコメントを紹介している。

■搾取される不法滞在者

不法就労には、当然ながら多くのリスクが伴う。ロイター通信の2020年12月の報道によると、2015年以降、少なくとも522人のタイ人が韓国で死亡しており、このうち84％が不法就労者だった。死因は10人に4人が不明とされ、判明している主な理由は健康問題、事故、自殺だった。

タイ外務省によると、15年～18年にかけて韓国で死亡したタイ人は283人で、海外でのタイ人死者数の国別で最も多かったという。

不法就労者である以上、体調不良や事故に直面しても、適切な医療にアクセスすることは難しい。何時間も休みなく働かさせられ、搾取されていても、強制送還を恐れて従ってしまうという。

■タイ人の薬物犯罪に危機感

そうした状況下、稼ぎを得るため、韓国で薬物の売買や売春に手を染めるタイ人も相次いでいる。

韓国でのタイ人による薬物犯罪捜査で、タイ語通訳を務めていた知人によると、そうした犯罪に関わっていたのは、多くの場合、北部・東北部出身のタイ人で、稼いだ金はタイに住む家族に送金していたという。

売春の一例では、23年５月に慶尚南道昌原の住宅施設で、20～30代のタイ人女性4人の売春を斡旋した事業主が逮捕された。

韓国の国際新聞（국제신문）によると、この事業主は22年７月から23年４月にかけて、客１人当たり9万～24万ウォン（約１万～２万7,000円）で女性らに売春させていた。

4人のタイ人女性は、3カ月間の短期観光ビザで入国した不法滞在者と認定され、昌原出入国管理局に引き渡されたという。

こうした中、韓国の法務部（日本の法務省に相当）は「タイ人の不法滞在は国内の労働市場を歪め、薬物犯罪などの凶悪犯罪を通じて国民の安全を脅かす可能性がある」と指摘。「これに備えて入国審査を行うとともに、入管手続き中に、不法滞在の意思のない人が入国拒否されないよう、より一層の注意を払う」と説明している。（KBS・2023年11月３日）

タイでは経済発展によって中間所得層が拡大し、気軽に日本や韓国へ旅行に来るタイ人も増えた。

その一方で、貧富の差は広がり続け、貧しい者は犯罪に手を染めるリスクを冒しても、海外へ出稼ぎにやってくる。本シリーズ第６、７回をみると、その構造は2020年代になった現代でも、いまだ変わっていないことが分かる。

なぜ、貧しい者は、貧しいままなのだろうか。

次回、「タイ北部・東北部が貧しい本当の理由」で考察する。

●参照URL

https://www.nationthailand.com/thailand/tourism/40032294

Thais horned by strict immigration control... Ministry of Justice "Never Discriminated" | KBS News

[Correspondent's Report] 140,000 illegal immigrants... How do Thais get into Korea? | KBS News

Explained –Why is South Korea a destination for illegal Thai workers?ーThai PBS World
https://www.youtube.com/watch?v=SzbhCvwRMEI

焦点：出稼ぎタイ人は「小さな幽霊」、韓国で数百人が死亡 | ロイター (reuters.com)

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