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男がかわいく思えたら



「男がかっこよく見えるうちは、まだ大丈夫なんだよ。取り返しがつく。
けどね、男がかわいく思えたら。
もう終わりだね。ズブズブの沼。
はまってしまって帰れない。」


いつだったかの温泉旅行で、とある女友だちが酒を煽りながら、そんな熱弁をふるった。

明らかに酔っ払ってスイッチの入った彼女の発言に、私たちはひとしきり笑ったあと、

「「「わかる!!!」」」

と何度も何度も頷いて、ワイングラス...もとい紙コップを揺らし、枕をかかえ、布団の上を転げまわって、いかに男の「かわいい」がキケンかを話し合ったものである。

酔がすっかり醒め、時間が経った今でも時折、この言葉を思い出す。

これほど真実の詰まった格言があるだろうか。

男の「かわいい」はキケンである。

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この時点で、うんうんうんと頷いてくれている女性はどれくらいいるだろうか。

頷いてくれた方よ、同士よ。

我々は、苦かったり酸っぱかったり甘すぎて吐きそうだったりする様々な経験を経て、かっこいいよりも可愛いの方がはるかにキケンな感情であるということを知るに至った。

その道のりは、きっと簡単なものではなかったことと思う。

心から、労わせてほしい。

いっしょに、お酒を飲もう。

.

はて、と首をかしげている貴方。

わかる、わかるよ。

私も、6年前くらいに言われてたら、何言ってんのこいつってなったと思う。

「私はかっこいい男が好きで、いわゆるかわいい系の男の子はタイプじゃないからな」

とか

「いわゆるダメンズみたいなのにハマっちゃうみたいなそういうこと? それは私は共感できない」

とか。

そんなふうに思ったと思うんです。


でも、それは違うと、声を大にして言いたい。

この最強にキケンで最強に楽しい、男の「かわいさ」とは、

甘えん坊の年下彼氏♪的な可愛さでも、

この人私がいないとだめになっちゃうの的な可愛さでも、

ましてや浮気と束縛とかしちゃって本当ダメなんだけど、なんか心を掴んで離さない系の可愛さ(これは恐怖とよびたい)

でも、ない。

私たちが旅館中に「わかるーーー」を響き渡らせたのは、
他でもない「かっこいい」と思った彼がみせる、「純度100%のかわいさ」についてなのだ。

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例えば。

サプライズを仕掛けて、彼女が感動して泣いてるのをみて、自分ももらい泣きしてる姿だったり。(彼女より泣いてるじゃん)

朝寝ぼけたまま、ふにゃりと笑って抱きついてきて、そのまま眠る姿だったり。(起きないんかーい)

彼女が具合が悪いと寝ている間に、頑張ってスープを作ろうとして、ピーラーで指を怪我してしまったり。(起きたら血だらけでびびる)

友人と海にいったと思ったら、彼女のイニシャルに形が似た貝殻を、お土産に持って帰ってきたり。(どうやって探したのそれ)

怒った彼女に謝るために、遠路遥々家の前までやってきて、「会ってもらえませんか」としおらしく連絡してくるところだったり。(彼女は家にいなかった...ごめんね)

がらになく、突拍子もなく、彼女の名前が書かれたとんでもなく可愛い LINE スタンプを買ってしまってるところだったり。(いやかわいすぎる)

.

かっこいいと思ってた彼の、いろんな一面がみえてきて、決して声には出さない全力の

「かわいいぃぃぃ」


を私たちが叫ぶとき、
私たちは取り返しのつかないところまで、彼という沼にはまっていくのである。

.

「かっこいい」は憧れだ。

憧れは、遠い。

近づいてみてみると、"あれ?思ってたのとちがうな" と思うことは多々あり、そこで引き返すことはそう難しくない。

かっこよかった男が「かわいく」みえたとき。

それは愛しさであり、

二人の距離が、もう元には戻れないくらいに近づいたことを意味するのだと思う。

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「で、りさ。あんたの彼氏はかわいいの?」
「死ぬほどかわいい。」

(乾杯)

祝福のワイングラスが気持ちよく響いた。(気がした)



ただの惚気でごめんなさい。

でも、ついに、私にも。

かわいいと思えてしまったのですよ、男の人が。

(底なし沼に入っていく感覚、おそろしいです。)



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2020.05.10.   ほそいりさ

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