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不安と興味を与えた「玩具修理者」という本。

子どもの時に出会った一つの怖い本。
私はこの本をきっかけに「心」というものに執着するようになる。

『玩具修理者』(がんぐしゅうりしゃ)
小林泰三の短編小説。およびその映画化・舞台化作品。著者のデビュー作であり、第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した。

Wikipedia参照


私はこの本が大好きでDVDまで買ってしまった。DVDは少し内容が違うのだが、世界観を崩すことなく、むしろもっと好きになった。
語り手を美輪明宏さんがやっていて、その優しくて悍ましい声の厚みに鳥肌が立ったのを覚えている。

今日は、滅多に本を読まない私に不安と興味を与えた「玩具修理者」のお話をしたい。


玩具修理者のあらすじ


喫茶店で2人の男女がいる。女は男に奇妙な思い出を語る。

それは彼女が子どもの頃に、近所に住んでいた玩具修理者の話。大人たちは誰も知らない。玩具修理者は子供たちだけの秘密の存在だった。

玩具修理者は頼めば、どんなおもちゃでも治してくれる。人形、ロボット、複雑なゲームソフトまでも。

ただ1つ、ルールがある。
「玩具修理者は頼んだことしかやらない」
ロボットの腕が動くように…とか、目が光るように…とか。

子供たちは壊れたおもちゃを、こっそり玩具修理者のところに持っていく。大人にバレて叱らないように。そしてルール通りに細かくお願いして帰る。




ある日、彼女は、赤ちゃんの弟をおんぶして両親のお使いに行く。その途中、猫の死体を持った少女に出会う。少女は彼女に言う。

「引っ掻くから猫を踏み殺してしまった。両親にバレると怒られるから玩具修理者のところに持っていく」

少女を見送った後、歩道橋から転倒し、弟を死なせてしまう。「怒られる!」と思ったが、脳裏に玩具修理者の話を思い出す。


自分自身も転倒で顔を大怪我していたが、それどころじゃない。なんとか玩具修理者のところに辿り着き、弟の死体を渡す。他の少年が持ってきたモデルガンと弟が解体されるのを見ながら、自身も意識を失う。

再び目を覚ました時、玩具修理者は、ワープロを修理していた。ワープロには猫か弟のものと思われる肉片が使われており、猫の目はモデルガンの弾がはめ込まれていた。



再び現在の喫茶店。
会話相手の男がその弟で、女は姉だった。
女はあの日の転倒した際に顔の1/4を失っていたが、玩具修理者に修理されたので猫の目を埋め込まれていた。
姉は玩具修理者に一つだけ頼むのを忘れていた。
「私、あの時、あなたの心を頼み忘れたの」
「…ねえ、あなたに心はあるの?」

「姉さんは一体何者なんだ?」 

「あなたこそ何者なの?」



心について考える

この本を読んでから、私は急に不安になった。
なぜなら当時の私は毎日が楽しくなくて感情が無かったのだ。味もしない、体の感覚もない、自分が自分から浮いて出ているような、ふわふわした毎日。

そんな私の目にとまった本。
「…ねえ、あなたに心はあるの?」
まるで私に問い掛けるような一文だった。

そして急に不安という感情を思い出した。
よく考えたら喜怒哀楽を忘れていた。昔はもっと泣いたり笑っていた。体の感覚も妙な違和感がある。

もしかして、実は私は一度死んでいて、誰かが玩具修理者のところに連れて行ったのではないか。
本当は心が無いから感情も無いのではないか。
そもそも心って何だろう。
心って何色だろう。
どんな形だろう。
どんな味だろう。
どんな触感だろう。

考えだすと正解がわからなくて怖かった。何だかわからないけど、たまらなく不安になって涙が出たのだ。

それからずっと考えた。私は思った。
心は二重になっている。
真ん中は丸くて温かくて眩しいくらい光っている。外側は様々な形、色、質感、厚みで包んでいる。
その包んでいるものが感情なんだ。

真ん中にある心の本質は誰もが同じで変わらない。けれど、外側を覆っている感情は、環境や出来事によって姿を変えてしまう。
この二つを合わせて「心」なんだ。


〜 あとがき 〜

なんだか難しい話になってしまったが、今思えば、これを子どもの時に考えてたのが不思議だ。
それだけ全てが不満で、理不尽や不公平について嫌になる程、毎日考えていたのである。

子どもの時に考えた二重の心の形は、いまだに変化することなく「そういうものだ」と思い込んでいる。
私にとっては良い思い込みだ。
どんな善人も悪人も、心の真ん中はみんな同じなんだ。形が違うだけなんだと思うと、許せることがある。無理に受け入れるのではなく、人をただ許す。
そのたびに、自分を救っている気がするのだ。

私は自分の感情が鈍くなると、いまだに「玩具修理者」を読む。私を取り戻すスイッチになっている。

何よりもストーリーが面白い。
何だか終始、緊張感があるのだ。そして、じわっと残る不安。無意識に思い出してつい考えてしまう後味の悪さ。
短編小説なのでさくっと読みやすく、この話の他に2つほど別の話も載っている。
興味があれば是非、読んでみてほしい。

玩具修理者のDVDも、古い作品だがオススメだ。
一点残念なのはまだ3Dやらデジタルグラフィックやらの映像技術が進んでいないのか一部、雑な感じがする。それでも絵本の読み聞かせのような独特な映像と色合い、世界観が怖くて可愛くて美しく感じる。こっちのストーリーの方がすんなり心に入ってくる気がする。
こちらも機会があれば是非観てほしい。

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