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【本の森をそぞろ歩き】 #1


本が好きです。というと、たくさんの方が「私もです!」と小さく手を上げてくれます。そんな方と本のおしゃべりをしたくって、noteにページを作りました。【本の森をそぞろ歩き】というタイトルではじまるnoteは、本についてのあれこれだと知ってもらえたら嬉しいです。


本の森


幼い頃、毎週通っている図書館の本棚を見上げて、大きな喜びと大きな絶望を感じたことを今でもはっきりと覚えています。

「わぁ、こんなにたくさんの本が私を待っていてくれるんだ!」
「わぁ、とてもじゃないけれど一生かかっても絶対に読めない量の本が世の中にはあるんだ……」

まるで、心の悪魔と天使みたいに。このふたつの感情はいつも、あっちとこっちを向いているヤヌスのようです。

本棚は深い深い森で、一度迷い込んだら出られません。次々に読みたいものが出てきて、積読は高い山になり、じっと動かずにこちらを見つめています。本の木々はサワサワと静かなおしゃべりをしながら、こそこそ話を続けます。

「さて、どれにしようかな?」と木々の間を縫うように歩きましょう。ある本は「おいで、おいで」と手招きし、ある本は「魔法の箒に乗ろう!」と語りかけてきます。本の森での迷子はたのしくて、おまわりさんは不在です。

さぁ、ここではないどこかへ。


児童文学の世界へ


今読み返しても十分ワクワクできる
『大どろぼうホッツェンプロッツ』


小学3年生の頃、大好きだった担任の先生から一冊の本を手渡されました。本が大好きで、作文のちょっと得意な小学生でしたから、担任の先生が「おすすめの本」を差し出すのは、なんとなく自然なことのように思えます。

ですが、この時の読書体験がその後の人生の大半を読書に注ぎ込むようになった決定的な出来事でしたっけ。

本のタイトルは『大どろぼうホッツェンプロッツ』。ドイツの児童文学作家オトフリート・プロイスラーの作品です。この物語が、おもしろくて、おもしろくて、おもしろくて!!!まさに、食べるのも寝るのも忘れて本を読んだ初めての経験でもありました。

ですが、大どろぼうがそんなに欲しがる「五月は、ものみなあらたに」という音楽を奏でる『コーヒーひき』も、カスパールとゼッペルがあんなになりたがる『コンスタンチノーブルの皇帝』も、日曜日に食べるという『あわだてた、なまクリームをかけたプラムケーキ』も、見たことも聞いたこともありません。

それは初めて触れた「外国の世界」。当時の私の暮らしでは、どこを探しても見つからないような、素敵なものたちばかり。物語もさることながら、時折登場するその挿絵を食い入るように眺めて、その『もの』たちへの想いも募らせました。

今でも私は帽子に羽がついているものを見たら「ホッツェンプロッツの落とし物」だと思うことにしていますし、我が家のコーヒーひきは「おばあさんのコーヒーひき」の挿絵をもとに、探しに探したお気に入り。苦手な蛙は「ようせいアマリリス」だと思うと、可愛く思えてきますものね。


愉しく生きるお手本を


若草物語だけでも
何冊も持っています


児童文学に出会ってからというもの、ストーリーももちろんですが、その物語の随所に存在するディテールを掬い上げることは、私の日常茶飯事になりました。

例えば、私のレインコートが良い歳をして黄色なのはクリストファー・ロビンのせいだし、空いてない鍵を前にして「アロホモラ」と小さく唱えてしまうのは、ハリー・ポッターのせい。小説を読みながら、りんごをかじりたくなるのは若草物語のジョーのせいだし、手紙を書く時に「あしながおじさま」とつい書きそうになってしまうのは、ジュディ・アボットのせいなのです。

良い歳をして、一体何をしているのだろう……。と考えなくもないのですが、あまり変化のないまいにちを面白くできるのは自分だけのような気がしています。テレビやネットでは、芸能人の不祥事やら暗いニュースやら税金の話やら、いつまでも良くならない政治の話やら未来の大きな不安やらでごった返しているので、できればものごとの「明るい面」を見たいと思うのです。

これもアン・シャーリーの受け売りなのですけれど……。




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