事務所をつくる

 事業を始めるには物理的な“場”が必要だ。世の中には貸事務所だってあるし、貸店舗だってある。私は気楽に考えていた。しかし、事務所を借りること一つにしても、なかなか大変だということを思い知ることになる。

 まずうちの夫婦の場合、現在は二人とも無職なわけで、安定した収入のない人が賃貸物件を借りることそのものが難しい話だ、と借りる段階になって思い知った。そりゃそうだよね。もちろん、そういう人のために保証会社があるわけだけれども。貸マンションとなると、複数の人間が出入りするような業態はNG。オートロックのセキュリティの問題があるし、他の住人が不安がる場合もあるらしい。

 そうなると、ビルの中にある貸事務所あるいは貸家ということになってくる。それでもうちのような事業実績のない“創業”となると信用がないわけで。

 「じゃあ、小さな物件を事業用に買おうか」という話になった。先ほどと同様の理由でローンは組めないので、現金一括で。
 今度は買う方向でいろいろと物件を調べてみたけれど、条件の良い物件にはなかなか巡り合えず。それに事業を始める当初は少しでも現金を持っておいたほうがいい、とも考えた。

 開業するにあたっての事務的な手続きのプロセスにおいて、30年勤めていたとか、貯金がいくらあるとか、そんなことは何の信用にもならないんだな…ということを思い知った。

 そんなこんなで、最初のイメージ通りにはいかなくて、結局「まずは自宅の一室を事務所にしよう」という話になった。事業そのものは一応3段階で考えていて、まず最初の段階を自宅を事務所にして始め、ある程度、事業が安定してきて、必要性が高まれば事務所を借りる、という風に考え方を変えた。

 幸い持ち家なので、一室を事務所にすることができれば、とりあえず“場”はできる。我が家は3LDKで、実は玄関に一番近い部屋を『自転車部屋』にしている。夫婦の趣味であるロードバイク、クロスバイク、自転車ウェア、ヘルメット、手入れ用品などを洋室に入れている。それと防災用品。

 まずはその自転車部屋を事務所に変えようということになった。じゃあ、自転車はどうするか?現在、2階にあるワークスペース兼納戸に上げるという話になった。まあ、自転車はアウトドア用品なので、1階にあるのが望ましいのだけれど、他に方法がないから仕方がない。

 今はその事務所づくりのために、日々、片づけをしている。どちらにしろ仕事を辞めたら、一度、家財を見直して不要なものを捨てようと話していたのだ。

 自宅を名刺に載せることには、まあ、多少の抵抗はあったけれど、登記上は自宅を会社をする場合も多いらしいし、事務所を借りれば名刺やサイトに載せる住所は変更すればいい。

 昨夜、夫と事務所のレイアウトについて話し合ってみた。話し合ってみると、二人の考えをすり合わせていなかった部分が浮かび上がった。
 なるほど~こんな風に具体的に話し合うことで、イメージが徐々に固まっていくんだなぁと、ちょっと感心した。

 まあ、とりあえず大きな方向は決まってきた。事務所を自宅にすることで省ける手間やお金も出てきた。自転車部屋のエアコンは、長らく稼働しておらず旧式のものなので、新しいものに取り替える。あとは来客用の家具を少し購入すれば、体裁は整う。

 なんだか楽しくなってきたな。

 まだ何も始まっていないからか、今はそんなに不安もなく、気楽なもんだな…そんな風にまだまだ他人事みたいに思っている自分がいる。

(つづく)

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