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【本の感想】林真理子さんの『奇跡』…….

梨園を敵に回すかもしれない。
大スキャンダルになるかもしれない。
だから連載ではなく書き下ろしにしたというこの本。
なんと10万部以上売れているらしい。

好きな歌舞伎の世界の話だし…
というわけで読んでみました。

林真理子さん『奇跡』


何が奇跡なのか読めば判明するかな

林真理子さんの本は、今までにも何冊かと、エッセイはかなりの割合で読んでいるので期待をしながら開いたのですが。

ちょっと期待外れなのは期待しすぎた?

結論から言うと、正直私には期待外れ。
すごくここ良い!って部分と、あれ?こここれで文章終わり?な部分の落差と、割合として考えたら、なのですが。
あと同じ表現で人を評していてそれ以上には踏み込んではいないところ。やはりあちこちに配慮しているからでしょうか。

3歳の息子がいる、大名跡の家系に嫁いだ梨園の妻(美しい、聡明)が世界的なフォトグラファーの年上の男性(長身、肩幅、端正な顔立ち欧州ウケが良い)と運命的な出会いをして10年間ほど息子も一緒に住み、最終的に離婚成立して結婚、お相手の方は癌で亡くなってしまう。
歌舞伎界の方々は名前を変え、博子さんたちは本名で書かれています。

主人公の女性、博子さんは、やり通す芯の強さと行動力があり、一人息子をきっちり歌舞伎役者として育てながら、梨園の妻業務もしながら、運命の相手のところへ駆けつけてまさに1日のうちに二重生活をこなしていきます。

奇跡なのは出逢ったことを言っている?

魂レベルで惹かれ合う相手に出会えた奇跡。
ってことで奇跡なのかな。
不倫だけどね。だから美化したいのかしら。

出逢った時はダブル不倫状態。
文章は、博子さんの手記も差し込みながら進んでいきます。
そこで時制が行ったり来たりするのです。
読んでいてものすごくわかりにくい。私だけかなぁ….
惹かれあって一緒に住んでいるところと、息子さんが舞台に子役として出ているのを支えるところが、複層になっているからどのタイミング?とか。いつの話⁉︎とか。

人間国宝の舅さんとか、姑さんもとても優しく、自分たちの息子である、常に女性問題を抱えている面のみ書かれている夫のことを謝ってくださる。

いやいやいや、夫に不満ってそれだけが原因だったら、出逢ったとしても
『奇跡』じゃないでしょ。

やはり表現を抑えているのは、配慮から?

お相手の田原さん以外皆さん存命で現役で活躍されているので、誰のことも悪くは書いてない。だからさまざまな葛藤は博子さんの心のうちだけをさらっと記しています。

林真理子さんはもっと複眼的に重層化した心理をあぶり出せるはず。
だから彼女自身が登場する場面では筆が、文章がイキイキしているんです。林さんご自身を、気づかなかったという立場で(落として)書けるから。

まぁ梨園の男性陣は、女遊びも芸の肥やしとかほんとに都合のいい。
そのあたりの筆力もかなり抑えられているし、林真理子さん、大人になりすぎ。または色々なお付き合いが増えて書かない方向になったのかしら。

林真理子さんと博子さんは園ママ友なんですね、学年は少し離れてるはずですが。梨園の方多いんですよね、あの学校。

話の端に上らなかったのも、作家の勘が働かなかったのも博子さんが目立たぬようにされていたこともあると、書いてありました。

周りの家族の葛藤は?

あとやはり連れて行った息子さん、4歳からはもう田原のおじちゃんと一緒に住みながら、歌舞伎役者になるための子育てを受けているところで、ものすごく理解のある素敵な息子さんとして描かれています。本人の色々をみてもそうなのかなと理解はできるのですが、なんの葛藤もなかったのかな?と。

もちろんそれは夫、舅姑さんたちも同じで。
まぁ親子三代、花形役者の家系ですから
(とは言っても夫と舅の問題についてはさらりとはっきりと書いてあってここは良いんだね!と嬉しくなったり笑)つけたいイメージもあるでしょう。そこを崩すためにこの小説を書くわけではなく、最初に林真理子さんが書いている通り、出逢ってしまったことから始まった燃える恋と愛について書く、が目的だったんでしょうね。

入籍のメリットまで考えてしまいました…

籍を入れたことで、版権管理やプロデュースの権利を奥様となった博子さんが会社社長としてされているので、今後写真展などでのそちらへの流入効果もあるでしょう。
それもまたプロデュースの一環なのかもしれません。しかし早くお別れが来てしまったのはとても残念です。病気に打ち勝とうと奮闘されます。

まとめ。

と言うわけでこの本は、読後はぁ…となったわけです。ただとても良かったのは、博子さんのバイタリティ。林真理子さんにこれを書かせた強さもですが、一貫して自分の信じる筋を通す力、みたいなのは読んでいてどの場面も潔いです。

ただ何度も言いますが、配慮が働き小説としてはそれじゃない感が。生意気な感想ですけど。
でも実際私が同じ学校の保護者のことを書く、書いて!わかった!ってなった時に舌鋒鋭く書ける?と問うと、いえ、えっと…となるかもなので(作家でもないけど)難しいお仕事だったのでは?などと思ってしまいます。

そんなわけでこの本についてはここまでといたします。

お読みいただきありがとうございました。


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