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【鶴亀杯】審査員rira賞【俳句】

ロゴやヘッダーなどのビジュアル担当として、またクルーとして見てきた今大会。ホストにつるさんと亀山さんを迎え、しろくまさんのバリエーション豊かなイラスト、音声合成ソフト「CeVIO AI」を使った歌担当のあずきさん、いつも感動を生む神動画を作成するPJさん。新たなクルーを迎えることで、新たな雰囲気を作り出す。「曲から一句」「七夕」「都々逸」その他こっそり企画など、フィールドの幅を広げてたくさんの交流ができました。

数を求めるのではなく、そこに多くの温かい繋がりを築けたこと、創作の架け橋ともなったこと、とても嬉しく思います。


審査員一人一人の選び方はさまざま。俳句としての優越ではなく、完全なる個人的な好みになります。それがみんなの俳句大会たる所以であり、季語重なりや季節外れの選句もあります。

選ばなかった句の中にもたくさんの秀逸な句があります。むしろ選ばれるなんてホントにおまけです(とミテイさんがいいこと言ってました)。

すべての記事を見てきました。同じものなど一つとしてない、個性的で素晴らしい世界。あなたらしい言葉で、ありのままの創作をこれからも存分に楽しんで頂きたい。


今回は審査員として、ひとつひとつに込められた作者の思いをしっかりと受け止めさせて頂きました。句評など大層なことは書けませんが、鑑賞文として言葉を添えさせて頂きます<(_ _*)>



※敬称略。記載にあたり文字間詰めさせて頂いてます。

隣人の怒声にサイレンと夏の星

怒声とサイレンが、穏やかではない緊張感を感じさせます。夏の夜、アパートの窓を開けても生温い空気が入りじっとりとまとわりつく。虫や蝉の声に混じって、外から聞こえてくる怒鳴り声。どうやら隣の部屋らしい。

外からはサイレンの音が近づいてくる。それはパトカーなのか、救急車か。隣の部屋を目指してるのか、あるいは違う場所なのか。すべては他人事なのに、まるですぐそこでドラマが起こっているかのように、ハラハラしてしまう不穏さと緊張感。流れる汗は暑さのせいだけなのだろうか。

ふと見上げると、夏の星。空の星たちは少し涼しげで。地上の出来事なんて全く関係のない場所から、すべてを見透かすようにただじっと静かに見守っているサイレント(サイレンと)な世界。騒音と沈黙の対比。

初めての俳句に、隣人の怒声とサイレンという思わず耳を塞ぎたくなるような不穏な音を詰め込むというセンス、ミテイさんの個性が炸裂している。何か起こりそうな予感、ざわざわっとした後に静かで涼やかな夏の星をくっつけてキュッと収まりをつける感性。初心者ではなかなかできない。note文芸部に飛び込んできた大型ルーキー。今後さらに抜きん出てくる予想に期待してます。



夏の宵すい星淡く友逝けり

季語である「夏の宵」は、昼の厳しい暑さが収まり始めて、まだ夜になりきらない頃。夏の鮮やかな夕焼けが少しずつ色を失い始めていく。星もほんのりと煌めき始め、静かに、確実に空が移り変わっていく時間。

どこかもの悲しい夏の夕暮れを目の前に、もうすぐ命が尽きてしまうかもしれない友を思い出す。あるいはだいぶお年を召している方かもしれない。なぜこの空を見てその人を思い出したのか、そう思っているうちに星が流れていって。まだ薄明るい空に見えるすい星は、淡い色合い。それは一瞬の出来事。

そして淡いすい星に涙を重ねながら、遠くの友の旅路を星に祈り、やがて夜になる。思い出なのか、今まさに起きた出来事なのか、創作なのか、想像を広げることができる幅の広さ。暗闇で光る星の一体どれが友なのだろうか。そこには、いつまでも動けないでいる悲しげな後ろ姿。夕暮れから夜を、人生が燃え尽きる様に例えることもできる悲哀に満ちた光景。一つ一つの単語に丁寧に想いを詰め込んだ、美しい句だと思いました。




水無月をギヤマンに盛りひとり食む

水無月は陰暦で6月、今なら7月頃。「無」を連体助詞の「の」と読み、「水の月」とするのが有力な説らしい。また田植えの時期でもあり、「水張月」など稲の成長と結びつけて生命力あふれた名前でもある。

ギヤマン、とはガラスをカットして涼しげな細工をされた器。溢れるほど滴る水を、見た目も涼しい青いガラスのギヤマンに注いでいくという比喩。夏の暑い午後、扇風機を回しながらテーブルに置いたギヤマンの前に座る。器の中にはかき氷。暑さで溶けて溢れそうな水を、額に汗かきながら頬張る。体中に水無月が染み渡り、生命力溢れていくような想像ができる。水の揺らぎ、スプーンがギヤマンにぶつかる心地よい音が神聖な儀式のように美しく響きます。

実はここまで書いた後にご本人の注釈を読み、水無月とは和菓子とのことだそう。夏越の祓えの時に厄祓いや夏バテ予防の意図で食べる水無月は、氷の形を模していて透明感ある綺麗な姿をしている。それをギヤマンに盛り付けた様も美しい。そして、ギヤマンの水に月を映して飲み干す様も想像できてしまう。読み込むほどに想像を広げさせる、透明感溢れた美しい句。




ゲリラ戦前夜のごとき蚊の唸り

ゲリラ戦は、奇襲や待ち伏せなど正規軍とは違う攻め方をする。いつのまにか部屋に入ってきてそっと刺しにくる蚊、だけど姿は見えない。気配はあるし音はするのに居場所が掴めないし、刺されないように隠れても、汗や息に反応するから絶対やられる。超エリートゲリラ。

日本独特な戦の合図といえば、法螺貝。「ブォォォー」という独特な音と蚊の「ぷ〜ん」の音はよく似ていて、まるで戦いの合図のよう。小さな部屋の中で開始される蚊と人間の壮絶な戦い。テントの中や野外などいろんな場面も想像できる。

蚊に気づくのは、かゆいな、と思って手足を見た時。ぷっくり膨らむ赤い痕を見て始めて、蚊に攻撃されていることに気づく。ゲリラ戦は、常に蚊の勝利。しかし蚊用の虫除けベープを部屋に撒けばあっという間にダウンしてしまう。ゲリラ戦は蚊の勝利だけれど、特攻したために姿がバレてあっけなく死を迎えることになる。死を覚悟しても特攻する蚊はまさにゲリラの鑑といえるだろう。野外ならば延々に戦いが続けられるに違いない。大きな人間と小さな蚊の戦いのコミカルな様子、小さな夏の日常を「ゲリラ戦」とした比喩が楽しい。




あいしたい君の孤独と夏の星

ツナ子さんは去年の夏、「あいされた記憶が戻る夏の空」でアポロ杯銀賞。この時の句評では「あいされた、と平仮名にしたことで不完全な愛を表現している」とされていた。おそらくこれの続きだと思われます。

壮大な宇宙に浮かぶ夏の星、ちっぽけな君の孤独。そしてそれを見ている私。それぞれが自分の足で立ち、そこから夏の星を眺めている。この広い宇宙には君と私、そして夏の星しかいない、そんな果てしなく広い視点。まるで星空の海の真ん中に立っているような感覚。

夏の星座といえば夏の大三角形。それぞれに愛の神話が語られています。こちらにもそちらにも愛が散りばめられている、だけどそれはまだまだ不安全で。思い起こされた、愛された記憶。それがあるからこそまた誰かを愛することができる。不完全だからこそ愛おしくなるんだ、と。

君の孤独をぎゅっと抱きしめると同時に、自身の孤独もこの星空に抱きしめてもらいたい。そんなツナ子さんの孤独と愛を詰め込んだ心の中を覗いたような句でした。



豆の飯錆びたペダルの馬鹿力 

豆、ペダル、馬鹿力。ここに潜むのは、全力で突き進むようなパワー。豆といえば畑の肉ともいわれるように、人間の体づくりに必要な栄養素がたくさん詰まっている。季語「豆の飯」で想像するのはグリンピースの炊き込みご飯。鮮やかな緑色が爽やかで食欲をそそり、暑くて食欲のない時にも助かる一品。

雨に打たれ続けても頑張ってきた、自転車のペダルは錆びていて。でもそれは、丁寧に手入れされた大事な相棒。自転車だって人間だって、錆びてたって構わない。泥がついててもいい。前に進もうという強い意志さえあれば、ものすごい力を発揮してどんな時もどこへでも進めるんだ、と。

それこそ自転車漫画の「弱虫ペダル」のように、一見出来なさそうなことも、まっすぐ突き進めば全力を超える力が出て乗り換える事ができるかもしれない。そう言われているような力強さを感じる句。




以上が審査員賞となります。


加えて、候補句だった以下の6句を俳句部門の「勝手に賞」として同時に送らせて頂きます。


糸とんぼ蛇口逆さの水飲み場

糸とんぼがひらひらと飛んでいく。透き通る青と、ほっそりした体。その行く先には誰もいない水飲み場。糸とんぼは水辺を好んで住む。美しい羽をした糸とんぼがふらりと逆さの蛇口に止まっている光景。誰かが飲んだ後の水飲み場にはまだ水が溜まっていて、夏の日差しにキラリと光っている。とんぼの羽もキラキラとしていて。まるで時間が止まったような静謐さ、キリトリ描写がとても美しい。



枝豆の莢の綺麗に並ぶ皿

枝豆って秋の季語みたいだけど、感覚では夏。無造作に山となることの多い枝豆の莢。鮮やかな緑色をした莢をひとつひとつ丁寧に並べていく様子はまるで儀式のように厳かに、ひたすらに並べながら、考え事を頭の中で整理していくかのように。こんなところに性格が出るのを良く見ている観察眼。きっとどんなことにも丁寧に気を配るような人なんだろうと想像する。並べ終わった満足感と、さやとさらの心地よいリズム、並べたお皿を誰かに見せたくなるようなちょっとした遊び心を微笑ましく感じました。



月は陰線香花火の落ちる時

月夜に照らされて、激しく火花を散らす線香花火。バチバチという音を立て、しだいに穏やかになっていく。あと少しで落ちる、そんな時に月は陰り、目の前には線香花火の光のみ。小さな灯りに身を寄せているのは、たった一人なのか、それとも向かい合う二人なのか。花火がジュッと音を立てて消える瞬間、物悲しさだけが暗闇に取り残される。儚き命が消えていくかのような瞬間を切り取る、繊細な感性が好きです。



遠花火まだ見ぬ色の火を灯す

遠くに見える花火は、打ち上げられてから少し間を置いて音を届ける。暗闇に光る鮮やかな色を見つめる二人は、まだ少しぎこちなくて。蒸し暑い夜の風のせいか、隣にいる彼を自然と意識して花火よりもそちらに集中してしまう。あと少し、距離を詰めたらこの恋も成就するだろうか。遠く小さく上がる花火が私たちの心にも火を付けてくれることを願いながら。火がつきそうでつかない、恋になるかならないか、くらいが1番楽しい時間。




本棚の隙間に団扇挟みけり

ふとしたしぐさを切り取ったさりげなさが良い。エアコンはなくて扇風機を回した書斎、窓からの風、風鈴の涼やかな音。少し前の昭和な風景が似合う。汗をかき団扇を仰ぎながら、本棚に向かう。本棚から本を取るのに無意識に団扇を本と本の間に挟み、本だけ取って読み始める。きっと本好きなのだろう。夢中になって読み始めるその傍らで、団扇は相変わらず本棚に挟まって取り残されたまま。時折風に小さく揺られている。穏やかな夏の空気の中に、どこか涼と趣きを感じる光景。



賑わいの隣は静か砂日傘

夏の海といえば、大勢の人で賑わう砂浜。カラフルな砂日傘、ビーチパラソルで埋め尽くされ、泳ぐ人はもちろん、砂浜で遊んだり、海の家でかき氷や焼きそばを買って食べたり、思い思い海を満喫している。家族だったりカップルだったりグループだったり、賑やかで楽しそうな夏の光景。

しかし一転して、少し離れたところで静かに海を楽しむ人たちもいる。老夫婦だったり、訳ありだったり。砂浜の脇に腰を下ろして、海は眺めるだけでも心を穏やかに沈めてくれる。まるでポツンと取り残された砂日傘のように。より際立つ波の音と広がる視界が、どこか少し寂しい。私自身も1人で海を目指したことがあって。ただ海に慰めてもらいたかったのかもしれない。そんないろんな人のドラマを垣間見ることのできる句。  




終わりに。


がっちり選ぶ審査員賞、感覚で共感する句を決めるみんな賞、思い思いに選ぶ勝手に賞。好きなものに参加すればいいし、投票を楽しむのも良い。いろんな楽しみ方がある。

参加者として、クルーとして、サポーターとして。そして審査員として。どの立場でも上下などなく、存分に楽しめるよう、いつでも手は差し出されている。それが、みんなの俳句大会。次回行われる秋の大会もまた皆さまを楽しませるべく、そしてそれが私たちにとっても楽しみであるように全力を注いでいきたいと思います。

鶴亀杯にご参加頂いた皆さま、運営に携わってくださったスタッフの方々、またそっと応援してくれた皆さま、心より感謝申し上げます<(_ _*)>




ではラストに、選外にしてしまったけど一覧からピックアップした句をすべて並べます。リンクは貼らないので、気になる方は探してください✨



ありがとうございました✨




※ちゃんとテキストあります🤭(順不同)

かわせみや銀の腹を捕えたり/連山の流れの果ての瀑布かな/ifにthen繰り返すごと花火落つ/下校時の寄り道涼し岩清水/蝸牛くだ巻く吾へ友の酌/夏草や家を絶やすと決めた叔父/からからの大地がぶがぶ喜雨のけふ/純白のヴェールの陰で夏が往く/坂道の思い出の店かき氷/うたた寝の頭上白鷺過ぎにけり/駅のきみけぶる白雨の傘ふたつ/星涼し自由に点を結ぶ君/鬱病の眠れぬ幾夜明易し/紫陽花や錆びゆく命の混沌に/立ち位置を教えてほしい花菖蒲/OSはアップデートや髪洗ふ/九歳の歴史に学ぶ夜の秋/ストローに会話を探すアイスティー/悔しさを飲み干す夜に月涼し/草むらに流れ星一つ蛍かな/光れ未来夏期休暇にはレ点なし/背伸びして枝引く吾子の山桜桃/かかと裏見て駆け出せり夏の海/蝉の声未だ聞かずに炎暑/払暁の凛と背伸ばす蓮の花/まくわ瓜頬ばりしたたる甘い汁/荒梅雨に傘の下にて恋の音/好きになるきっかけを問ふ蔓茘枝/風鈴は聞こえなくなり大都会



🔻三賞&エンディング動画


🔻他の審査員の方々


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