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グラフィックデザイナー三木健さんに伺うセレンディピティとブランディングの話。-「尾道LOG」滞在記から考えてみる-

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダーシップコース
「クリエイティブリーダーシップ特論第11回」
グラフィックデザイナー、大阪芸術大学教授:三木健さん
20.09.2021

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース必修である「クリエイティブリーダーシップ特論」では、毎回クリエイティブ×ビジネスを活用し実際に活躍をされているゲスト講師を囲みながら議論を行います。この記事では、講義内容と私自身の気づき、今後の可能性についてまとめています。

三木健
1955年神戸生まれ。1982年三木健デザイン事務所設立。ブランディング、アドバタイジング、パッケージ、エディトリアル、空間など様々なフィールドにおいて情報を建築的にとらえる発想で五感を刺激する物語性のあるデザインを展開。主な受賞にJAGDA新人賞、日本タイポグラフィ年鑑グランプリ、世界ポスタートリエンナーレ富山銀賞、N.Y.ADC奨励賞など受賞多数。
パーマネントコレクションにサントリ−ミュ−ジアム、富山県立近代美術館。大阪芸術大学教授。(参考:http://ken-miki.net/)

今回は2つのキーワードで三木さんのお話をなぞりつつ、
私自身の経験と紐付けて気づきをまとめてみたいと思います。

2つのキーワードと紐づく話題
セレンディピティ
- 旅の話『ヘリタンス・カンダラマと尾道LOG』
ブランディング
-本の話『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

セレンディピティからはじまる
ブランディングの話


そもそも、なぜこの2つのキーワードなのか。
三木さんは人の脳を借りて(「借脳」というワードというらしい。)思考を繋ぐ「聞くデザイン」でモノやコトの根源を探ったり「気づきに気づく」ことをテーマに五感を繋ぐようなストーリーあるデザインを実践されています。その中で、普段どのようなタイミングで「気づきに気づく」のか。大切にされているのは「セレンディピティ」だとおっしゃいました。

そしてそんなセレンディピティが糧となり、クライアントワークやブランディングに活きていくとのことでした。ブランディングにおいては「心づくり(mind)」「顔づくり(visual)」「身体づくり(behavior)」これら3つが重要とのことです。こちらのお話を受け、ここ数年何度も読み返している本の1つ『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』がまさに講義の話と通ずると思ったので紹介します。

今回はそんな三木さんの「セレンディピティ」と「ブランディング」を繋ぐ1つのデザインワークの例として『Nouveau Coffee』を取り上げます。そして最近「身体づくり(behavior)」が上手だなと思った『Blue Bottle Coffee』の取り組みについて紹介し、最後に講義を受けての気づきをまとめています。

セレンディピティ
- 旅の話 『ヘリタンス・カンダラマと尾道LOG』

さて、そもそも「セレンディピティ」については以前『"人類を代表して感謝伝えたい!"自然と一体化したホテル、ヘリタンス・カンダラマ滞在記。』という記事で一度説明しているのでこちらをご参照ください。

講義の中で三木さんは「旅」から発想を得ることがあるとおっしゃっていました。そのため、今回はちょっと旅の話をカジュアルに。
というのも、ちょうど先週以前訪問した「セレンディピティ」を体現したホテル「ヘリタンス・カンダラマ」を彷彿させる施設に滞在したばかり。

広島は尾道「LOG」という古いアパートをリノベーションした複合型宿泊施設です。

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インドのアーキテクチャ集団であるスタジオ・ムンバイが手がける海外事例としては初めてのプロジェクトで、内装塗装はムイルネ・ケイト・ディニーンさんというイギリスのカラーアーティスト、客室は和紙職人のハタノワタルさんの和紙があしらわれ、食事は料理家の細川亜衣さん監修、料理が提供される器は1つ1つが作家さんの手作りであるなど手仕事溢れる空間が実現されています。

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「LOG」については多くの記事が出ているので興味ある方は見てみてください。

今回「LOG」に着いた際、私が感じた第一印象は「ヘリタンス・カンダラマ!」でした。なんでだろう?と思ったのですが今のところの答えとしては「自然と建物の馴染み方」そして「予期せぬ幸運(セレンディップ)に出会うことのできる環境が整っていること」だと思います。

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「自然と建物の馴染み方」
言うまでもないですが、両ホテル建物の周りはとても自然豊かです。規模や壮大さは違えど、青々とした緑が目に入り、館内ではどこにいても陽の傾きを感じることができます。そんな刻一刻と変化する自然とむき出しとなった外とも内とも言えない微妙な建物のあり方それぞれの境界線をも曖昧にしている点が似ていると思います。

「予期せぬ幸運(セレンディップ)に出会うことのできる環境が整っていること」
ヘリタンス・カンダラマでは私たちが予期せぬような動物との出会いや景色との出会いがありました。一方でLOGでは、館内の至る所やスタッフさんとのやり取りの中で、施設に携わる人々の手仕事を感じ彼らの作品へアクセスできる仕掛けが多くあった印象を受けました。例えば、Libraryには100冊以上のアーティストに関わる本があり、Gallaryではこのプロジェクトが現在に至るまでのプロセスが模型やワークブックとして展示されています。

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元々新しい気づきを得たい!などと思って訪問したつもりはないのですが、今回の滞在によってそれまで知らなかったクラフトマンらの価値観、味覚、職業などとの出会いが私自身中で新しい発想が芽生え「ハっと」することも実際にありました。

ブランディング
-本の話『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』

さて、脈絡は少々荒々しいですが続いてブランディングの話です。
今回三木さんのお話にあった、「心づくり」「顔づくり」「身体づくり」の3要素ですが、これら3つを実際に言葉にし形にしていく際とても参考になると思うのが『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』』という本。

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書籍紹介
著者;NYの美術大学 School of Visual Arts、グラフィックデザイン科を卒業した2名の世界的に活躍される女性(小山田 育/渡邊 デルーカ 瞳)
概要:具体的に彼女たちが行っているブランディングのプロセスを言葉と図式によってシンプルでありながらも丁寧に説明されています。ブランディングとは?ということから、実際にビジュアル化、世界観を直感的に表現するためのノウハウ、実践のためのエクササイズがついているなど机上の経営戦略だけではない実用的な内容も充実しています。
(参考:https://nybrandingbook.com/ )

自分が今取り組む「nest granola」というブランドの世界観を形にしていこうと思った際に手に取ったのですが、それまで造形やブランディングの経験がなかったドビギナーな私でもとっつきやすく、実践もしやすかったです。これから何かブランドを1から自分で立ち上げてみようと妄想されてたり、ブランディングに関心のある方は一度チラッと読んでみることをオススメします。多分、そんなつもりなくてもいつの間にかやりたかったことが形を成していて、それだけでワクワクするのではないかと。

さいごに...
コーヒーにまつわる素敵なブランディング事例を2つ


さて、ここで三木さんから共有していただいたブランディングの事例を1つご紹介。

それは『Nouveau Coffee』というブランド。
"原産国の文化や風土を含めパッケージングすることで、コトとしてのギフトの価値を与える。”ことをコンセプトにしています。
このコンセプトを体現する仕掛けとして、大航海時代を彷彿させるような紙質をパッケージに採用し、そんな油紙に包まれた筒状のパッケージの中には、コーヒーだけでなく原産国のキャラクターの入った石や民族音楽を発想のヒントにした環境音楽、また、コーヒーのルーツを視覚化した地図などが入っているとのことでした。

三木さんが講義の中でおっしゃっていた「Primitive」という抽象的な概念をいかに味覚や聴覚など五感を刺激して表現できるか、という言葉が印象的です。

こちらは、「顔づくり(visual)」と「身体づくり(behavior)」が想像しやすい事例なのではないでしょうか。

ちなみに、私が最近コロナ化においても「身体づくり(behavior)」が上手だなと思うフード系のブランドは「Blue Bottle Coffee」。

"コーヒー"を起点にして、美味しいという体験をよりユニークで特別なものにするような取り組みを実践しています。そのプロセスでは「食」だけではなくファッションや建築など、ジャンルの幅に限らない価値づくりを行っていると思います。

例えば、この9月には「MUSIC PAIRING FES」というコーヒーと音楽のペアリングのオンラインイベントを実施。

Jazzと喫茶など、コーヒーと音楽の組み合わせはこれまでも歴史が深く誰もが違和感なく文化だとは思いますが、この文化をより魅力的に可視化しながら、ブランドがやりたきことと合わせて表現する力、流石だな〜と思ってしまいます。

最後に、今回の講義を受けて改めて私が大切にしたいこと。
それは「"予期せぬ出会い"との確率を上げるため日々アンテナを張る」ことかなと思います。言い換えれば「好奇心」なのかもしれない。

なかなか「旅」に出る機会が少ないからこそ、家の中で同じルーティーンで過ごすだけでなくたまには少し違った視点や考え方に出会えるよう工夫した暮らし方がより一層大切になるような気がします。

そのためには、「自分が心踊るモノってなんなんだろう」と関心のアンテナをオンにしておくことが1つ重要なのではないかと。そうすれば自ずと日々溢れている情報に対する感度やそこからの思いつきも変わってくるような気がします。

今回もつらつらと長文になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

2021/09/20



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