見出し画像

絶望の東京ドームリュック事件

忘れもしない苦い思い出。


本日は、少し長い記事になります。
わたしの絶望を、
どうか一緒にお楽しみください。



季節は春。
ちょうどこのくらいの時期だった。

異動したての私は、
前担当者からの引き継ぎや
カオスな環境への対応など
慌ただしい日々を過ごしていた。

そんな最中でも
私の心を麗してくれていたのは、
推しグループの存在。

TVやSNSを通して見れるだけで
それはもう、心が踊っていたのだが、
友人が東京ドームへの
ライブチケットをゲットする奇跡を起こした。

何度頭を下げても表しきれない感謝の気持ち。
止まらないありがとう。

新生活に、生身の推しが
待っていてくれるなんて、
幸せの絶頂期。


待ちに待ったライブ当日。
今日は定時に出るオーラを放ち、
終業時間と共に、明日の私に仕事を託す。

とそのとき、

「今日、早く出たいって言ってましたよね?
これだけ伝えてもいいですか?」

なぬ!?

なぜ、いま!?
たった1分前も私ここにいたよね?

ただ、4月に異動したてのひよっこは、
少しの時間なら!と話を聞く選択をした。

大体、"これだけ"とか"ちょっと"とかが
受け取った相手の感覚と同じ場合は
早々ないと思っている。

その時だって、ライブに間に合う
ギリギリの電車に飛び乗ることになった。

はぁ、久しぶりに走った。
リュックどこか飛んでいってしまうくらい走った。

そう、幕開けから微妙だったのである。
楽しみにしていたライブ当日は、
きっとあんまり良い日ではなかった。


「遅くなりました〜!」

人がごった返す後楽園駅。
ひと足先に着いていた友人2人が私を見る。


「大丈夫よ〜行きましょう〜」


時間ギリギリのわりには、
のんびりしている彼女たち。
その大人の余裕さに乾杯。


はじめての東京ドームは
びっくりするくらい広く、
口を開けながら周りを見渡していた、と思う。

小さい椅子に座り、肩をすぼませる。
一息つく間もなく、すぐにライブが始まった。

そりゃそうだ。
私がデッドラインの電車に
飛び乗ったくらいだから。

仕事場から連れてきてしまった
慌ただしい心が自分の中に残っており、
ライブが始まっても落ち着かない。


しかし、そんなザワザワした気持ちは
推しグループの登場により吹き飛ぶ。

大音響と豆粒の推したち。
揺れるペンライトと興奮の地響き。


彼らは実在している…!


クラクラした。
夢の世界すぎて、言葉を失う。

この世界に少しでも没頭したくて
今日がまだ月曜日だってことも、
明日の出社時間がいつもより早いことも、
忘れるように努めた。



ライブ中盤、


え?!私のこと指差した!?


真偽のほどは全くわからない
魔法の瞬間も味わえてしまった。

コンタクトの度が弱く、
彼の目線の先を掴みきれない失態は
現在もなお心に引っかかっている。

そうやって一瞬一瞬に
ときめきとよろこびを感じ、
また東京ドームに来ることを
約束をして、初ライブは幕を閉じた。



夢が終わると、現実が襲ってくる。

いや、夢が終わる前から
現実に戻る準備をしてしまっていた。

ライブ前、友人2人に
「明日朝早いから、終わったらすぐ抜ける!」
と予告する。

だから、アンコールの途中から
ソワソワしてしまった。

推しが退場してもなお
会場全体が幸せの余韻ポワポワなころ、
私は上着を羽織り
いつでも立ち去れる体勢に入る。

会場の終了アナウンスとともに、
「今日は夢の時間をありがとう!!」
と全力のお礼を伝え、そそくさと席を離れた。

規制退場とかなんとか言っているけれど、
ごめん、その余裕が私にはない…
と人の波が襲う前に東京ドームを出る。


外に出ると、雨が降っていた。

屋根があるところを通って行こうと、
傘を刺さずに早歩きをする。


今思えば、あれは天からのメッセージだった。


軽やかに早歩きをしながら、
頭に巡るのは先ほどまでのライブ。

好きな人に、指さされたよね?
と幸せを噛み締めれば噛み締めるほど、
足がどんどん前に進んでいく。

ひとり競歩大会の駅まであと一歩のところで、
頭上を覆う屋根がなくなってしまった。

雨足が強いので、
仕方ない、傘を刺すか…と
リュックに手を伸ばそうとしたところ、



リュックがない!?



あれ?嘘でしょ?
リュック、東京ドームに置いてきた!?

私は、あまりにも急ぎすぎて
身体一つで東京ドームを飛び出していた。

通りで、軽やかな競歩大会だったはずだ。
揺れる荷物がないから、
軽やかさも増していたのか。

幸いにも、
スマホがポケットに入っていたので、
友人に電話をする。


「この電話は、電源が入っていないか…」


そうだったー!

律儀なお友達は
会場のアナウンスに従って
ライブ前に電源を切っていた。


どうしよう、とりあえず戻らねば。


と、後ろを振り向くと
迫ってくるのは人の波。

あまりにも場違いな逆走をし、
迷惑な目で見られ、
肩身が狭い思いをしながら
ドームへの帰還を目指す。

こんなに早くドームに戻ってくるとは
思わなかった。


友人は、未だに電源オフ。
入り口で待っていても、
この人波では友人に会うこともできないだろう。

自分が中に入るしかない、
と腹を括ってドームに侵入しようとすると、
当然のように男性警備員さんに捕まった。

推しのコンサートで
捕まる体験をするとは思わなかった。


「荷物を忘れてしまって…」


「チケット見せてもらえますか?」


ない!
だって荷物がドームの中なんだもん!


警備員さんの訝しげな目に怯みそうになるも、
荷物の中には、財布も鍵もスケジュール帳も
私の全てが入っている。

今この瞬間に、盗まれてもおかしくない。


「チケットも中なんです!
 私は嘘ついていません!
 信じてください!」


必死すぎる形相に、
警備員さんも私を信じてくれた。

ドームに再入場をし、
自分の席へ一直線で目指す。
ここでも迷惑な逆走により、
心が折れそうになった。

やっとのことで辿り着いた席を見渡すと、
ほとんどの人が退場しており、
先ほどとは打って変わって殺風景だった。


その中に、ぽつん。


私の愛しいリュックが置き去りになっていた。


ここが日本でよかった。
本当に、よかった。


中身を確認しても、
何一つ取られていない。

まるで、
トイレ行ってたんでしょ?
帰ってくるの待ってたよ
と言わんばかりの佇まい。

そして、忘れた頃に
友人から折り返しの電話がかかってきた。

友人らは私の席の前を通らずに
ドームを後にしたため、
リュックには全く気づかなかったらしい。

大丈夫だった!?と心配された後ろから、
後楽園駅のアナウンスが聞こえる。

あんなに急いでドームを出たのに、
友人たちの方が先に駅に着いていた。

何はともあれ、
無事リュックを取り戻せたことが
不幸中の幸いである。


最後に、
私を捕まえた警備員さんに声をかけ、
人混みに揉まれながら
ゆっくりと東京ドームを後にした。

夢のようなライブの思い出は、
全てリュックに持っていかれてしまった。

東京ドームと聞くと、リュックの思い出。
ライブと聞くと、リュックの思い出。

もう次からは、
規制退場を反してまで
帰宅しようなんて思わない!と
心に誓ったのである。



先月、久しぶりの
東京ドームライブに参戦した。


友人に、
「リュック持った!?」
と何度も確認された。


規制退場のアナウンスを
しっかり守った。


愛しいリュックは忘れずに
家まで帰ってきた。


推しに指はさされなかったけど、
最初から最後まで楽しいライブだった。



今回でリュック置き去り事件の
上書きができたかもしれない。

そう思えたので、
あの夢と絶望の日のことを
noteに書きました。


長い文章を読んでくださり。
ありがとうございます。

みなさん、
焦りすぎて荷物を忘れないよう
気をつけてくださいね。


この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?