まーくん

まーくんと出会ったのは、
22歳の最後の日だった。

その頃の私は女子校での生活が長すぎたせいか
いまいち異性との付き合いかたが
わからないと思っていて、
いつもどこか不格好な気持ちがしていた。

でも彼の前では不思議と自然体でいられた。
話しても話しても、話が尽きることはなかった。

出会った日にはもう、
彼のことが好きだったのかもしれない。
それまでは気になる人ができても
見ているだけでいいと思えたのに、
連絡する口実が欲しくて
彼が好きだと言った小説を読んだ。

会う頻度がゆっくりと増えていって、
ある時彼が「まーくんって呼んでよ」と言った。
私のことも下の名前で呼ぶから、と。
終電前の改札で彼の手が私を引き留めて、
私たちは気持ちを確かめあった。

でも、それからすぐに、彼は精神を病んだ。
ずっと前から職場にストレスがあったらしい。
何も知らずにいたことがショックだった。
故郷で療養することになった彼を待ったけれど、
結局それが原因で別れることになった。

彼との関係は、
まわりから反対されることの方が多かった。
そのことに私はだんだん耐えられなくなって、
彼は、もうだめだ、とだけ言った。

どれだけ考えても誰も悪くないから、
自分を責めては余計に辛いと思った。

精神的な不調を抱えた相手との関係というのは、
かなり難しいことなんだと思う。
でももしかしたら、世間でいう恋愛に比べたら
私たちの関係は不器用すぎたのかもしれない。
結末を迎えるまでに
何年もの時間がかかったのに
やっぱり恥ずかしさが勝ったのか、
ほとんど彼は私を下の名前で呼べなかった。

「まーくん」

私からもまた、そう呼べなかったことが、
今も時々思い出しては寂しい。

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