無重力のわたし
気がつくと私は心地よい無重力に包まれていた。
暑くもなく寒くもなく、体の内と外との差がわからないほど肌の感覚は薄れ、まるで母のお腹の中にいるかのように身を丸めて、あたたかな水の中をたゆたっている。
そうか、私は胎児だ。
私は生まれ変わろうとしているのだろう。
赤ん坊が前世の記憶を持っているとは、本当の事なんだな。
ただ、この記憶は、生まれて成長してく過程で消え去ってしまうのだろう。
そう思うと今のこの自我に対し、少し名残惜しい気もするが、生まれ変わるからには、新しい人生を精一杯生きようか。
幸い、また人間に生まれ変われるようだ。
どこの国なのだろう。
何年くらい経っているのだろう。
男性なのか女性なのか、あるいはそういった事を超越している時代になっているのかもしれない。
ただ、母のお腹の中は少し息苦しい。
というか息ができない。
助けを求めてカラダをよじると硬い壁がある。
途端に体の感覚が戻る。
伸ばした足がまた別の壁に当たる。
とても狭い。
そしてゴボゴボと泡が立つ音が聞こえる。
ハッ!と目覚めると、湯舟の中だった。
危ない危ない、生まれ変わる前に、溺れ死ぬところだったわ。
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