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入ってますか?ーたった1分で読める1分小説ー

「あー、むかつく」

隆弘に正人が電話をかけてきた。二人は幼なじみだ。同じアパートで、部屋は隣同士だ。

「どうしたんだよ」
隆弘が訊くと、正人が不機嫌そうに答えた。

「今腹が痛くなってトイレの扉をノックしたんだよ。で、『入ってますか?』って聞いたら、『入ってます』って言われたんだよ」

「普通のことだろ」
「でもよ、もう十分も待ってるんだぜ。長すぎねえか」
「……中でスマホいじってるな」

隆弘にも経験があるので、そのいらだちは共感できる。スマホのせいで、トイレにこもるやつが増えた。

「だからおまえの家のトイレ貸してくれよ」
「……えっ、ちょっと待て。お前今、家にいるのか」
「そうだよ」

「じゃあトイレって自分の家のトイレのことか? 店のトイレじゃなくて?」
「だからなんだよ」
「おまえバカか! 自分の家のトイレに、赤の他人が入ってるんだぞ。もっと驚けよ!」

やや間があってから、正人がまぬけな声を漏らした。
「……ほんとだ」
「今すぐ警察呼べ!」

そう隆弘が叫ぶと、スマホ越しにキィッと扉が開く音がした。ドタドタと何か格闘するような振動で壁が揺れたあと、正人の絶叫が聞こえた。

スマホを耳にあてたまま、隆弘はハアハアと息を乱した。膝が震えて一歩も動けない。

トントンと隆弘の家の扉がノックされ、隆弘は色を失った。そして底なし沼から響くような、不気味な声が聞こえてきた。

「入ってますか?」


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コイモドリ 時をかける文学恋愛譚

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