聖地巡礼ーたった1分で読める1分小説ー
「小園さんは、聖地巡礼が好きみたい」
健太郎は小園恵に惚れていて、なんとか距離を縮めたいと画策していた。
何か共通の趣味でもあればと、小園のクラスメイトから耳寄りの情報を仕入れた。
聖地巡礼とは、アニメや漫画の舞台になった場所などを訪れることだ。夏休みの間、聖地巡礼をしたと小園は語っていたらしい。
健太郎はアニメには疎かったので、猛勉強の日々を送った。流行っている作品や有名な作品はすべて見て、休日になれば聖地巡礼を行なった。
もうバッチリだ。健太郎は緊張しながらも、小園に話しかけた。
「小園さん、聖地巡礼が好きって聞いたけど」
小園が目を輝かせた。
「うん、そうなんだ」
いつも物静かな小園の表情が、いつになく明るい。
「僕も聖地巡礼が好きなんだ」
「えっ、本当に?」
「うん、この前も新海誠監督の『君の名は。』の聖地巡礼に、長野に行ってきてさ……」
ところが健太郎が語り始めると、「……そうなんだ」と小園の口角が下がり出し、トーンダウンしていった。健太郎にはその理由がわからなかった。
「こっ、小園さんも夏休みに聖地巡礼してきたって聞いたけど、どこに行ったの?」
あせり気味に問うと、小園が答えた。
「今年はエルサレム、去年はローマ、おととしはインドとネパール、もちろん日本の高野山と比叡山も行ってるわ」
小園が熱い口調で語る中、健太郎は心の中で叫んだ。
「聖地巡礼の本格派っておんの!?」
↓7月11日発売です。冴えない文学青年・晴渡時生が、惚れた女性のためにタイムリープをするお話です。各話ごとに文豪の名作をモチーフにしています。惚れてふられる、令和の寅さんシリーズを目指しています。ぜひ読んでみてください。
コイモドリ 時をかける文学恋愛譚
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