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企業理念の作り方|必要性や具体例、注意点を解説(前編)

目次 


「企業理念を策定したいけど、何に気を付ければいいの?」
「理念とはそもそも何なの?」
「会社の理念を策定したいと言われたけど、まず何からすればいいの?」

こうした疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
企業を取り巻く外部環境や人材市場の流動性が高まる昨今、企業理念や、パーパス経営といったワードが注目されています。

そこで、本記事では「そもそも企業理念がなぜ必要なのか」「企業理念とは何か」「企業理念の作り方と注意点」「企業理念の具体例」「企業理念を作る際によくいただくご質問」などについて、ポイントを解説します。

企業理念を考える前提として:企業は何のために存在するのか?

企業は、自社の商品やサービスを通じて「世の中をよくする」ために存在します。この「世の中をよくする」を個社ごとでどう良くするのか、を表現したものが企業理念です。

なお、企業活動を継続する手段として、利益が必要になります。企業理念を実現するためには、企業活動を継続していく必要があり、企業活動を支える燃料として利益を生み出す必要があるのです。

企業の存在目的


マネジメントで有名なピーター・ドラッカー氏も著書で以下のようなことを述べています。

  • 利益は目的ではないし、動機でもないという。利益とは、企業が事業を継続・発展させていくための条件である。明日さらに優れた事業を行なうためのコスト、それが利益である。利益がなければ、コストを賄うことも、リスクに備えることもできない。

  • たとえ天使が社長になっても、利益には関心をもたざるをえない。

  • 組織の目的は「存在すること」ではない。 組織は社会の機関である。したがって組織の外(≒社会)に貢献することが存在理由である。

参考:すでに起こった未来―変化を読む眼 P.F. ドラッカー (著)

企業理念の必要性:3つの理由

企業理念の必要性について、3つの理由で解説します。

1.メンバーの方向性を揃えるため

組織能力を向上させるためにも、組織を構成するメンバーがどこに向かって力を発揮すべきかを明確にする必要があります。仮に組織として進むべき方向性が示されていないと、組織としての力が最大限発揮されない可能性が高まります。つまり、下図のように個々人が別々の場所で穴を掘っている状況になりかねません。

メンバーの方向性を揃える

組織能力の向上については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
組織能力を向上させるには?定義と具体例を紹介

2.メンバーの動機付けを行うため

理念は組織の存在意義や目的、創りたい未来を示し、組織メンバーに仕事への情熱を呼び覚ますキッカケとなります。この考え方には、パナソニック(旧:松下電器)の創業者、松下幸之助のエピソードがあります。

松下はある宗教の信者から熱心な誘いを受け、教団の施設を訪れました。そこで無料奉仕に従事する信者たちのイキイキとした働きぶりに感銘を受けました。当時、一般的には商売は単なる利益追求であるという考え方が主流でしたが、宗教には人間を救うという大きな使命感がありました。

企業で務めている労働者と、宗教信者の働きぶりの違いから、松下は使命感がなければ、熱心な経営も意味をなさないと悟りました。そのため、組織において使命感を自覚し、方針を確立する重要性を強調するようになりました。経営を力強く進め、持続的な成功を収めるためには、使命感が不可欠であるとの結論に至ったのです。

参考:松下幸之助は「宗教」をみて「経営」を悟った ‐東洋経済オンライン

3.意思決定する際の軸になるため

意思決定とは、「ある目標を達成するために、複数の選択肢から最善のものを導きだそうとする行為」といえます。

ビジネスの世界では、意思決定を迫られる場面が度々発生しますが、どの意思決定オプションも論理的に整理するだけでは優劣をつけがたいことがあります。この時、企業理念があることで、どの選択肢を選ぶべきか決定する際の拠り所になり、自社として最善の選択が可能となるのです。

企業理念がないことによる弊害

企業理念がないことによる弊害について解説します。

動機付けがしにくい

この理由は、ハーズバーグの二要因理論を基に考えると理解しやすいです。いくら給与や、職場環境が良くても、なぜこの仕事に取り組んでいるのか?の意義が見出せないと、「ここで頑張ろう」「この会社で働きたい(もしくは、働き続けたい)」という動機付けにはなりません。

つまり、人材マネジメントの観点において、部下の動機付けや、人材の引き留め、採用時の人材の惹きつけが難しくなるリスクがあるのです。

思考が狭まる

企業理念がないと、利益偏重な文化や、自社よがりな施策が打ち立てられてしまう危険性があります。
スパコンの富岳の事例は、理念や目的を明確にすることの重要性を示す良い事例です。

富岳の前身である「京」は、世界最速のスーパーコンピュータとして開発されましたが、使いにくさが課題でした。そのため、産業振興の目的は達成されず、企業の利用や販売数が限られていました。
富岳は、京の反省から生まれ、計算速度だけでなく使いやすさや実用性を重視して開発されました。また、富岳は、企業や研究機関のニーズを踏まえて、さまざまな機能を搭載しています。
富岳は、計算速度だけでなく使いやすさや実用性を重視した理念や目的を明確にすることで、世界4冠を獲得し、産業振興の目的も達成することができました。この実績は「京」の時にも打ち立てられなかった偉業です。

参考:世界一を狙わなかったスパコン富岳が、結果として世界4冠に輝いた意外な理由 -「スパコンの戦艦大和」京への反省

ナンバーワンを目指さなくなったあとにナンバーワンになれた富岳。ナンバーワンという数値的な目標だと思考の幅が狭くなり、真の実力が発揮されない恐れがあります。目的をとらえ直すことで思考の幅が広がり、工夫の余地が生まれた結果、より良い成果を創出できた良い事例です。

また、ビジョンを示す重要性を理解するために、以下の内容も参考になります。

清掃員の仕事は、「オフィスを掃除すること」という単なる行為(=To Do)ではなく、「清潔で快適なオフィスを提供すること」という結果(=To Be)が求められています。
仕事には行為(=To Do)と結果(=To Be)の違いがあり、どちらを自分の仕事と定義しているかによって仕事に対する認識が変わってきます。
もし上司から「オフィスを掃除してくれ」と言われた場合、アクションに焦点が当たり、「一生懸命やれば報われるはずだ」と自分本位の甘い評価になりがちです。しかし、「オフィスがきれいに掃除された状態を提供すること」が期待されていると言われると、結果(=To Be)に目が向くようになります。
そうすると、結果に対する外部評価を意識するようになり、自己本位の思考を避けることができます。
自分の仕事がどんな成果を期待されているのかを理解することで、自分の役割や目標が明確になり、自己評価も客観的になるでしょう。
結果的に、単なる行為(=To Do)に満足することなく、結果(=To Be)にコミットできるようになるのです。

企業理念とは

企業理念とは、グローバルスタンダードの観点でいうとミッション、ビジョン、バリューの3点セット(MVV)で構成される企業の根幹をなす価値観のことです。なお、3つの要素が必ず揃っていなければならないということはなく、ミッションとバリューだけ掲げている企業なども存在します。また、近年においては、パーパスという項目を企業理念として掲げられる会社も増えてきています。

ここでミッション、ビジョン、パーパス、バリューそれぞれの定義について説明します。

ミッション

ミッションとは、社会・世界における組織の役割(=我々はどのような使命を担っているのか)です。

ミッションは、ビジョンを実現するために会社が社会に対して担うべき役割を明確化します。また、ミッションは、到達するものではなく、進むべき方向を示す北極星のようなものとも言えます。

■ミッションを作るために考えるべき問い
・ビジョンを実現するために「どのような役割」を果たすのか?
・自社はどのように社会へ貢献していくのか?

ビジョン

ビジョンとは、創りたい未来の姿(自社のあり方/社会・世界のあり方)です。

最終結果に到達するまでのプロセスではなく、最終結果そのものを表現します。なくしたいものではなく、つくりだしたいものに焦点を置くことが一般的です。
自社の在りたい姿だけをビジョンに掲げてしまうと、アウターブランディングとして魅力的なビジョンにならないため、どのような社会、世界を創りたいのかを示す必要があります。

■ビジョンを作るために考えるべき問い
・どの様な未来を作りたいのか?
・ミッションを果たした後の社会・世界はどうなっていてほしいのか?

パーパス

パーパスとは、社会・世界における組織の存在目的(=我々はなんのために存在するのか)です。ミッション+ビジョンのイメージと整理するとわかりやすいかもしれません。

自分たちは何のために存在するのか、何のために事業を行うのか(存在意義)を定義したものです。
自分たちが存在し活動することで、どのような社会課題を解決し、世の中にどんな良い影響をもたらせるのかを表したものといえるでしょう。。
社会に対する自社のミッションやビジョンを表現したものと捉えることができます。

■パーパスを作る際に考えるべき問い
・私たちの組織が存在する目的は何か?

また、ジェネレーションY(1980年代序盤~2000年までに生まれた世代)、ジェネレーションZ(2000年代以降に生まれた世代)と世代を追うごとに、社会における自分の存在意義を重視する人たちが増えているといわれています。

ある若手経営者から「ビジョンやミッションを作れと言われると、何かすごく立派なものにしなければいけないという堅苦しさを感じる。一方パーパスは、等身大で考えられるので気持ちが楽」というコメントを伺ったことがあります。パーパスを軸とした企業理念は、「見栄を張らず、自然体を良しとする」今日の若者の人生観とも通底するのかも知れません。

バリュー

バリューとは、ビジョン・ミッション・パーパスを実現するために会社が社員に期待する価値観・考え方です。

ミッションを果たす、ビジョンを実現するためにどう行動していくべきかを示す、ゆるやかなガイドラインです。

「自分達は何を基準にして、どのように行動していくのか」という問いに答えるものです。
このバリューという考え方がイマイチ理解できないというお声をいただくことがあるので、もう少し解説します。

バリューとは日本語では、価値観と訳されることがありますが、バリュー=行動原理として捉えると分かりやすいでしょう。

行動原理とは、人がどう行動するかに影響を与える基本的な信念や価値観、動機づけの原則です。これは、個人や組織が持つ「なぜ何かをするのか」といった根本的な考え方や信念のことを指します。より理解しやすいように、具体的な事例として「ヒーローの行動原理」を挙げて説明します。

あるヒーローが悪党に立ち向かう理由を考えてみましょう。そのヒーローが持つ行動原理は、「弱者を助けるために戦う」とか、「正義を守るために悪と戦う」といったものです。この行動原理がなければ、ヒーローは悪党と対峙することなどありません。

同様に、私たちが日常生活で行う行動も、何かしらの行動原理に基づいています。例えば、「友達を助けることが大切だ」と思っているなら、その価値観が行動原理になり、「苛められている友人がいれば、助ける」という行動が生まれるでしょう。

行動原理は、私たちがどのような人になりたいか、どのような社会で生きていきたいかを考え、それに基づいて行動するための指針となります。

■バリューを作るために考えるべき問い
・大切にしたい行動原理(価値観、考え方)は?
・大切にしたい行動は?

続きはこちらをご覧ください。


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