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酔って思ったことを連綿と書き残す39「ラストシーンの落書き」

クドクドと、酔って、拙作「シン・死の媛」の落書きをやっております。
プロットは徐々に(落書きの甲斐もあって)出来つつあるけど、ものすごいハードルの高いシーンがあって。
現世に例えるなら、ヒットラーの演説シーンの再現です。
文ストで言うなら、福地さんの「人類軍!」みたいな、アレです。
見てる方は「ふーん」って見ますけど。
いざ、作るとなると、途方に暮れるものなのですね。
扇動させないといけないわけでしょ?
難儀よ。

というわけで、現実逃避して、昨日、酔ってラストシーンを落書きしました。
元々の「死の媛」を踏襲しつつ、今となってはボツ作品の外伝「或る子ども」の内容も入れつつ、猫大好き副総統閣下ネタを投下しつつ。
暇つぶしにどうぞ。
よくはわからないと思いますが、なんとなく、察してはいただけるんじゃないかな。
テーマは「親子」です。
俯瞰ですね。

その、酔って落書きをしてる合間に、休憩として、「マツコの知らない世界」をTVerで見ました。
昭和歌謡の良さを、JUJUさんとマツコさんが大いに語り合っておられまして。
昭和好きとしては、もう、ワンマンショーです。ジュリー状態と化しました。実際に、ジュリーも出てきたしね。ダメ男だ。たしかに。

で、私の、昭和歌謡イントロナンバーワン、何だろな? と、だいぶ、考えたのですけど。
北酒場には、勝てそうにない。
たしかに、あのイントロは、うっかり、マイクを探しちゃうもの。
発声障害で、もう歌えはしないのにね。
きたーのー♪
って、歌いたい。こぶし、効かせたい。スナック、大好き。
ニューキャビンに行きたい!(荒川区にあります)
発声障害になる前は、歌うのが大好きでした。
家では、気兼ねなく、歌ってますけども。声帯の筋肉、取っちゃったので、音程、取れませんが。

北酒場に勝てそうもない、私の昭和歌謡イントロナンバーワンは、これです。
知床旅情と、二択でしたけど。
森繁久彌さん、好きなんですよ。あの、朴訥感!
非常に、たまらないのですが。
ただ、氷雨のイントロのラストの、あの奇妙なメロディが、いいんです。
酔ってる感じが、盛大に出ておりまして。
佳山さんの声も、森繁さんと正反対で、軽快で、萌えます。
酔っ払いとしては、こちらでしょうね。


昭和は、良いです。

****

 残された六点の油絵画の裏書には、すべて「天」というタイトルが記されていた。

 最も古いものは、一九三三年、如月。
 署名は「X」。

 李宮、地下壕。
 それは、燦国事変の後、副総統の私室から見つかったものだった。
 大量の、油絵の具とともに。

 一九四五年。
 初秋。
 日曜日。
 うだるような夏の残波を引き連れて、僕は、嘉国の首都、宰京へと入った。
 随分と、久しぶりだ。
 僕の住む街、燦州二城は山間の盆地で、夏は非常に蒸すが、ここ、宰京は、海に面した平地。
 暑いのは一緒だが、匂いが、まず、違う。
 とても、爽やか。
 潮風も、気持ちがいい。
 女の子たちも、どことなく垢抜けてて、そりゃあもう、可愛い。みんな、別嬪さんだね。
 首都は、やっぱり、違います。

 先生は、箱馬車に揺られながら、おのぼりさん気分を満喫しつつも、いけない、いけない! と、顔を背けたり、覗いたり、背けたり。
 陛下の代わりなんだぞ、と、急に男らしくなったりしながら。
 郊外にある、刑務所へと向かっていた。

 絵画の主と思われる人物に、会うために。

 馬は、素直。
 着いたよ、と鳴いてくれるが、こちとら、あまり気の進まないことなんだ。
 鳴いてくれるな。
 美女たちの園へ戻してくれ!
 先生は、気鬱な面持ちを隠さないままに、どうぞ、と、降ろされる。
 身丈三つ分はありそうな、垂直な煉瓦壁。
 空と現を遮蔽する、有刺鉄線。
 ああ、憂鬱だ。
 先生は、あの時「いいですよ」と軽返事をした自分を、心底、懲らしめたく思う。

 ことの経緯は、こうだ。
 燦国の副総統が、ここに収監されている。
 永久在牢だ。御歳、五十二。
 その彼が、七年間、何も、喋ろうとしないのだ。
 癈人のように、ぼうっとして、牢内を、うろうろ、うろうろしているらしい。
 まあ、ここまではいい。
「雨と親しかった人になら、反応があるかもしれない」 
 ハイ。
「適当でいいから、会ってきて」

 という、流れです。

 相手は覚えてないかもしれないけど、僕、副総統閣下には、一度お会いしてるんだよなあ。
 相当、頑なそうでしたけど。
 相当、怖そうでしたけど。
 嫌だなあ。タイプじゃないもの。
 でも、女王陛下、きってのお願いごとだ。
 会うしかない。
 僕は、医療刑務所の正門をパスした。

 相手は、大物です。
 門を通って、「やあ!」なんて、距離であるはずもなかった。
 最奥の、最奥。
 こないだお会いした時に「毎週、日曜日に通ってる」とおっしゃっておられましたが、女王陛下、本当に、毎週、ここ歩いてるの? と思わされるほどに、案内は、長かった。
 ゆうに二十分は歩いたよ?
 それぐらい、汗だくで歩かされて、ようやく、ある牢室の前に通された。
 中にいたのは、老けた、おじいちゃんだった。
「え?」
 本当に、ここで合ってる?
 刑務官を振り返ったが、二人揃って、自信満々に立っている。
 これが、あの、燦国副総統閣下?
 嘘だろう?

 面影もない。
 副総統は、長身の、いかにも軍人らしい体格で、黒づくめのスーツを着て、オールバックの髪で、彫りが深かったはずなんだけど。
 このおじいちゃんと共通してるのは、彫りが深いだけ。
 ただの、癈人だった。
 痩せこけた、体。
 モサモサと伸びた髪を終始、掻き毟り、正方形の室内を黙ってうろうろと徘徊する、よだれまみれの、髭まみれの、白髪まみれのおじいさん。
 女王陛下が、これと毎週会っているだなんて、結構なことよ?
 一言で言えば、もう、帰りたい。
「あのぅ、」
 一応、任務を遂行しようと、声をかけたが、当然、反応はない。
 うろうろ、してらっしゃる。
 どうしようか。
 鼻栓、もってこればよかったと思いつつ、思っていたことを、言ってみた。
「天渺宮の墓廟に、」
 あなたの絵が、飾ってあります。
 反応、なし。
 次だ。
「僕は、五歳から十四歳までの『雨』を、知る者です」
 癈人の動きが、止まった。
 よし。
「雨の本名は、天と書いて、アメ、ですか?」

 反応、なし、か。
 次!

「僕は、最初に、雨を『強姦』した人間です」
 めっちゃ、振り返ってきた。
「殺したいと、思いますか?」
 全力で。
 癈人、もとい、元副総統閣下が、突っ込んできた。逃げろ!
 鉄格子が、ガン! と、鳴った。
 こっわあ。
 絶対この人、強いよ。
「わ、わけを、聞きたくは、ないですか?」
 ガン!
 ガン!

 すっごい反応です。
 目が血走ってらっしゃる!
 でも、いいことなのかもしれない。
 女王陛下曰く、何を言っても、響かなかったそうだから。
 陛下の言うとおり、僕が好敵手で、合っているのだろう。

「雨が、それを望んだからです」

 言ってみると、癈人は、止まった。
 なんでも言ってみるもんだなあ。
 今まで、誰にも言わなかったことだけど。
 この人には、案外、晒してもいいのかもしれない。
 この人が、本当に、雨の親御さんなら。

「雨は、死にたがったんです」
 彼は当時、九歳になったばかりの、子供でした。
 賢かった彼は。
「自分の命の値段を知っていた」
 十五万円でした。
 そういうと、癈人は、一瞬、こちらを見た。
「基本的に、下代の三倍が、上代。売価です」
 雨は、仕入れ値十五万円の自分を、四十五万円で売れる商品にしなくちゃ、ならなかった。
 雨は、自発的に身を売りました。
「そして、きっとあなたの知る、彼になりました」
 副総統の部屋に残されていた油絵画は。
「雨」
 そして、
「天渺宮」

 癈人は、止まったまま、目も合わせてくれないけど、聞き耳は、立ててくれているみたいだ。
 真相を、言わなくちゃならない。

「僕は、彼を何度も犯しました」
 反応は、なし。
 となると、この人は。
 冷静だ。
「雨は、」
 自分なんか、どうでもいいと言った。
 自分を買収した、赤鳳楼に利益をもたらすことが、自分の倫理なのだと。
 それにむかついて、蹂躙しました。
 そしたら、
「殺してくれ、と、言われてね」
 そして、幼子でもない彼が、ひきつけを起こした。
「バカだな、って」
 頑なに、一人前であろう、と、頑張って。
 苦しいのに、苦しいと、言いたがらなくて。
「親子って、似るんですね」
 言い切った。

「どう、して」
 癈人が、しゃべった!
 どうやら、女王陛下の憶測は、当たっているみたいだ。
 あの、油絵画の、裏書の、タイトル。
 天。
 アメとも、読めるよね、と。

「どうして、天、と名づけたのですか?」

 十数分、待った。
 答えは、もらえなかった。
 面会時間が、終わる。

 だめでした、女王陛下!

 そう思って、退室しかけた時だった。
「あの、時、は、」
 癈人は、遠くの隅っこで、身をくるめていた。大きな囚人服をひと塊にして、そうして、頭を、掻き毟っている。
 彼の、苦悩の音まで、聞こえてきそうだ。
「燦州、内乱の、ころ、」
 ああ、と、思う。
 確かに、雨の生誕時は、そうだった。
「北部、に、いて、」
 内乱は、北部が主戦場だった。
 軍人だったのだろう。
「女、男、」
 この人は、狂ってはいないような気がする。
「どちら、でも、いい、名前、を、」
 考えて。
「それが、『天』?」
 素直に、頷いてくれた。
「妻が、自殺、した」
 癈人の、懺悔。
「私は、」





 まとめると、僕たちの知る『雨』の生来の名前は、天と書いて、アメだった。
 副総統閣下は、雨の父親だった。
 雨が生まれる時に戦場に行ったから、男でも女でもいいように、と、彼が『天』と名づけた。
 あの絵を描いたのは、彼だった。
 彼の妻は、自殺した。
 彼は、雨を愛することを、恐れた。
 妻と瓜二つな、雨を。

「そうか」
 拙い報告を受けた女王陛下は、淡白に、そうおっしゃられた。
 でも、まあ、そういう反応で、合ってる、と思う。
 他人の家庭ごとなんて、そう、他人には推し量れようもないしね。
 どうして、天が売られることになったのか、結局は、わからなかった。
「多分、それでも」
 随分とご推量なさってから、陛下は、箱馬車の、狭い空を見仰いだ。そのそばで、未来の女王陛下がスヤスヤと寝息を立てる。
「あの時」
 あの時とは、燦国事変のことだろう。
「やはり、副総統閣下は、雨を、守ろうとしたのではないだろうか」
 でも、雨の遺体からは。
 青酸カリが、検出されている。
「あの場は、集団自決だったろう?」
 燦国の中枢、ほぼ全員が、発見された地下壕で自決していた。
 総統閣下だけが、唯一、銃殺。
 左足を撃たれていた、副総統閣下だけが、かろうじで一命を取り留めた。
「常軌を逸脱したあの状況で、」
 集団ヒステリイで。
「そんな背景下で、」
 間に合わなかったのでは?

 静かに首を横に振った。

 それは、否定する。
 雨の、頭の良さを痛感しているから。
 そんなヒステリイで、迷うような子じゃない。

「でも、」
 女王陛下のお話によれば、地下壕が発見された時、副総統閣下は、死の媛を抱きしめていたという。
「事故のような、ものだったのかなあ?」
 これから、どれだけ、あの牢室に足を運んだところで、あの人は、これ以上のことは、何も、教えてはくれないのだろう。
 雨は。
 彼が父親だと、知っていたのだろうか?

 馬車は、白樺路を抜け、市街地へ向かう坂道を、ゆっくりと下ってゆく。
 以前よりも明るくなった二城の街並みを、眼下に望む。まるで、宵花祭の賑わいが、少しずつ近づいてくるようだ。
 この馬車は、二人の出会いの場所、色街のあの料亭へ向かうことになっている。

 ある、ひらめきがあった。
「晴れ舞台で、子供らしくヘマをするか。子供らしからぬ所作で、完璧な宵花さまを演じるか」
 二城を見つめながら、話を変えた。
 雨について。
「初めて、雨が『宵花さま』になった時、彼には、二つの選択肢がありました」
 ふつうの子供なら、そんなことすら思いつかない。
 晴れ舞台で浮かれたり、いっぱいいっぱいになったりして、そんなことを考える余裕すらないに、違いない。
 僕だったら、がむしゃらにやっちゃうな。
 だって、十一歳だよ?
 そうでしょう?
 女王陛下に向き直って、相槌を求めると、陛下も、少しだけこちらをご覧になる。ご自身のあれこれを想起しながら、そうかもしれない、と、頷かれる。
「でも、雨は『そういう生き物』だった」
 彼は、後者を選んだ。自分をより、売り出すために。
 完璧な宵花さまを、演じ切った。
 美事なまでに。
 これは、本人が言っていたことじゃないんですけどね、そう、言い置いて。
 あくまで、僕の主観です。
「自分という『真っ当じゃない』宵花の、地位の確立が、まず一つと、」
 虚空を見つめると、そこに雨がいるような気がした。
「それから、そんな自分を支持した人たちへの、感謝」
 今、手がけている孤児支援事業の協賛者たちも、大勢が雨の顧客だ。
「あとは、自分と同じような社会的少数者への、」
 雨という存在は、広く知れ渡って。
「そういう人たちの、素敵な未来、かな?」
 性的少数者が、世間に認知されるようになった。
 児童の性的搾取への、反対運動も起きた。
「きっと彼は、そこまで考えていたような気がします。自分だけなら、ヘマしても良かった」
 女王は、静かにこの独白を、聞いてくださっている。
「でも、雨がそれをしようとしなかったのは、それ以上の『意味』や『価値』を、知っていたからじゃないのかな? とも、思うんですよ」
 なるほど、と、頷かれた。
「認知。是正、か」
 先生は、笑う。
「第一目標は、お金だったと、思いますけどね」
 それもまた、真実。
 そんな、彼だから。
「死の媛は、わざとヘマをしたのかも、しれませんよ」
 あるひらめきを、言ってみた。
 自損事故。
 もしかしたら、ですけど。 
「完璧な『死の媛』を、演じ切るために」
 燦国の、平定のために。
 かっこよく言えば、『燦国の終焉』の、象徴になるために。
 戦争の、終結のために。
 平和のために。
「総裁と死の媛は、死ぬ必要があった」
 いわゆる、悪役論だ。
 悪役が斃れて、空は、すっきりとした青空。
 市民は、喜んで。
 でも、燦国終焉は。
「死の媛が、雨であり、天渺宮であることを、燦国市民は、知っちゃってましたからね」
 そうはならなかった。
 市民は、嘆いた。
 ここからが、雨のショウ・タイムだ。
「もしかしたら、」
 あの『生き物』は、自分が死んだ、その先に起こるであろう未来を、演出したんじゃ、ないかしら。

 死の媛の躍動した場所は、閉ざされた国、燦国だった。
 燦州の、伝説の少年娼婦『雨』
 嘉国の、天祥の象徴『天渺宮』
 燦国の、正義の象徴『死の媛』

「そんな自分が、非業の死を遂げた時、自由を取り戻した燦州の人たちは、様々な思いで『動く』。燦国を知る人たちを中心に、それが嘉国へと広がる。そして、それは『確立』される」
 それは、『瑠璃忌』という行事が「作られる」未来。
 雨、天渺宮、死の媛。
 三者で作り上げた、この国の、平和への希求。
 そして、折しも。
「翌年、世界大戦が勃発した」
 永世中立国であった嘉国は、燦国の悲劇を引き合いに、市民総動員で、祖国防衛に徹底した。
 様々な国で、悲劇が繰り返される中、孤立した嘉国は、無血とまではいかなかったけど。
 戦争はしなかった。
 今年の夏に、大戦は終結した。
「もしかして、世界大戦まで先読みしてたんなら、本当に、化け物だけど」
 さすがに、それは、ないか。
 笑うと、女王陛下は、逆に、「あり得る」とおっしゃった。
「あとあと、知ったのだが」
 燦国は、獨逸から武器の供与を受けていた。
「え、」
 初耳だった。
 あの、国境封鎖下で?
 めちゃめちゃ、孤立してたと思うけど?
「燦国の、空相の執務室から、そういった資料が出てきている」
 そ、そうなんだ。
「だから、中枢にいた死の媛が、世界情勢を知っていても、何の不思議もない」
 待てよ。
 だとしたら。
「とんでもない、ですね」 
「とんでもなかったのかも、しれないな」
 雨らしい。
 二人は、笑った。

 馬車は、市街地へと入った。
 さすが、十月二十三日。
 宵花祭。
 街中が、華やかだ。
 雑踏の音が、車内に音楽を添える。
 何となく、ふと、ひらめいて、
「彼の残した花が、形になる」
 そう口にしたら、何だか小っ恥ずかしくなっちゃった。まるで、酔ってるみたいだ。
 お酒は、これからなのにね。
「宵花さまは、美人に限ります。女王陛下も」
 そういうと、女王陛下は、カラカラ、と、お笑いになった。
「照れるだろう」
 言われ慣れてるくせに。そう思ったが、さすがにそれは、口にできなかった。
 一児の母には見えませんよ。

 まもなく、料亭すずねに到着します。

 そういえば。
 ルリを抱きあげながら、女王陛下が、こちらを覗き込んでくる。
「先ほどの、先生の養子は、孤児か?」
 二人の養子がいると、先程言っていただろう?
「そうですよ」
 その話ね。
 あとで見せようかな、と思っていたけれど。
 懐から、一葉の寫眞を取り出した。
 なんとなくね。
 寫眞って、あると、持ち歩きたくなっちゃうもので。
「ちょっと前の、ものだけど」

 来週。
 副総統のところに、天の寫眞を持って行こう。

 女王陛下が、それを覗き込む。
「男の子二人、か」
 そこには、緊張した面持ちで写し出された、もじゃもじゃ頭と、丸眼鏡。
 僕の、子ども。
 かわいいでしょう?

「彊と、圓です」


《了》

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