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【連載小説】小五郎は逃げない 第48話 (最終話)

【15秒でストーリー解説】

「逃げの小五郎」と称された幕末の英雄・桂小五郎は、本当にそうだったのか。

 新選組に拉致された恋人・幾松の奪還に成功し、桂小五郎と岡田以蔵は愛犬・寅之助とともに新選組との前代未聞に戦いに挑む。

 近藤との一騎打ちに勝利した以蔵は新選組に捕えられ、人生の幕を下ろす。幕末を駆け抜けた英雄たちは、それぞれの思いを貫き、それぞれの人生の選択をしていく。その生き方は、だれもかれもが武士らしい。

愛する人を守るために・・・、桂小五郎は京の町を駆ける。

武士たちの選択 5/5

 その後、新選組に捕えられた岡田以蔵は、土佐藩へ強制送還された。新選組は桂を逃がしたことを世間に広められることを恐れて、以蔵が強盗目的に商家に押し入ったところを偶然捕えたと嘘の証言をした。以蔵は土佐藩士からの激しい取り調べを受け、拷問の末に武市半平太の指示により、数々の暗殺を企ててきたことを自白した。これにより、武市半平太は切腹、岡田以蔵は斬首され二十七歳の生涯を閉じた。以蔵は武市の裏切りに合い、最初から自白するつもりだったのかもしれない。しかし、彼が殺害した人々への償い、何よりも敬愛していた武市に裏切り者と思われたくないと言う思いから、あえて拷問される選択をしたのかもしれない。ただし、桂小五郎のことは一言も話さなかったとのことである。
 
 幾松を奪還した後、桂は京に留まり、長州藩の暴動を止めようとした。しかし、久坂玄瑞らが引き起こした蛤御門の変で大敗し、京を追われる身となった。桂はこの戦いを止めることができず、長州へと逃走した。しかし、坂本龍馬の策略によって、それまでいがみ合ってきた長州藩と薩摩藩の薩長同盟が締結され、長州難は息を吹き返した。高杉晋作、桂小五郎らが率いる新生した長州藩は、破竹の勢いで江戸幕府に対して反撃を開始した。高杉晋作は病に倒れ、坂本龍馬は暗殺されるも、桂小五郎は獅子奮迅の活躍を見せ、幾多の困難から一切逃げることなく、江戸幕府に大政奉還をさせ、新政府の樹立を果たした。その後も苦難の連続であったが、その苦難を乗り越え近代国家の礎を築き上げたと言っても過言ではない。
幾松とは逃亡の身から苦楽を共にし、死別するまで添い遂げた。桂は以蔵との約束は片時も忘れたことはなかった。果たして約束は果たされ以蔵は満足してくたのだろうか。それは彼ら二人にしかわからない。
 
 長州藩、薩摩藩を筆頭とする新政府軍の勢いに押されて、新選組は善戦するも退却を余儀なくされ、京を追われて東へと敗走した。その間に沖田総司は病死した。鉄の意志を有していた近藤は、その途中で一人新政府軍へと投降し、斬首された。負傷して満足に戦えなくなった体を憂い、土方に新選組を託し、新政府軍から土方らが逃亡する時間を稼ごうとしたのか、自分が投稿することによって新選組の罪状を少しでも軽くしてもらおうと思ったのか、その真意はだれにもわからない。
土方歳三は、新政府軍に対して戦いを挑み続けた。幾度となく戦勝を収めたが、圧倒的な戦力を誇る新政府軍の反撃を食い止めることはできなかった。各地で戦闘を繰り返しながら、北海道・函館まで敗走し、五稜郭での最終決戦の末に戦死した。桂が言った通り、新選組は時代の大きなうねりに抗ったが、その流れを押し戻すことはできなかった。
 
 己の信念を貫き通した者、道半ばで息絶えた者、その者たちの採点をすることなどだれにもできない。しかし、歴史に名を残した者たちは、決して一人で大事を成した訳ではない。少なからずだれかに影響を受け、だれかに影響を与えてきたのである。ただし、その選択の結末は、だれもかれもが武士らしい。

<完>

<前回のお話はこちら>

「小五郎は逃げない」はこれをもちまして最終話となります。
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