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バクになりたい。

わたしにとって、人を幸せにする文章を書くことは容易ではない。
そもそも人生に幸せが少な過ぎたから、与えられるものが何もないのだ。
うん、しょっぱなから重たいね。

読んでいて笑っちゃう文章が好きだ。
思わず声をあげてしまう話を読むのが好きだ。
私の時代は終わった。』で有名な加藤はいねさんや
(読んだことない人読んでみて。悩み吹っ飛ぶくらい面白いから。)
このnoteという媒体でリンクを貼るのもおこがましいが
弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で有名な岸田奈美さんのように人をゲラゲラ笑わせてお腹が痛くなるような文章を書く作家さんが好きだ。

そんな人になりたい。
なれない。
本当に、生まれ変わらない限りなれっこない。
わたしは生まれ変わりを信じていないので、すなわちなれない。

自分が何になれるかを考えた。

バクを知っているだろうか?
中国から伝来した伝説上の生き物で、人の悪夢を喰らうとされているらしい。
伝説上と言ったが実は実在している。
正確には、中国の伝説での「獏」は実在しないが
「バク」という生き物は存在し、姿が「獏」に似ていたために
「バク」という名前がつけられたのだという。
もちろんバクは夢を喰わない。
リンゴやバナナ、サツマイモなどを食べて生きているそうだ。
それでもわたしはバクは悪夢を喰らうと思っている。

わたしはよく悪夢にうなされる。
苦しい夢、辛い夢、辱めを受ける夢、どこかから落ちる夢、虫に体を這われる夢。
(怪しい薬とかはやってないので安心してほしい。)
飛び起きるか、汗をぐっしょりかいて起きるか、
はたまた目の端をすぅっと涙が伝い、自分の涙の冷たさで目覚めることもある。
深く眠った日はあまり夢を見ない。
そういう使い方が正しいのかはわからないが、
連日の悪夢で胸が潰れそうな日は睡眠薬を用いて深く眠る日もある。

毎日、そんな日が続いても、だからと言ってそれを嘆いては
ナニカの思うつぼな気がする。負けた気がするのだ。負けるのはキライだ。
そのうちにわたしはこう思うことにした。

「わたしはバクに弟子入りしたんだわ」

わたしは人の悪夢を喰っている。
わたしが悪夢を見ることで、誰かが悪夢から解放されている。
わたしは夢の中を渡り歩きながら、色んな人の悪夢を喰っている。
その方法をバクから教わっているのだ。

悪夢にはその人の人生が現れる、とわたしは思う。
日常で押しつぶされそうな何かを、抑圧された何かを、
悪夢に置いてくることでその人は「日々」を生きられるのだ。

わたしは誰かの悪夢を喰らう。
誰かの抑圧を喰らう。
吸収して飛び起きる。

それもまたいい目覚めだ、とわたしは思った。


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