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24. 愛しさの記憶



愛しいところより、
嫌いなところの方が多かった。

嫌いなところより、
分からないことの方が多かった。

それでも離れられなかったのは、
どこかで信じたかったからだろう。


いつか。

愛してくれると、信じたかったからだ。



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クリスマスイヴに2人で過ごした日のことは、よく覚えている。

あの日は、尊の同僚とその奥さんも一緒に4人でコンサートに行った。私は奥さんになんとなく紹介されて、たわいもない話をした。まるで普通のダブルデートみたいな顔をして。



2人と解散してから、恋人繋ぎで丸の内のイルミネーションの中を歩いて、たくさんツーショットを撮った。

私が彼から借りた手袋を無くして、来た道を戻ったり、イルミネーションを見尽くすために意味もなく遠回りしたりした。まるで普通のカップルみたいな顔をして。


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繋ぐ手は冷たいのに、触れる肩が熱い。

この人と恋人繋ぎをするのは、気恥ずかしくて、変な感じがして、なんというかとても、間違っている気がした。今思えば、この違和感が全てだったのかもしれない。


『腕、組んでいいよ』

「なんで上から目線」

『葵が俺のこと好きだから』

素直じゃない子供っぽさが、じれったかった。


綺麗に統一されたイルミネーションの光の中で、私の気持ちはぐちゃぐちゃになった。こんなに辛いなら、なんで一緒にいるんだと、自分に腹が立った。


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あの日に出かけた1番の理由は、日比谷のクリスマスマーケットだ。

噴水広場には、ドイツからやってきたという巨大なクリスマスピラミッドがあって、高層ビル群の中で居心地が悪そうにしている。


日比谷公園を温かく照らす灯りたち。
数年後には、夫と見ることになる灯りだった。






私たちはお揃いのマグカップを買って、ホットワインをたっぷり飲んだ。


マグカップの持ち手はハートになっていて、照れ臭かった。
横目で見ると、彼も恥ずかしそうに笑っていた。

困ったような下がり眉が愛しかった。


外が寒くて、ホットワインは思ったよりも身体を温めてはくれなかったけれど、アルコールが回って心はトロトロになる。


ほろ酔いでタクシーを拾って、新宿に向かう。

冷たくザラついた指が私の手をさする。

横に目を向けると、彼はちょっと笑みを浮かべて前を見たまま『幸せだな』と言った。


私も、幸せかもしれない、と思った。



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尊の家に着くと、彼がテレビをつける。

『録画したんだよ、これ』

私の好きなK-POPアイドルが司会をする韓国語講座の録画だった。

『これ、もう観た?俺も葵が好きなアイドルの番組観たいから、韓国語勉強しようかなと思って録画した』そう言って、また恥ずかしそうに笑った。



そういうところが愛しかった。



愛しさの記憶はある。

愛されているとは、思えなかっただけで。





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