耐えたはずの痛み

学生時代、私は俗に言う典型的な「陰キャ」だった。友達も恋人もおらず、教室の隅で本を読んでばかりいた。

当時の私は自分がASDだということを知らなかった。診断も下りておらず、そもそも自分に発達障害があるのではないかと親に伝えても、「馬鹿なことを言うんじゃない。お前は正常だ。病院代は誰が出すと思っているんだ!」と怒鳴られる始末だった。

ASDの特性が色濃く出ていた私は、笑えるほどにクラスから浮いていた。そして当然ながらいじめられていた。

恐らく相当な目に遭ったことがあるのだと思うが、その部分の記憶はごっそり抜け落ちている。腕に残る、白く盛り上がった古傷のみが今の私にとっての語り部だ。

さてここで、私が男性に苦手意識を持つようになった思い出をひとつ紹介しよう。
どうか存分に笑い飛ばしてほしい。

ある日の休み時間、私はいつものように自分の席で本を読んでいた。
隣の席には複数の男子生徒がいた。彼らはやたらとちょっかいをかけたがる、極端に言えば加害行動を好む生徒たちだった。

彼らのその日のターゲットは、隣で本に読み耽る私だったようだ。

ヒソヒソと話していたかと思うと、1人の男子生徒が椅子に座っている男子生徒の上に意気揚々とまたがり、「オォイ○○(私の名前)。」と叫んだ。

このとき私がそちらに視線をやらなければよかったのだろう。

彼らは私に見せつけるように性交の真似事をし始めた。

ギャハギャハと汚い笑い声をあげながら、周りの男子生徒が囃し立てた。椅子の上の男子とそれにまたがる男子は、こちらをニヤニヤと見ながら体を揺らし続けた。

その時の私はというと、特に嫌がる素振りも見せず読書に戻った。本心ではとても気持ち悪がっていたので、嫌がりもせずにというのは語弊があるが。

「オォイ○○。これがわかるか?これは□□というんだ。○○!聞こえてるだろ?」
「ギャハハ、処女にはわかんねえだろ!オーイ、ブス!よく覚えておけよ!ギャハハ!!」
いつの間にかギャラリーの男子生徒は増えていた。

凄まじい嫌悪感が胃からせり上ってきた。なぜ私がターゲットなのだろう?小さな悔しさも浮かんだ。


そのときだ。

スウッと嫌悪感が頭から抜けていった。

ついでにその他の感情も。

あ、彼らは私の嫌がる顔を見たいんだ。なんて馬鹿馬鹿しい連中なんだ。アハハ。

そんな文章が脳にべったりと張り付いた。

本を読む手は止まらなかった。

アハハ、隣で馬鹿が腰を振っている!アハハ、私の名字が飛び交っている!罵声がこだましている!今日も子供たちは元気だ、健康だ、アハハ!


その日の帰り道、私は道端で嘔吐した。

そのときの脳内もやはりそのままだった。

アハハ、子供が吐いている!可哀想に、可哀想に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?