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うつ病、ASD、ADHD、DIDと生きる。観客のいない舞台で踊る。

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うつ病、ASD、ADHD、DIDと生きる。観客のいない舞台で踊る。

最近の記事

あの日のこと

ベランダから階下を見ていた。 とても高いはずなのに、地面がせり上ってくるように近づいてくるのを感じた。 柵に足をかけた。 そこで私は、自分の身体が震えていることに気付いた。 片手に持った遺書が、いつの間にか力いっぱい握りしめられていた。 だが、確実な恐怖というものはなかった。 これが正常性バイアスというものかと、頭の片隅でぼんやりと思った。 正常性バイアスに包まれた私の恐怖は、薄くて透明な膜のようなものだった。 少し切れ込みを入れればはち切れるであろう脆い膜。

    • 朽ちていく記憶

      またひとつ、思い出せないことが増えた。 生まれてから今この瞬間まで、思い出せることはほとんどない。 多分、なにか楽しいことがあったし、辛いことがあったんだろう。 今の私には何一つ残っていない。そこにあったはずの跡すらも。 今日もまた、くずおれるであろう記憶を更新する。 なんだか辛いことがあった気がする。 とても耐え難く、頭から取りこぼしてしまうほど辛かったような気がする。 だが、なにも記憶にない。 去年撮った写真を見て、ああ、確か桜を撮りに行ったのだったか、と

      • 行方知れずの側頭連合野

        カッターナイフ 作品の評価。 私の生き様のひとつだった。 己の血痕と爪痕は歴戦のしるしだった。 「君の作品には理由がない」と言われた。 私は作品に理由が必ずあるものだとは思っていなかった。 周りを見渡した。 皆理由を名付けていた。 理由の意味を問うているのは私だけだった。 私は、私の五感が見つけたものを絵にかいていた。 それに理由は一つだってなかった。 ただ”ある”から描いただけだったのだ。 私の作品をせんせいは評価しなかった。 形状の歪みと、濃淡の有無のみ

        • ひとふし

          物心ついた頃にはすでにひとりだった。 周りにはオトモダチを従えた人間が沢山いた。 わたしはひとりだった。 いくつか、身につけたことがある。 仮面を被ること。 感情を悟らせないこと。 オトナを信じてはいけないこと。 笑ってはいけないこと。 るなという子供人格がいる。 彼女はわたしが幼稚園児の頃から居た。 わたしの隣でお友達になってくれた。 オトモダチからわたしを守ってくれた。 彼女がいなければわたしはとうに死んでいただろう。 彼女は6歳で時が止まった。 わたしはひ

        あの日のこと

          5月16日

          生きていてごめんなさい、と部屋で一人こぼす。 生まれてきてごめんなさい、と空に一人佇む。 どうしようもなく溢れてくる懺悔が私を包む。 何もない。 何もないのだ。 くらがりの中から、無数の目がジッと私を見つめている。 私を罰してくれないか。 そうして救ってくれないか。 囁く。 蠢く波が足もとをさらう。 私を罰してくれないか。 そうして救ってくれないか。 囁く。 私は動けない。 罪をおくれ。 憐憫を味わわせておくれ。 囁く、囁く、囁く…。

          5月16日