見出し画像

卒業できない系の女子大生たち

『カーテンコール!』 加納朋子 読了レビューです。
ネタバレ:なし 文字数:約1,400文字

・あらすじ

私立萌木女学園大学は、閉校の決まった女子大学だ。
しかし、いよいよ年度末で閉校という時期になって、ある問題が発生した。
数人の学生が単位不足により、卒業できないという。

通常なら留年となるはずが、在籍するべき大学が存在しないのだ。
大学は様々な働きかけを行い、彼女たちが卒業できるよう尽力してきた。
それでもダメなのだから、そのまま中退の扱いになるかと思われた。

絶望的な状況の落ちこぼれ女子大生たち。

だが、彼女たちに学園理事長は「ある提案」をするのだった──。

・レビュー

学園の理事長、角田かくた先生が真の主人公です。

もちろん冗談ですよ?

卒業を逃した学生は9人で、下記に示した章ごとに視点が変わります。

砂糖壺は空っぽ
萌木の山の眠り姫
永遠のピエタ
鏡のジェミニ
プリマドンナの休日
ワンダフル・フラワーズ

各章の中でも細かな視点変更があるものの、混乱しにくい印象でした。

彼女たちに出した理事長の提案ですが、きっと多くの人は
「そんなことが可能なの?」
と思うことでしょう。

提案の内容。

それは、

全員が半年に渡って寮生活をしながら、特別補講を受ける。

というものでした。

わざわざ大学がそんなことするかいな、と元・大学生だった私は首を傾げましたけれど、閉校の年なら特別にやるかもしれません。

ちゃんと最後に9人は卒業しますし、簡素ながら卒業式も行います。
そこで角田先生が発揮する主人公ぶりを、ぜひ読んで欲しい!

女子学生たちについては、大学側から様々な救済措置を出されながらも単位不足になった面々ですから、冗談じゃなく問題児ばかりです。

(こいつらを救済する必要あるのか……?)

などと第一印象からして底に落ちた彼女たちですが、我らが角田先生も単なる道楽で補講をしようと思ったわけではありません。
それぞれが抱える問題を理解して、ダメ人間になってしまうのを止めようとするのです。つまり、単位取得のための講義はオマケなんですね。

彼女たちの抱える問題。

それはたぶん彼女たちだけでは解決できず、だからこそ数々の救済措置をすり抜けてしまったのでしょう。
また、そもそも解決法がないもの、「解決」という言葉がそぐわないものもあります。全員での寮生活が良い方向に作用しますが、卒業後も付いて回る気がします。

だとしても、やがて卒業式を迎える彼女たちは、補講に入る前とは明らかに違っているのです。

その姿は夏の日差しを受けた向日葵ひまわりのように、凛々しく快活になったと私は思うのでありました。

・おまけ

あらためて本作に収められた章を示します。

砂糖壺は空っぽ
萌木の山の眠り姫
永遠のピエタ
鏡のジェミニ
プリマドンナの休日
ワンダフル・フラワーズ

全6章で構成された本作ですが、第1章にあたる「砂糖壺は空っぽ」とそれ以外では、全体に漂う雰囲気が異なっています。

その理由は第1章のみ、『惑 ―まどう―』という複数の作家によるアンソロジーが初出となっており、それ以外は『小説新潮』への寄稿から収録したためだと考えられます。

「砂糖壺は空っぽ」の章は、1人の学生に焦点を当てているのですけれど、単体で読める強さというか、鋭さがあります。
読んでいて精神的につらく感じやすい気もして、近年かなり注目されるようになった事柄とはいえ、ここで脱落してしまわないかと心配だったり。

どうか角田先生を信じて、最後まで読み進めてくださればなと。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,685件

なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?