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サンタクロースはもういない 《短編小説》

【文字数:約3,000文字 = 本編 2,100 + あとがき 900】

※ 本作は背川 昇『どく・どく・もり・もり』の2次創作です。

※ 同作については以前のレビューをご参照ください。

※ 同作を未読でも読めるようにはなっています。



  赤いふくの白いヒゲをはやしたおじいさんがやってくる。

 パパとママのいうことをきくいいこには、ステキなプレゼントをもってくる。

 パパとママをこまらせるわるいこは、ふくろにいれてつれていく。

 シャンシャンとスズをならしてやってくる。

 えんとつにまど、とびらのどれにしようかまよってる。

 ねているこどもにきづかれず、ぬきあしさしあし、きのこあし。

 おきたこどもにほうしをかけて、おやすみなさい、よいゆめを。


  絵本から顔をあげると緑色の傘をいくつも重ねたような、モミの木のクリスマスツリーがあった。

 村長さんが1軒ごとに切り分けてくれたもので、広場には見上げるほど大きなものを用意して、森が雪で覆われる中でも楽しい気分になるよう飾りつける。

 そのとき家の扉が開いて、朝早くから出かけていたパパが帰ってきた。

「おかえりなさい!」

 駆け寄って足にだきつくと、パパの頭にのっていた雪が落ちてきて、首の後ろと服の間にすっぽりはいる。

「ひゃあ! ぢめたい!」

「ああ! ごめんよタマゴ! ちゃんと雪を落とせていなかったみたいだ」

 あやまりながらマッシュルームカットの頭を掻くと、胞子みたいに細かな雪が舞い上がり、すぐに部屋の暖かさで消えてしまう。

「おかえりなさい。とりあえずお茶を淹れますね」

 いつもおっとりなママがキッチンから顔を出し、広くて丸いつばのキャペリンハットみたいな頭を揺らす。

「ありがとうママ。ああでも、ちょっとその前に見て欲しいものがあるんだ」

 そう言ってパパは背負っていたリュックをテーブルに置く。ふくらんでいる見た目からすると大きなものが入っているらしい。

「ねぇねぇ! なにを見つけたの?」

「さぁ何だろうね、もしかしたらタマゴが喜ぶものかもしれないよ?」

「ホント!? はやく見せて!」

「こぉら、あわてないあわてない。ママが先に見ないとダメだから、タマゴは目をつぶっていなさい」

「えー、なんでなんで? はーやーくーみーたーいー!」

 足に絡みつくようにしてだだをこねると、パパは唇の両端を持ち上げて、たぶんこれまで一番に怖い顔を作ろうとした。

「パパとママを困らせる悪い子は、袋に入れて連れてかれちゃうぞ~!」

「きゃー! こわーい!」

 悲鳴みたいな歓声をあげ、暖炉の近くにあるソファの後ろに走っていき、

「いうことききます! だからつれていかないで!」

 笑ってしまいそうになるのをガマンしながら、大きな声でもってお願いする。

「よーしよし。すぐに分かるから、まだ見ちゃダメだよ?」

「あらあら、タマゴちゃんが待っているなら急がないと。はいパパ、どうぞ」

「さすがママ、いつもながら美味しいお茶だね」

「そんなに褒めても何も出ませんよ。うふふふっ」

「こんなに美味しいお茶を出されたら、また好きになってしまうなぁ」

「もう、はやくしてよ!」

 パパとママの仲が良いのは嬉しいけれど、たまに2人だけの世界へ行ってしまうときがあるので、こうしてムリやり呼び戻さないといけない。

「そうだった、ゴメンよタマゴ。ママ、こういうのを見つけたんだけどね……」

 がさごそとリュックから何かを取り出して、テーブルの上に広げている。でも2人の背中に隠れてしまい、いったいどんなものか分からない。

「もうちょっと……あっ」

 ソファの影から身を乗り出しすぎてバランスを崩し、どたりと床に倒れこんでしまう。すぐに顔を上げるとパパとママがこっちを見ていた。

「……こぉらタマゴちゃん、ダメっていわれたでしょ~?」

「ご、ごめんなさい……」

 ゆらりとママが一歩を踏み出して、そのまま踊るみたいに近づいてくる。

「悪い子はママが袋に入れちゃう! それっ!」

 掬いあげるように抱き上げられて、くるくる回りながらテーブルまで連れて行かれる。

「わぁん! ごめんなさ……あれ?」

「タマゴちゃんを袋に入れるなんてウーソ、そんなことママはしませーん。それより見て、これ」

 テーブルの上にあったのは赤い布で、雨に打たれたみたいな白い水玉模様が入っている。

「かわいい……」

「でしょ? ママ、これでタマゴちゃんに服を縫ってあげようと思って」

「ホント!? じゃ、じゃあリボン、リボンもほしい!」

「うふふふっ、いいけど何か忘れてなぁい?」

「あっ、そうだっ! パパありがとう!」

「タマゴに喜んでもらえてパパも嬉しいよ」

 そう言ってパパは頭を優しく撫でてくれる。

「タマゴの赤い髪に似合うかなって。だからこれはパパとママからのクリスマスプレゼントだね」

「やったぁ!」

 

 パパが見つけてママが縫ってくれた服にリボン。

 それはボクにとって大切なプレゼント。

 だけどパパとママはもういない。

 ボクがパパとママを困らせたから?

 それともボクが毒キノコのベニテングタケだから?

 会いたいよ、パパ、ママ。

 ボクが2人を大好きなのは今でも変わらない。

 たとえ2人がボクのことを嫌いでも。


 End. 




 はじめまして、もしくはおひさしぶりです。

 前に2次創作で『TANGO TIME』という話を書いたのですが、今回は『どくもり』単体で形にしました。

 きっかけはpixivで開催中の「ブックサンタ2023」というチャリティ企画でして、投稿数に応じて寄付額も増えるそうです。

 この時期らしくテーマは「クリスマス」なのですが、どちらかというと『どくもり』は悲しい物語であるため、ありし日のクリスマスを描いてみました。

  タイトルの『サンタクロースはもういない』にもちゃんと意味があり、作中において「サンタクロース」の単語は1度も出てきません。

 欧州では赤に白い斑点のあるベニテングタケが、赤い服で白ひげをしたサンタのイメージと重なるらしく、キノコ自体もマスコットとしてツリーに飾るそうな。

 ちなみにヘッダーのタイトル写真はタマゴタケ(推定)でして、赤い部分に白い斑点があると高確率でベニテングタケです。

 美味しいらしいタマゴタケとベニテングタケは発生時の姿が似ており、傘が開いても白い斑点が雨などで取れると、なかなか見分けるのが難しくなるそうな。

 キノコについてはともかく、投稿すると作者様にも好評いただけたのが嬉しく、眠い想いで書いたのが報われました。

 もちろん報われるのが大目的ではなく、本作の構成において試してみたいことがありました。


 それは本体の前後に挟んだ短文のパートでして、前者が絵本、後者がモノローグ、つまり独白という設定です。

 前後にあるパートは詩の書き方に近く、本作は異なるリズムを組み合わせる実験作として書きました。

 小説本来の書き方としては本体が正しいわけですが、必ずしもそれに縛られる必要もないわけで、もしも違和感を覚えるなら改善の余地ありということです。

 私は表現における試作ができて、作者様は2次創作が見れる。あわよくば新規読者を得られるかもしれない。

 もちろん純粋に「これを形にしたい!」というのは確かですけども。

 原作を知らない方にも、私の妄想で楽しんでいただけたのなら何よりですし、ひとまず年内に初稿をあげたとしても、これまでと同じ感じでnoteを更新していくと思います。



なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?