地獄に落ちろと願った先で見つけたもの
『学校に行けなかった中学生が漫画家になるまで』 月本千景 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約3,100文字
・あらすじ
作者が小学校6年生になってすぐ、とある異変が起こった。
起立性調節障害。
文字を見ただけでは、どういった症状が出るのかさえ分からない病気だ。
始めこそ「なんか変だ」という認識だったものが、その後の中学高校からさらに先へ到るまで続く苦難の始まりだとは、誰も知るはずがなかった──。
・レビュー
noteで読めます
noteで元になったエッセイマンガは読めますので、とりあえず内容が知りたいという方は今すぐ作者ページにどうぞ。
多少の修正を加えていると記事にて紹介されていますが、ほぼ勢いはそのままなので試し読みとして、noteの記事は十分過ぎると思います。
個人的には紙のほうが読みやすく感じましたから、財布に余裕のある方は購入を検討してくださればと。
起立性調節障害とは何か?
社会福祉法人 済生会のページによれば、次のように説明されています。
最近のCOVID-19に関連した記事で、なんとなく見聞きしたような気がしていたものの、症例の説明を読んで
子供の更年期障害みたいなものかな?
と思いました。
中年女性のものと言われがちな更年期障害ですが、ホルモンバランスが影響しているので男性も関係があるらしく。
もちろん自律神経失調症という病気もありますので、あくまで私がそのように捉えたというだけの話です。
なんであれ見た目からは分かりにくく、本人だけが苦しむ点は似ているのではないでしょうか。
うらやむ気持ち
中学1年の2学期になると、ほぼベッドの上で過ごす生活が始まったとのこと。
何もできない日々を過ごす中で、病気だと目に見える形で分かる人々に「うらやましい」と思った後に
と自らを責めるのです。
状況は違っても、同じような感情を一瞬でも思い浮かべたことのある人は多いでしょうし、私も作者様と似たようなものです。
だからこそ差し出した言葉の刃物が自分へと向かってきたとき、内臓をえぐられるような酷い痛みを覚えるのでしょう。
家族の存在
作者である月本 千景さんが漫画家となる以前に、中学そして高校からさらに先まで生きていられたのは、お母様の存在なくしては成し得なかったと思います。
お母様も同じような症状を中学・高校生の頃に経験していたとのことで、その後の看護師という職業も幸か不幸か、作者様にとってプラスに働いたのでしょう。
中学1年の冬頃に、2カ月待ちの診察を経て起立性調節障害と診断されます。
不調を感じ始めた小学6年から診断名がつく中学1年の冬まで、およそ2年が経過していますけれど、おそらくは早い部類に思えます。
思春期に特有の「ありがちなもの」として認識され、本人の意識でどうにかなるとも言われがちですし、若いんだから体力あるだろと、優しく突き放されるのが10代の実情ではないでしょうか。
「普通」ではない児童が増えている?
近年、自閉症スペクトラムやADHDなどの発達障害を持つ児童が増えており、きめ細やかな対応が教員に求められているそうです。
私が10代だった頃を思い返してみると、今よりも出生数は多くて1クラスあたりの人数も同様でした。その中にあっても、奇妙な行動をする同級生がいました。
授業を最後まで聞けずに教室を飛び出す、おかしな言動をするためにいじめられる、そもそも登校してこないといった、「普通」でない生徒は少数ながらも存在したのです。
私が見たのは本作の作者様と違い、不調ではなく問題行動を起こす生徒でしたが、彼らの事情を理解できなかった点では同じです。
そのことを今なら申し訳なかったと反省できます。ただ、当時の状況においては「変なヤツ」として認識するしかありませんでした。
かくいう私も小中高で休まず登校していましたけれど、「普通」であろうと懸命でした。今になって思えば無理やり登校していたのでしょう。
からみつく過去
どうにか中学校を卒業し、通信制の高校から漫画の勉強ができる芸術系大学へと進学します。
そこで作者様は、次のような壁もしくは溝に遭遇します。
小中高と当たり前に進んできた人にとって、そうでない人とは経験値が異なります。
文化祭などの各種行事や教室での出来事といった、おおげさに言えば生きて来た世界そのものが異なることに、前向きな感情を持つのは難しい気がします。
その後に気分障害、大別してうつ病と診断されます。あわや留年もしかしたら退学かと思いきや、ここでもお母様が活躍します。
大学のY先生も「漫画家になる」という目的に縛られていた思考を解きほぐし、苦しい状況を楽にしてくれた立役者と言えます。
何者かにならなければと焦るのは、程度の差があっても多くの人が共感できるように思います。
ましてや「普通」でないと自らを認識しているのなら、定めた目標に固執するのは自然な心理ではないかと。
なくした人々に向けて
COVID-19による影響で、昨年および今年に10~20代として学校に通う人々は、言葉にしにくいほど大きな損失があったのではないでしょうか。
一斉休校や分散登校、様々な行事の中止を余儀なくされ、今や「普通」の学校生活は失われているように思います。
異常事態が今後も続くであろう現在、通信制高校への転校を希望する生徒が増えていると聞きました。
本作の作者様は病気が理由ではありますが、図らずも彼らの先輩となりました。
現在は漫画家となった先輩が、これからどのように生きるかと考えて呟いた言葉は切実で、真っすぐ心に響くのではないでしょうか。
どこか悲しい響きをおびているのですが、自分の中にあるものを掻き分け、それまでの人生と続く未来を総動員した結果なのでしょう。
この夢を安直だと笑い飛ばせるのは、同じ苦しみを味わった人間だけに思えますし、そうした人間であっても厳に慎むべきかと。
今後の行く先は常に不確定ですが、作者様の姿から淡い道筋を得られる方もいると信じています。
下記は起立性調節障害の発症により、通信制高校へと転入を決めた方の記事です。
具体的な症状や転入を決める過程の参考になりますので、よければ訪問されてみては如何でしょうか。
2022/05/22 追記
引用していた記事の著者様は noteを退会されたようです。
なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?