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[第6回] 産学共創で新しい道をひらく

リンエイでは今、大学の研究室と産学共同で商品管理システムの改革に取り組んでいます。今回お話しいただくのは、ご協力いただいている南山大学理工学部データサイエンス学科 三浦研究室の三浦英俊教授、リンエイ商品管理部課長 熊澤圭紘さん。数理モデルを駆使した最先端研究の中身とは、果たして?

南山大学 理工学部 データサイエンス学科 三浦研究室
「オペレーションズ・リサーチ」を用いて問題解決の手法の研究に取り組む。社会や企業、組織の中で実際に起きている問題に対し、数学に基づいて数理モデルを作り、導いた答えをフィードバックして課題を解決する。企業との共同研究の実績多数。

ピッキングの課題を数理モデルで解決

ーー三浦研究室とリンエイの協業はどのようにスタートしたのですか?

三浦教授(以下 三浦):一昨年の秋に、研究室に電話をいただいたんですよね。「自転車の部品を販売している会社で、倉庫のロケーションの最適化をしたいんだけれども、研究という形で協力してもらえませんか?」と。それがきっかけですね。

熊澤課長(以下 熊澤):僕がお電話しました。常日頃、例えばよく売れる商品なのに出荷処理をやっている場所から遠い場所にあるなあ、効率が悪いなあという問題を抱えていました。つまりピッキング動線の効率化ですよね。それを、数字で課題解決したいと思っていた中で、上司から「それなら、最先端研究をしている学科がある」と紹介されまして。いきなりお電話したんですが、三浦教授ご自身が出られて、温かく接してくださって…。

三浦:うちは全然ウェルカムです。大学の教員は一人で何でもやらなくてはならないので、授業もすれば、電話も取りますよ。特に研究のお申し込みは有難いので、二つ返事でお受けしました。でも何でうちを選んでくれたんですか?例えばITコンサルタント会社に依頼したら、もっと早く課題解決できたかもしれませんよね。

熊澤:要望を実現してくれるところは、大学さんじゃなくてもあると思うんです。でもリンエイとしてはただ依頼してお任せするのは望んでなくて。ピッキングの効率化という目的に対して、一緒にゴールを設定して解決方法を出していく、「共創」というスタンスを作りたかった。同時に、商品管理部の業務を指数化したかったというのがあります。日本有数の研究室が近くにあるなら、共同で研究してみたいと。

三浦:学生の卒論のテーマとして研究させていただいてるので、その意味では我々としては非常に貴重な機会をいただいています。それと、正直、コンサルタント会社に依頼するよりも気軽にお願いしていただけるのかな、と思っています。

熊澤:それもありますが(笑)、それよりも、一緒にゴールをつくりたい、大学の皆さんと共創してリンエイならではのゴールをつくりたいと思ったんです。コンサル会社さんはこちらの要望を聞いて、問題解決のフローや改善のための企画、しくみの構築方法を教えてはくれるかもしれません。でも、業務を学術的に指数化するという、そこまで先端をいく企業には出会えませんでしたから。

三浦:それは嬉しいですね。オペレーションズ・リサーチっていうのは、実は、そういう文化も持っています。本来はどの分野でもそうなんですが、理論的な手法を単に実問題に適用するだけでは、プロジェクト全体はうまくいかないものです。おっしゃる通り、パートナーと話し合ってゴールを決めないと。オペレーションズ・リサーチは他の分野、例えば経済学とか経営学、土木や建築と比べても柔軟性があるんじゃないかな。実際の問題に当てはめられる数理モデルがいっぱいあるから。

ーーということは、初めに取り組まれた課題というのは…
三浦
:ピッキングの効率化です。なるべく短い距離でピッキング作業ができればよいのではないか、と考えて、ピッキングの動線を見直すことにしました。

熊澤:そうですね。リンエイには建物が2つあって、2つの場所に商品を取りに行かなくちゃならないので、効率が悪いんじゃないかという課題があって。そこで、数値を使って効率化できないかというご相談をしたんです。

三浦:商品管理のシステム自体は、もうあったんですよね。

熊澤:そうです。僕が入社する前、2012年にシステムが稼働したと聞いてます。その前は商品棚もなく、商品のロケーション(置き場)も決まってなくて、ベテランの担当社員さんだけがどこに何があるか把握していたと。一つ注文が入るたびに在庫があるかどうか倉庫に確認しに行っていたそうです。2012年のシステム導入で改善はされたものの、SKU8000、つまり8000種の商品を管理して、当日発送、翌日納品を達成するには、まだまだ効率化する必要がありました。

ーーピッキング、つまり注文があった商品をピックアップする動線を見直したことで、即日発送が可能になったわけですね。
熊澤:はい、以前は商品を、製造元ごとでまとめて置いていましたが、三浦教授が売れ筋ごとにまとめる配置を組んでくださいました。かつ、大口のお客様がよく注文される関連商品を集めて配置することで、そのお客様のご注文のピッキングはだいたいこのエリアでできるという動線を考えてくださって。一つの注文シートに対して商品を取りに行く時間が激減したんです。

三浦:いや、そこまでじゃないでしょう?1割ぐらい?

熊澤:2割にはなります!関連商品を集めた部分では4割削減できてます。

三浦:そうなんですね。その分、1日にできるピッキング作業の件数が増えたかもしれないね。

熊澤:2つの建物をまたいで取りにいく件数が減ったのは、かなり大きいです。

三浦:そう、なるべく2つの建物をまたがなくて済むような商品配置を提案しました。だけど、商品の売れ行きは変化するものなので、ロケーションは定期的に見直すことが重要だと考えています。都度我々に計算を依頼していただいてもいいし、リンエイさんで計算するシステム作りをお手伝いしてもいいし。

熊澤:売れ筋商品を手前にっていう方針は示していただいだので、システム作りもこれから協業していただければと思います。

学生と共に3つのテーマに挑戦

ーー現在はどんな課題に取り組まれていますか?

三浦:リンエイさんから3つテーマをいただいています。1つが「発注点の算出」。これは、注文がきたのにその商品の在庫がなくて売れなかったという、いわゆる機会損失が起きないように、必要十分な在庫を持つために、その商品をいつ製造元に発注したらいいか。そのタイミング、発注点を割り出すという。

熊澤:在庫がここまで減ったら発注してください、という基準の数値ですね。

三浦:実際にデータを見ると面白いですよ。リンエイさんがメーカーに発注して、7日以内に入ってくるのが7、8割。入荷まで10日とか14日とかかかるものも結構あって、これは手強いぞと思ってます。学生と一緒にデータを見てますが、海外に注文するものがあるからかな、とか。注文したらすぐ入ってくるんじゃないんだって、びっくりした。

熊澤:そうですね、海外のメーカーさんから取り寄せる場合かなり時間がかかるので、やっぱり在庫を持ってないと…。下手すると1年後の納品ですって言われることも(笑)。

三浦:それを過去の履歴から、AI的に言うと学習データにして、アイテムごとの最適な発注点を出していこうと思います。ただね、8000から10000アイテムあるので、全部真面目にやったら大変なことになる。だから売れ筋商品に絞って管理をして、あとのものは従来のやり方でも構わないんじゃないかな。最終的に管理するのは人間ですから、真面目にやるべきものと、そうでないものを選別する、その辺もデータからわかってくると思いますよ。それもある種の、データサイエンスの技術だと思っています。

ーー2つ目、3つ目のテーマは?
三浦
:2つ目は発送ミスの削減ですね。お客様に送る商品の種類や個数を、誤ってしまうことがあると。

熊澤:発生するミスの間に何らかの関連性があるんじゃないか?と。

三浦:それをデータから見つけて、間違いを減らす方法を考える。でもこれも、まず何に取り組むべきかが問題なんですね。例えばミスが1日に1件しかないなら、ピッキングの方法よりもチェック体制を見直した方がいいかもしれない。

熊澤:大まかな、というか、単純な解決策もあるかもしれないんですね。

三浦:そうそう、チェックリストを大きく印刷するとかね。あんまり数理的じゃないかもしれないけれども、そういった、経営工学や人間工学の観点からのご提案もできればなと思っています。

熊澤:3つ目は、本社倉庫の他に、いくつか商品備蓄用の倉庫があるんですが、そこに商品を取りにいく回数が多く、かなり時間を割いている。その頻度を少なくしたいというのをテーマとして投げかけさせていただきました。

三浦:それを解消するには、本社の倉庫にどれだけ積んでおけばいいか、ですよね。

熊澤:そうです。季節ごとでも変わると思うんですが、備蓄倉庫から出して、ピッキング用に本社の倉庫に配置する個数を、数理的にデータで知りたいんです。

三浦:それも売れ行きを見れば目安はつくかなと思ってます。月毎のデータを見て、年間に売れる個数を見て、ですね。発注点の算出よりは易しいと予想しています。

熊澤:その都度買うのか、それとも、備蓄しておいて取りに行く方がいいか。一緒に考えていただきたいです。

ーーリンエイの現場を見て、解決策を考えられるのでしょうか?
三浦:もちろん。なんだってそうですが、やっぱり現場を見ないとわからないですよ。昨年も一度学生と一緒にお邪魔しました。こうなってるんだ、こうやってピッキングしてるんだと理解するのは、数理モデルを作る上でも非常に重要ですから、今年も学生を連れてお邪魔したいです。

熊澤:学生さんは、そうやって実際に現場を見に来て、それをテーマに卒論を書かれるんですよね。

三浦:そうです。繰り返しになりますが、最初にご相談いただいたときに、学生の卒論、修論でやらせていただきたいと言ったら、快諾いただいて、有り難かったですね。欲しいデータもすぐ送ってくださるし、月1回のミーティングも快く受けていただいて、我々としては非常に気持ちよく研究させてもらっています。どんなアイデアが出てくるかは学生次第。リンエイさんとのミーティングは月イチですがゼミは週1回あるので、そこでダメ出ししたり、褒めてみたりして進めています。

熊澤:いやあ、面白いですね。

三浦:企業の方との話し方や議事録の取り方を含めて、学生にはいい経験になっています。

固定概念をデータで打ち破っていく

ーーお互いにとって、この産学協業プロジェクトの意義とは?
熊澤:僕は、このプロジェクトで今まで体感でしかなかったことが数値で明確化されて、達成感を非常に持ちました。

三浦:ロケーションをこう変えると、これだけ効果がありますと、シミュレーションして何パターンかご提案したんですよね。架空のピッキングリストを作って、コンピュータ上で倉庫の中で歩く距離を測って、何割短くなるか実験して。

熊澤:それをメートルで示していただいた。一度の注文でこれだけだから、年間でこれだけのメートルが削減されますよ、と。現場のスタッフにも数字で説明すると納得してもらいやすく、実際の改善が進みやすいです。数字の力を実感しています。

三浦:研究者としては色々な数理モデルを開発したい思いがあって、かつ、それを色んな分野に適用してみたいわけです。リンエイさんのような企業様から共同研究の話をいただくと、実際の問題に数理モデルを当てはめて検証できる。それも大学の役割だと思うので、貴重な機会をいただいています。情報技術がどんどん進化する中で、バイアスに囚われずに理想を現実化していくためには、常に新しい技術を勉強し続けて、社会の動きにも気を配ってなきゃいけない。僕の場合はそれが楽しいからやってるんですが(笑)。その意味でこうしたプロジェクトは有難いです。

熊澤:僕の場合、このプロジェクトで数字の便利さ、効果に気づけて、視野が広がったと思っています。自分の頭の中だけの思い込みが、客観的な数字を見ることで打ち破られるというか、固定観念が覆される。このプロジェクトは個人としても、企業としても、可能性を広げられる場です。リンエイではこれからSKU(取扱商品数)を倍増する計画です。三浦研究室のお力がますます必要です、ぜひよろしくお願いします。

[インタビュー 控え室]

南山大学 理工学部 教授 三浦英俊(右)
僕はもともと都市工学を専攻していて、オペレーションズ・リサーチを実際の社会に役立てたいという思いを持っています。リンエイさんとのプロジェクトは研究者としてもやりがいがありますし、学生にとっても、社会を学ぶまたとない機会になっています。

リンエイ株式会社 商品管理部 課長 熊澤圭紘(左)
客観的な数値データによって、問題が具体的に解決されて、成果がわかる、そのすごさに感動しています。僕も新しいことを学んで仕事にも人生にも生かしたい。今年は大学の研究室にふらっと遊びに行きたいです。(「ぜひ!」ー三浦教授)

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