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冬の終わり

日差しに埋もれたい。温もりや全てを肌に融かして、ほしいままに纏いたい。そんな春を感じてしまって、冬を裏切ったような気持ち。

窓の外が灰色で、美しく輝く銀世界も好きなのに、オレンジ色に照らされる道にお久しぶりとご挨拶して、浮気者。

会いに行くには寒すぎる冬と、否応なく照らしてくる春。温もりを求めすぎて、気付いたら夏。愛に満ち足りた私は、夏を拒絶する。会いに来ないでと、夏を嫌悪する。

閉じこもる私をよそに、夏は発汗インターホンを鳴らし続ける。もう嫌だと叫んだ頃には、もう秋。あんなにもしつこく私を愛した夏はスッと居なくなって、街は彩られ空気は乾く。

その別れ際が、私を追わせる。秋に会いに外に出る。存分に秋とのランデブーを楽しみ、好き好きモードもONになって、黄色い絨毯を蹴散らかして、紅く染まる景色に心を盗られて、そして気付いたら冬。

色は消える。夜は長く、暗闇が世界を覆う。起きたら美しい銀世界。吐いた息が空に登る様子を眺めながら、気高く佇む冬を、ただ窓から眺めるだけ。

樹々は冬の美しさに平伏して葉を落とした。太陽は冬の気高さに怯えて少ししか顔を出さない。見下すように空気が冷えていて、それでも何も知らない私を責めることなく、ただそこに冬は聳え立つ。

興味本意に手で触れて、ヒトには早すぎる季節だと感じてしまう。決して追いつくことのない神秘。広がる銀世界。窓から眺める程度で満足したいのに、冬と同一できない自分が憎い。

あの美しく気高い冬に出会うたび、全てが平伏してしまう様子を目にするたび、私の心に憧れだけが積もっていく。

それでも様子を伺って、機会を窺って、冬を欲しがる。冬になりたがる。愛すべき孤高の嫌われものに。

そして、気付いたら私は陽だまりで温もりに包まれてしまう。

何かから守るように、冬に堕ちないように、陽射しが私を留めてしまう。

そしてまた1年が始まる。

冬に別れを告げる間もなく、春に気を取られ、夏を嫌悪し、秋に心を躍らせ、そしてまた冬に平伏す。

春が、会いに来てしまう。

冬の終わり。

さようなら。またお会いしましょう。

励みを頂ければ……幸い至極です……