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ー或る深き青の物語<5>ー


このお話は続きものです。

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ヨシュアとライナスは、日ごとに親密になった。性格は、周囲と関るのが億劫なヨシュアとは対照的で、ライナスは陽気で人当たりがとても良く、周囲から好かれている。ヨシュアは、一人を好み内にこもりがちなので、ライナスはヨシュアを構いに行ったり、人の輪に引き込むのだった。

ライナスの髪色は、茶色に黄金色が混ざっている。瞳の色は、明るめの茶色と緑色の混色である。体つきはがっしりしていて、よく鍛えられている。身長は、ヨシュアより少し高い。

ライナスは騎士を目指して文武両道である。ヨシュアは、とくに志す将来像は無いようだが、もともとの出来が良く剣技も知力も優れているので、二人は毎日ライバルとして切磋琢磨していた。


シルヴィーは、新しい物語を考案していた。ヨシュアに出会ってから、ヨシュアをイメージした主人公でお話を描こうとするも、人物像を架空にしているからだろうか、ストーリーがうまく浮かばない。そして、取材のように質問をしに行った時の拒絶感を思い出すと、気分が重くなり筆が進まないのであった。もう一度、ヨシュア本人にもう少し話を聞いてみようかな…と思い至り、声を掛けようと心に決めた。

ある日、休み時間にライナスがヨシュアから離れた時を狙って、シルヴィーはヨシュアに話しかけた。

「ヨシュア、あの…この間は突然、色々聞こうとして、不快にさせてしまったと思うの。ごめんなさい。」

ヨシュアは驚いたような表情をし、目を丸くした。シルヴィーからまた声を掛けてくるとは思わなかったのである。

「いや…僕も、悪かった。あまり自分のことに干渉されたくない一心で…つい、つらく当たってしまったように思ってたから。あの日は、申し訳なかった。」

シルヴィーは、それを聞いて嬉しくなった。後々、思い返して態度を改めようとしてくれていたのだと思うと、また何か質問したりしても大丈夫なのかな、と希望が胸に満ち溢れてくる思いだった。

「いいえ、自分のこと聞かれて嫌な人もいるもの。少し悲しかったけど、もう気にしないで。」

ヨシュアは、少し笑みを浮かべて頷いた。そして、シルヴィーが目を覗き込んでくるので、瞳の色をもう一度確かめるようにしっかり見てみたが、やはり、美しい色だな…と感じた。

「えぇと…また、何か話したりしてもいいかな?あなたのこと色々知りたくて」

嬉々としてシルヴィーが問うと、ヨシュアは表情と気持ちを一気に引き締めた。

「君は物語を書くのが趣味なんだろ?ライナス達から聞いたよ。それで僕に話しかけてきたんだよね?」

「そう、そうなの…。もう皆から聞いてたのね、私の趣味のこと。」

シルヴィーは、変わった趣味だと思われた気がして、恥ずかしくなってしまい…顔面が熱くなるのを感じた。

「珍しい趣味で驚いたよ。まさかその為だったとは。…悪いけど、僕はやはり自分のことはそんなに話したくないんだ。」

「…。そう…。」

もう一度、わけを話して質問すれば、何か彼のことを知れるかもしれない…という期待が一気に打ち崩され、シルヴィーはみるみる落ち込んでいった。

「…すまない。」

ヨシュアは、目の前でしょんぼりしているシルヴィーを見て、また落ち込ませてしまったなと気を悪くしつつも、仕方がない、と割り切った。

「次に書く物語に、あなたをモデルにした人物を登場させたくて…でも、なかなか細かい人物設定が思い浮かばなくて。つい、あなたのこと聞きたくなったの。」

「…。」

「だからすごく、残念だけど…。こちらこそ、一回断られてるのにまた質問しようとして、ごめんね。」

ヨシュアは、気まずそうに頷いた。シルヴィーは、じゃぁ、と呟いて寂しく微笑むと、力なく肩を落とし切な気な表情を浮かべながら、自分の席に戻るのだった。

ヨシュアは、はっきりと自分が彼女の物語に出演しつつあることを告げられて一瞬ドキリとしたが、自分自身のことを公表しない、と固く心に誓ったことを思い出し、深く考えないようにした。


シルヴィーは、自分の席から窓の外を眺めながら、主人公の人物像について何もヒントが得られず途方に暮れかけた。が、ヨシュアのことを詳しく知れずとも、主人公として物語を綴ることは決めていたので、何とかしようとメモ帳を開き、ヨシュアとの会話の雰囲気を思い出しながら受けた印象を書いてみた。個人情報など自分自身のプライバシーを教えてくれない頑なな姿勢や、少し陰のある印象、端正な顔立ち、冷静さ…。周囲から聞く、彼の学科の優秀さなどを合わせて考えてみると、もしや彼(という人物像)には、出生の秘密などがあるのではないか?という仮説が導き出された。更に、実は彼は「国王の私生児」であり、そのせいで身を隠して生きていて、この地に逃れてきたのでは…?と。そう思い付くと突如ストーリーが思い浮かんで、シルヴィーはこれで物語が描けると思うと、光が差すように心が明るくなるのを感じて微笑んだ。早速、帰ったら創作に取り掛かろうと思うと、わくわくしてくるのだった。

(続く)

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