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【まらしぃ】感情を音に、音楽を光に【追加二日目】

「今日は楽しんで帰ってください、僕が一番楽しんで帰ります」
ライブに限らず、彼の演奏スタイルはとにかく本人が楽しそうなことで定評がある。
彼の楽しさはどこから伝わるか。演奏中の表情やMCでの声色はもちろんなのだが、なによりも演奏そのものだ。
指先の力の込め方や抑揚の付け方、緩急やアレンジの自由さ。普段からアドリブをふんだんに使う彼だが、それは意図的な表現というよりも、そのときの感情の表出のように見える。
好きな曲を二時間半弾ききった2019年、ラストライブ。この日の彼は一段と楽しそうに見えた。

暗転したステージに姿を見せたまらしぃは、『うらめし太郎』、『Love Piano』でスタートを切る。序盤とは思えないほどの指のこまごまとした動きとグリッサンドのダイナミクスで観客を圧倒。ステージと客席にはレーザーが走り、照明がカラフルに彩った。ピアノライブとは思えない視覚の賑やかさである。
挨拶を挟み、ボーカロイドメドレーとアニソンメドレーをそれぞれ披露。軽快ながらもふくよかな緩急で力強く演奏された『メルト』、淡々としたAメロが特徴的な『アスノヨゾラ哨戒班』、通称「おシャルル」と呼ばれるジャジーなアレンジの『シャルル』。力のこもったサビが感情を高ぶらせる『God knows…』、しっとりとした『残酷な天使のテーゼ』原曲の抑揚がリアルな『紅蓮華』、聴き入る雰囲気から一転して手拍子とともに奏でられた『太陽曰く燃えよカオス』。メドレー形式でありながら1曲ずつ異なる色を持ち合わせていて、それでいて自然な展開に引きこまれる。

続いて、今年下半期続いてきたツアーの中でも気に入っているコーナーだという音ゲーへの提供曲を4曲続けて披露。さくらんぼや月、猫、星など曲によって異なったモチーフの光の演出がされる。拍手をする間も開けずに4曲続けて演奏された。元気の良い『Chelly spLash』や繊細に細かい音が紡がれる『stella=steLLa』。いくら音ゲーという共通点があるにしろ、本当に振り幅が広い曲を続けて演奏するものだ。鍵盤を叩く彼は本当に楽しそうである一方で、会場の空気をガラリと変える強さを持ち合わせている。

まらしぃのライブの面白いところのひとつは、ピアノライブなのにもかかわらずグランドピアノの前に腰掛けて演奏しているだけではない、ということだ。
ステージに用意されたキーボードに移動すると、ステージ奥のスクリーンには映像が鍵盤とRPGを模した映像が現れる。鍵盤のタッチに応じて映像が浮かぶ、通称"ピアノプロジェクション"だ。今年上半期に行われた中国ツアーのためにつくられた『風来』が西遊記の登場人物を模した可愛らしいキャラクターの映像とともに披露される。途中、まらしぃはこれまで食い入るように演奏を聴き映像を見ていた観客を振り返り、手拍子を求める。手拍子をもらって満足げな彼は笑みを浮かべると、より力強く曲終盤を駆け抜けた。
同じくピアノプロジェクションを使って、「みなさんにお腹空かせて帰ってもらおうと思います、噂によると三茶(今回の会場付近)は美味しいラーメン屋が多いとのことなので…」と『ラーメンデュエル』を熱のこもったアドリブとともに。手拍子と共にロックチューンの飯テロが演奏された。

ニューアルバム、"ちょっとつよいクラシック"を発売したまらしぃは、小学生時代の運動会の思い出に思いを馳せながら『ちょっとつよい天国と地獄』『ちょっとつよいトルコ行進曲』を披露。クラシックの敷居の高さや取っつきにくさなどはまるでなく、ポップにアレンジされた"ちょっとつよい"クラシックが楽しそうに跳ねながら、そして音数を増し迫力満点で奏でられる。ここまででオリジナル曲のみならず、アニメ・ゲーム、ボカロ、クラシック。多岐にわたるジャンルの楽曲が次々に弾かれていく。一見雑駁としているようなセットリストだが、彼の特徴的な鋭く跳ねる音色と音数の多い疾走感溢れるアレンジがまらしぃの名の下にまとまりを持たせている。

ここで、最近発足した「まらおバンド」が登場。といっても固定メンバーはまらしぃ本人のみで、これは「彼が一緒に演奏したい人と演奏するバンド」というかなり自由なバンドだ。今回ゲストに登場したまらおバンドのメンバーはドラマーの与野裕史。まらしぃの演奏に手数の多くダイナミックな与野のドラムが交わる。演奏されたのは『運命』だった。
シークレットゲストでベーシストのIKUOが姿をあらわすと、三人で『カノン』を披露。あのクラシックの『カノン』である。元々の上品さはまらしぃの高音の美しさに残されつつ、手数の多くキレのいいドラムと分厚く低音を支えるベースによってロックに色を変えていく。普段それぞれがバンドなど縛られずに活動しているせいか、個々の主張が強い。しかし対立することがなく、引き立て合うのが彼らの演奏力の真髄である。続けてまらしぃのオリジナル曲、『meteorite』をピアノをかき消さんばかりの勢いで披露すると、会場はこれまでにないような熱気と歓声に包まれた。

熱狂から一転、グランドピアノの蓋が上げられ、完全生音で『空想少女への恋手紙』。初音ミクとのコラボコンサートの際にこの曲が初音ミクによって歌われたことで「画面の向こうにいる遠くて近くてやっぱり遠い君」に思いを伝える夢を叶えたまらしぃは、そのときのことを思い出すようにしっとりと演奏する。生音のスタインウェイは、そんな優しい雰囲気に似合う柔らかい音色をしていた。

まらしぃのボカロ最新曲『霖と五線譜』、パズドラのキャラクター、カリンをモチーフに作られた『Karin』が披露されると、そのまま『千本桜』へ。観客の手拍子を狂わせるように敢えて溜めたり演奏を止めたり、観客と笑い合いながら和やかに進行する。終盤では手拍子の響く中、焦らすように観客に笑みをこぼしたまらしぃはピアノから手を離し、水分補給から眼鏡拭きへ。しっかり焦らされて手拍子が大きくなった観客とともに、一気にスピードアップしてゴールを切った。
「最後はこの曲を弾かないと気が済まない」と彼がピアノを再開するきっかけとなった曲である『ネイティブフェイス』をビビッドなレーザー演出とともに力強く弾ききり、本編は幕を閉じた。

再び姿を現したまらしぃは、普段生放送をしている自室を模したベッドにV-Piano―の上にはボーカロイドのフィギュアがひしめきあっている―という特設ステージの上で『ナイト・オブ・ナイツ』を披露。「お散歩ナイツ」の愛称でおなじみのこの曲は、つまるところ「ナイトオブナイツからはじまってナイトオブナイツで終わるメドレー」だ。この曲は盛り上げが必要なので手が痛くなると思います、というフリに応える観客と一体感を積み上げていく。東方Projectの楽曲を中心に、好きな曲を好きなアレンジで弾くまらしぃと、それを聴きながら楽曲に応じて手拍子の音量やリズムを変える観客。音楽で文字どおり一つになる体験。音楽の至福は、こういうところにあるんじゃないか。

今年最後のライブのしめくくりは、『夢、時々…』だった。彼が初めて作曲した楽曲であり、幕張メッセでも最後に選ばれた楽曲。思い出の多いこの楽曲を弾く前、まらしぃは「楽しい、もっとやりたい」と思わずといった様子で呟いた。「もっとやりたい。だから来年も来てね」そういって奏でられた『夢、時々…』は、過去の夢を叶えた今年を夢見るように、そして溢れ出る思いを抑えきれないように強く、感慨深そうに鳴り響いた。

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