【drm】ベーシストのワンマンで恐るべしDIY精神を見た
音楽におけるDIYは、曲の自作か、せいぜいライブのプロデュースだけだと思っていないだろうか。
オリジナル曲の同期、声ネタ、カバー曲のアレンジ。こういった音楽的な部分はもちろん、事前に収録されたMCや妙な仮面、果てにはベースでさえ、自身が制作を手がけるdrm。仮面をつけ、プロデュースした赤いベースを携え、たった1人でステージに立つ。
drmは、ニコニコ動画を中心に活動する仮面ベーシストだ。同じく動画サイトで活躍するピアニスト・まらしぃ擁するバンド、logical emotionのメンバーでもある。
という説明で済ませてしまうには、あまりに言葉足らずだろう。彼は、なんというか、とても特異だ。
*
開幕から、エラーが発生した。
会場にサイレンが響く。そこに“直んねえかなー、これ”という特徴的な声―drmの高く加工された声―が聞こえる。“動いたじゃんこれ…止まったじゃんこれ…動いた…!!”という声が、ネジを回すような音と一緒に聞こえてくる。『Rebuild me』の冒頭だ。
“起動準備中です”という機械のナビゲーターの声が、ステージに出てきたdrmのベースの合間に挟まれる。仮面をつけ、黒いニット帽を被るという明らかに異質な格好がdrmの変わった音楽スタイルに説得力を持たせる。この曲は全編通して、機械を治そうと試みるdrmとナビゲーターのやり取りが無機質に続く。展開が極端に少ない曲調はこのやり取りによって面白くなるのだが、drmは同期など構わず、ベースをオーディエンスの目の前で弾いていく。
ところで、drmのベースを「弾く」という言葉で表すのは正しいのだろうか?『たにしげヒッキー』や『ないないない』の歌詞でなんとなく察しがつくが、彼は活発に外に出る方ではないし、積極的にはしゃいで回るようなタイプでもない。そんなdrmの、ベースを持ったときの跳躍たるや。激しくスラップをしながらツーステを踏んだかと思えば、曲に合わせてロボットダンスのような動きをする。独り占めのステージをぴょんぴょんと文字通り跳ね回るなど、何故そんなに激しい動きをしながらベースが弾けるのだろうか。おまけに仮面のせいで視野は狭く、途中ニット帽が目元までずり落ちてくるなどするのだ。それでも怯みもしない両手には、もしかしたら「弾く」などいう機械的な動詞は適切ではないかもしれない。
さて、距離の近いオーディエンスと(ずり落ちたニット帽を直してもらうなど)コミュニケーションを取りつつ、あちこちに飛び跳ねながら洗練された技を間近に見せつけていく。オーディエンスの目の前で太い音をぶっ放したかと思えば、同期の音や歌詞に合わせてメカニックでコミカルな動きをしたりする。尤も、怪しげな仮面をしているおかげで、どんな動きをしたところでコミカルに見えてしまうのだが。
仮面をしたdrmは喋らない。代わりにMCを務めたのは、『Rebuild me』と同じ声をした「天の声」だ。時々オーディエンスに質問をしては「間はこれくらいでちょうど良かったかな」と呟いたり、「晴れてる?…といいなあ」と、事前収録だからこそのちぐはぐなMCで笑いを誘う。
ではdrmはMCをしなかったのかというと、それは間違いだ。なんと彼は、LINEの公式アカウントを使ってテキストでMCをしたのだ。
drmからのLINEをスマホで確認し、オーディエンスがざわめく。drmはそれに対してジェスチャーやLINEで返答する。すっかりdrmワールドに引きずり込まれていた。
メロディをベースで辿り、リズムの緩急もdrm節にアレンジされた米津玄師の『Flamingo』や『ロキ』をはじめとするボカロ曲を披露。drmの手にかかれば、どんなに作曲者の特徴があらわれた曲であろうともdrmの個性が炸裂したアレンジに変身する。
ライブ終盤は『フラワリングナイト』『亡き王女の為のセプテット』をはじめとする東方Projectのカバー曲から、『たにしげヒッキー』『魚8oo』『Navix』といったdrmの代表曲が次々に披露される。音色を変え、一本のベースと同期のみとは思えないくらい多様な音が、生楽器がほとんどないとは思えないくらいの迫力を醸す。ネジを回す音からはじまり、ナビの音声やウィンカーの音、ヘリウムガスを吸ったような加工された声…。これらの音楽とは関係なさそうな音たちが太くてとめどないベースの音によってまとめあげられたとき、drmの音楽は良い意味で本当に狂った音楽になる。彼の演奏するベースには息を呑むほどのパッションが秘められているのだが、ただ「上手い」「すごい」だけではなく、かといって音楽が「変」で「特異」なだけでもない、drmにしか表現出来ないバランスが、面白くて仕方が無いのだ。