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アカデミック読書会(第29回) 開催レポート - 資本主義の始まり-

読書会概要

8/12(木)のアカデミック読書会では、イマニュエル・ウォーラーステインの『近代世界システム I』を課題本とし、「新たなヨーロッパの分業体制はどのようにして確立したか?」をテーマに対話しました。

世界システム論や世界経済の話をする際に避けて通れないのが、資本主義の話です。今回の読書会では、資本主義を中心に対話が進みました。

ウォーラーステインの世界システム論でいえば、封建制から資本主義が生まれる過程において、世界規模で、中核・辺境・半辺境の地域の分業体制が確立し、中核の国が他の国の富を収奪することで生まれた余剰によって生まれ、資本主義が発展したものとします。このプロセスが抵抗なくスムーズに進んだのはなぜか、中核・辺境・半辺境の地域の分業体制という考え方が、現代の社会や経済にも当てはまるのか、などが話題となりました。

資本主義の起源については、マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、宗教的な観点から考察しました。世界システム論とは違った見方で資本主義を多角的に眺めると、資本主義の姿が立体的に浮かび上がってくるのかもしれません。

今回の読書会は、資本主義の始まりについて考えることのできた読書会でした。

読書会詳細

【目的】
・ウォーラーステインの理論をいったん理解したい
・(ウォーラーステインの理論について)ほかの人の解釈を聞きたい、別の切り口で見たい
・先入観念が現れ、切り替えられたらうれしい
・厚みのある本を読み進めるきっかけ、力になるようなものを得られたらうれしい
・未来考察のヒントを得たい

【問いと答えと気づき】
■Q
・現代において貨幣は自由に発行しても大丈夫ですか?
■A
・大丈夫です
・インフレーションには気を付けましょう
■気づき
・世の中でいうところのリフレ派の言っていることは大丈夫?
・(名古屋大学出版会版の)79ページあたりを読んでそう思った

■Q
・なぜ資本主義は16世紀になるのか?
■A
・章の一番最後:16世紀とは何だったのか?
1) 新世界に進出
2) 貯蓄
3) 換金作物
いわゆる大航海時代、貿易、世界の広がり、貴金属が入ってくる、お金が増える
→貯蓄が始まる
→分業体制の起点
4) 誰が誰を支配していたのか容易に識別しえない
■気づき
・儲けたお金を貯める→資本主義の始まり、根源

■Q
・世界規模の分業体制がそもそも収奪的であるか、否か?
■A
・(名古屋大学出版会版の)161ページ:
1) 自由な労働に依拠していない
2) 農業から資本主義への移行が基本にあった
3) 自国の枠組みでは成立しない(収奪する国が必要)
■気づき
・資本主義は収奪をもとにしている
・世界システムは世界規模の収奪システムにならざるを得ない

■Q
・16世紀のヨーロッパの分業体制は現在の体制に当てはめるとどうか?
■A
・価格革命(インフレーション)
・金銀の流入→長期的なインフレ
・賃金の上昇が遅れた
・物価上昇→実質賃金低下→(資本家が)投資→貯蓄
・強制的に労働する(農民からいかに効率よく財産を奪うか)
・誰が誰を支配したか、明確にわからない(複雑)
■気づき
・『父が娘に語る経済の話』
・余剰によって経済が生まれた(農業革命から経済が始まった)
・技術をとったものが勝つ

■Q
・15世紀から16世紀にかけてできた分業体制、自然的に? 意図的に?
■A
・著者は書いていない
・「たまたま」条件がそろった
・それ以降の経過は書いてある
■気づき
・初めのきっかけは自然発生的
・自分は原因と結果と考えている思考方法があるのではないか
・著者は相互作用で考えている
・一国資本主義的な見方ではとらえられない
・歴史書でもあるし、社会科学書でもある
・(ウォーラーステインは)文化人類学的にみている

【対話内容】
■分業は自然発生的
→なんで固まったのか?
→きっかけはあったけれど、プロセスとか要因は何か?

・ヨーロッパが新世界に進出した
・価格革命と賃金上昇の遅れ(差を利用した)
・換金作物の強制労働
・誰が誰を支配しているのかわからない

→(上記のことは)なんでスムーズに進んだの?
・奴隷制、農奴制
・都市と農村の関係
・(ウォーラーステインの)16世紀の当時の状態はいかなものだったのか? →原因は説明していない
→文化人類学はWHYは問わない

■第1章に戻っていくのか?
・(ヨーロッパが世界に進出したのは)ヨーロッパが苦しい状態を打開するため、なのか?
・アフリカは自給自足経済→進出する必要がない
・ヨーロッパは余剰がないと生きていけない
・類書を比較して読まないと見えてこない
・ヨーロッパの技術的な先進性が進出を可能にした→他の地域を征服できた
・縦に長いアフリカ(気候が違う)、横に長いユーラシア(気候が同じ)

■民衆はなぜ反抗できるようになったのか?
・自由にしゃべれる社会は強い

■ウォーラーステインは議論を重ねるものだと言っている
・一国という視点を捨てる(世界システムという仮説)
・世界システムという仮説:中核である国がそうでなくなる、そういう見通しを与えてくれるのが素晴らしい
・日本は伝統的な資産を活かし切れていない、課題がたくさんある
・女性が日本を救う

■世界システムは収奪がキーワードになるのでは?
・収奪によってしか発展できないのでは?
・資本主義に変わるシステムを生み出せないのでは?
・収奪先がなくなる可能性はある
・ウォーラーステインは、資本主義はなくなるだろうと言っていた
・収奪をしない方法(とは何か?)
・収奪とは? すべてのものが増えているのに「収奪」とは違うのでは?
・資本主義と市場は一体ではないのでは?
→モノとアイデア、どちらの視点かで変わる

■資本主義とは? 
(労働するものの自由という観点で)×奴隷制 ×農奴制(移動の自由がない)(資本主義は)労働提供するものの自由がない(採用する人がいないとなりたたない)
・資本主義は人を卑屈にする(資本家に富が偏在している)
・同じ資本主義でもいろいろな在り方がある(ワークシェアリングなど)
・2021年版の序:マルクス経済主義からは話を切り離すのが大事なことと訳注に書かれている
・(ウォーラーステインは)システムではなく、とらえ方の思想的なものを話している


【気づきと小さな一歩】
■気づき
・今を理解するのに歴史を振り返る
■小さな一歩
・全4巻に目を通す
・読書会に続けて参加する

■気づき
・資本主義システムにおける労働形態は、自由な労働に依拠していなかった
■小さな一歩
・資本主義を理論的に分析したり、本をいくつか読む

■気づき
・自然発生的と考えていたが、交易とか貿易とか、封建制が弱くなっていく地域が活路を見出したから
・歴史なり、資本主義の歴史を従来の見方に依存しない。文化人類学的な視点でも社会を超えられる力になる
■小さな一歩
・継続してこの本を読む

■気づき
・16世紀ヨーロッパは資本の蓄積がされた
・今後の日本の経済を考えるきっかけになった
■小さな一歩
・市民ひとりひとりが投資家になるための啓蒙をする

■気づき
・資本主義の在り方、収奪性について読み進められなかった
・資本主義の性質が心に残った
■小さな一歩
・大航海時代、会計の歴史に話で本を探す

※読書会で紹介されていた本
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』

【次回の読書会のご案内】

開催日時・場所:2021年8月26日(木)20:00~21:30 @ZOOM

テーマ:資本主義企業にとって国家はどのような役割を演じたか?

課題本:イマニュエル・ウォーラーステイン著、川北稔訳『近代世界システムI ― 農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立 ―』 ※「岩波現代選書(岩波書店)」「岩波モダンクラッシックス(岩波書店)」「新版(名古屋大学出版会)」どれでもOK

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