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ドリアン助川 ~人生相談の名手2

変わった名前の芸能人のようですが、もともとは90年代にパンクロックバンド「叫ぶ詩人の会」のリーダーとしてかなり有名だった人です。

その当時、NHKの特集番組で一度だけ彼のライブを見ました。名曲「抱きしめたい」を聞いたときには、不覚にも涙する自分がいました。ロックといっても「歌わないロック」と言われ、社会的メッセージ性の強い詩に音とリズムをつけて彼が朗誦するパフォーマンスという感じでした。

バンドを解散してずいぶんしてから、朝日新聞の悩み相談コーナーを担当していることを知りました。読んで、ユニークで心に残る回答に感心しました。新聞掲載時は「明川哲也」と称されていましたが、その後、再び「ドリアン助川」として現在もさまざまな活動をされています。2020年まで5年間ほど、ラジオ名物長寿番組「テレフォン人生相談」でパーソナリティの一人を務めておられ、私自身、好んで聞いていました。
最近では、その名を世間的に有名にしたのは、樹木希林主演の映画「あん」の原作者としてでしょう。

再び、朝日新聞の悩み相談コーナーのことですが、その当時の新聞記事が
手元に残っていないので、ネットで検索すると、いろんな方のブログで取り上げられている記事がけっこうありましたので、当時からドリアン助川さんの人生相談は注目されていたのだなとうれしく思いました。

それでは、ネットで検索できた中から一部のみの断片的な引用になりますが、少し紹介いたします。
(なお、youtube ならたくさん視聴できます)


30代女性からの相談; 「ついつい威圧的な態度を取ってしまう自分の性格を直したいです。」

 明川哲也(元ドリアン助川)さんの回答:
人は何のために生きるのかということに関して、たくさんの人がたくさんのことを言っています。幸せになるために。生きる意味を知るために。愛するために。子孫を作るために。色々です。だから考えれば考えるほど、何のためにという問いかけは難しくなります。
でも、人は何のために生きないのかということなら、そう難しくはありません。たとえばボクは、大きな家を買うために生きません。近頃はやりの細身のスーツを着るために生きません。いばる人になるために生きません。武器を持ち、誰かを殺すために生きません。
おそらくあなたも同じでしょう。生きることの意味を考えると難しくなる。でも少なくとも、威圧的になったり、キレ気味になったりするために生きているのではない。だとすれば頭に血が上った時は、アヘッとでも笑って、私はこのためには生きないときっぱりやり過ごすべきです。ボクはこの方法で、ウルトラ短気を少しだけ直しました。

~~ 確かに、特に若い頃は「何のために生きているのか」と考えがちですが、 少なくとも「そんなことをするために生きているのではない」と考えれば、少し気が楽になって、進む方向が見えてくるかもです。


21歳男子大学生からの相談;「自分は追いつめられないと力を発揮できない。どんな状況でも常に本気を出せる心の持ち方を教えてほしい」

明川哲也さんの回答:
まったく同じ性格ゆえ、ぼくも数々の試験に落ちてきました。まるで過去の自分からメールをもらっているようです。でも、あなたはいいじゃないですか。追いつめられれば力が発揮できるのだから。ぼくは何も発揮できませんでした。
そしてそのまま大人になり、今はもう悩むことすらやめています。・・・きっとあなたもそうでしょう。試験の準備やリポートから逃げている間、あなたは何もやっていないわけじゃない。雑誌を異様に細かく読んだり、試験に全然関係ない本を広げたりしているはずです。
つまり、本番が近付かないと取り組めないようなものは最初から向いていないのです。あらゆることを頑張らなくてはいけないなんて、これは近代日本が植え付けた強制的無意識というもの。ぼくら個人は、やる気が起きる起きないという実に素直なリトマス試験紙でそれに抵抗し、なおかつ自分の生きる道を選び取るようにできているのです。
悩みとは、気付きのためにあるもの。人生は短い。嫌なことならやめ、自ら燃え上がる道で本気になってみて下さい。

~~ 文中の、「本番が近付かないと取り組めないようなものは最初から向いていない」は、核心を突かれた感じです。好きなことなら時間を忘れていつまでも取り組めますが、義務や指示、不得意なことや嫌なことは、はかどらないものです。


20代女性からの相談;「自殺した妹を救えなかった。どう償えばいいのか答えが見つかりません。」

明川哲也さんの回答:
妹さんを追い詰めたのはあなたではない。あなたはあなたの日々を生きて。シンプルにこう書けたら、どれだけいいでしょう。
ごめんなさい。色々と考えましたが、今のあなたを楽にさせてあげられる答えは出てきませんでした。あなたはきっと、妹さんへの後悔を抱えながら、今後も暮らしていくことだろうと思うのです。
・・・大きな哀しみは大きな食べ物といっしょで、細かく砕かないと受け入れられません。辛くて泣いてしまう夜は、人生という大きな時間は放り出して、嵐をやり過ごすようにその一夜だけを乗り切りましょう。絵や音楽や物語や、何でもいい、あなたに寄り添ってくれるものを探して、ともに連れ立ち、その吹き荒れる夜の底を歩くことです。
その道が、そこからの実りが、妹さんと出会えたからこそ拓けていくあなたの日々です。時が癒してくれるのとは別の意味で、今のあなたには想像がつかない鮮やかさや穏やかさが待ち受けているはずです。
歩きながら、それを見つけ出していきましょう。それは償いじゃない。創り上げるあなたの人生です。背負ってしまったからこその、創造的な生き方です。

~~ 身近で大事な人を自分のせいで亡くした、という辛い自己呵責の心境にある人に、このアドバイスが果たしてどれほど有効だろうかと思いますが、「大きな哀しみは大きな食べ物といっしょで、細かく砕かないと受け入れられません。」は、どこかしっくりくるものを感じます。

~~ 時おり思うことではありますが、いわゆる「人間関係の悩み」は、究極の解決姿勢として「他人も自分も赦して受け入れる」ではないかな、と思うのですが、実際にそれを実践するには執着と憎悪、嫉妬が強すぎて難しそうです・・。


30代会社員女性からの相談;「能力もない、美人でもない自分は、つまらない人間に見えてしまいます。こんな気持ちどう変えればいいでしょうか?」

明川哲也さんの回答:
・・・許しちゃった方がいいですよ、美人でもなく才能もなかった自分をです。ちやほやされされたこともないのにここまでしっかり生きてきたんだから。許してあげなよ。攻撃しないの。むしろご褒美をあげたほうがいい。
どういうご褒美かというと、それはね、特別な才能がなくてもたどり着ける世界一の座。何かを好きになることであなたは世界一になればいいの。
好きという感情なら美人じゃなくても持てるでしょ。他人が価値を認めないものでもいいんですよ。
たとえば雲のこと好きになって、雲の写真を撮るために世界中旅行して・・・雲のことならあなただよという立場になるの。
世の中を見返してやろうとお金を稼いで裸で毛皮着られるようになっても、心から笑えないのなら、それは世間に負けたってこと。でも、好き作戦であなたが突き抜ければ、世界は変わるよ。約束。

~~ この箇所、「世の中を見返してやろう・・・心から笑えないのなら、それは世間に負けたってこと」、これは、かなり大事なことに思います。


最後に

以上のように、この方の回答には、視点をガラッと変えてふっと気を楽にしてくれ、しかもこれからの生き方に前向になれるような味わい深さがあります。

ちなみにですが、私の基本的な人生観=人間観は、「自分が自分に期待して思うほどには、他人は思ってはくれていない」です。裏返して言えば、「他人は私に対して、自分がそんな風には思われているはずがない、ということを思っているものだ」です。
これは、懐疑的な悲観論ではなく、中庸的な肯定論のつもりです。平たく言えば、人を当てにしない、見栄や虚勢を張らない、自分でやれることをやろう、ということです。
そこを出発点にして、裏切りと共感、同情と拒否、悪意と寛容、愛と憎しみに満ちた、味方か敵かわからないような無数の他人がいる人生を自分なりのペースで通り抜けてゆこう、という姿勢です。

スキだな、この人・・