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灰色の領域 【ひとりごと・1837字】

 さて、ごはんにするか。ラーメンでも作るかな。小鍋こなべ、と。水入れて、と。こんなもんでいいか。火にかけますよ。はい。はあ・・・。にしても、ひどい・・・。

「収入が3割以上減っていないので、減免の対象にはならないんですよ」

 意味が分からない。ネギはあったかな。切ったやつがまだあったはず。冷蔵庫さん、ありましたよね。あ、あったあった。刻みネギ。あとは、うーん、ゆでもやしがあるね。これも少し入れようか。お湯はまだ沸いてないね。しばし待ちますか。

「2020年の全収入のうち、持続化給付金を除いた分から、今年の収入がさらに3割減っているというのが条件になります」

 なんだそれ。住民税も国民健康保険税も給付金も含めた収入金額にかけてくるのに、減免の対象は給付金を除いた収入からさらに3割減ってないと対象にならないって、そんなえぐい話ありますか。あ、お湯沸いた。麺を入れましょう。2分50秒、タイマーセット。あああ、20分になっちゃった。リセットリセット。2分・・・、ちょっともたついたから、10秒と。

「今年の収入が少なければ、来年は下がりますから」

 来年が来る前に死んでまうわっ! と、おいでやすこがさんの勢いでツッコミを入れましょうか。そしたら大変さが伝わりますか。今年中に死んでしまうっていうのは言いすぎではありますけど。お役人さん、聞いてください。2020年の収入はこれ以上は下がれないところまで下がったんですよ。そこから少しは持ち直したんですけれども、今も海面すれすれの低空飛行、いや、というよりは、もう海面に不時着したけど今はまだ沈んでいないという状態なんです。お役人さん。私はね、診察料が怖くて、病院なんてもう何年も行っていないんですよ。ただ、骨折したり、歯が痛くなったり、とんでもない痛みに襲われたりするようなことがあったときにはさすがに困るからと思ってるんですよ。おっと、あと1分か。もやしを投入。乾燥わかめも少し入れるか。わかめわかめ、と。ぱらりぱらり、こんなもんかな。あ、たまご・・・、たまごも入れたいなぁ。タンパク質が生きるためには必要です。たまごも入れちゃえ。んなぁまぁたぁまぁご。赤ぁまぁむぅしィ。あらら、たまごが沈んじゃった。

「救済措置ですか、あー、ちょっとこちらでは分からないです。ご自身で調べてもらってという形ですね」

 取るときは抜かりないくせに、困ってるって言っても知らん顔ですか。さすがですね。
 持続化給付金の後継の一時支援金やら月次支援金は、審査がとても厳しいそうですね。この支援金は「不備ループ」に陥るっていうのを聞きました。行政書士さんにお願いして書類をつくっても審査が通らないことがあるなんて、そんなにややこしいなら素人にはとても無理じゃないですか。
 新型コロナウイルス感染症生活困窮者自立支援金というのもあります。でもこれは、緊急小口資金と総合支援資金の貸付を受けていないと申請できません。お役人さん、私にとって、借金をするというのは、精神的にハードルがかなり高いんです。ですので、申請できません。お役人さん、私はね、医療保険も、がん保険も、国民年金基金にも入っていないんですよ。病気が見つかったらお金がかかって大変だから健康診断も受けていないんですよ。生きていられる間だけ、ここで生活させてもらいたいんです。今年の収入も2019年の水準に戻せていないんです。だからせめて、税金の減免をお願いしたいんですよ。うわわー、吹きこぼれる。火を弱めて。ふう、危ないあぶない。あと30秒ね。刻みネギ、スタンバイ。箸とレンゲ、スタンバイ。

「送っていただいた書類なんですけど、返送いたしますので」

 たかが数万円のこととお思いですか。あなたの一万円と私の一万円は、違います。私にとっての一万円は、お願いだから返してくださいって、あなたの足元にひざまずいて両手をすり合わせながら拝んで土下座して懇願する、それだけ大事なものなんです。お役人さん、大変なんです。その書類からそれが見えませんか。本当に、分かりませんか。おっ、タイマーが鳴りました。粉末スープを入れて、まぜまぜ。う~ん、いつものにおい。安定してるわ袋麺。そして、刻みネギ投入。コショウを少々。できた。いただきましょう。


 いただきます。─── 何も言えなかったな。

 熱っ。─── 大変だな。世の中も私も。

 あー、暑い。─── 鼻水出てきた。

 メガネが曇って何も見えない。─── ラーメンおいしい。

 ごちそうさまでした。─── さて、片付けるか。

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